改正ワークルールへの対応 職場から改善を現場の声を経営者に伝え法令上回る行動計画に
女性活躍推進法の評価
「女性活躍推進法」の目新しい点は、エリート女性の登用を促す仕組みを作ったことです。政府はこれまで女性を「主婦プラスアルファ」の労働力として活用しようとしてきました。それが今回の法律では管理職登用を増やすことを意識しています。男女間の能力に格差はないので、「使える人材」は「どこまでも使おう」という新自由主義的なねらいも透けて見えます。
しかし、項目が少ないなどの問題はありつつも、管理職に占める女性比率や労働時間の状況などの情報開示義務が設けられたことは、女子学生や投資家が、ワーク・ライフ・バランスなどを裏付けるようなデータで企業価値を判断できるようになることであり、それ自体は悪いことではありません。女子学生や投資家の企業を見る目は今後も厳しくなっていくでしょう。企業も優秀な女子学生を採用したいと思えば、そのことに気づき、いい意味での競争が生まれる可能性があります。
けれども、この法律の最大の積み残し課題は、非正規雇用労働者への対策が不十分なことです。そもそもこの法律は経済政策の一環として発案されました。その法案を審議の段階でようやく少しずつですが女性の人権という視点が盛り込まれるようになりました。
最たる問題点は、労働者派遣法の改悪とセットになっていることです。派遣法の改悪で非正規雇用が増える一方、一部の女性だけを登用しようとするのならば、女性労働者間の格差は拡大するばかりです。恩恵を受けられるのはごく一部の女性で、その他大勢の女性が過酷な労働に追い込まれる懸念があります。総合点では状況はむしろ悪くなったと言えるかもしれません。
女性活躍推進法のポイント
対象:301人以上の労働者を雇用する企業
2016年4月1日までに(1)自社の女性の活躍状況の把握・課題分析(2)行動計画の策定・届出(3)情報公開などを行う
ステップ1 |
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「自社の女性の活躍状況の把握と課題分析」 【必ず把握する項目】(1)採用者に占める女性比率(2)勤続年数の男女差(3)労働時間の状況(4)管理職に占める女性比率 |
ステップ2 |
「行動計画の策定・届出・公表」 (1)行動計画の策定(2)都道府県労働局への届け出(3)労働者への周知(4)外部への公表を行う 行動計画には a)計画期間 b)数値目標 c)取り組み内容 d)取り組みの実施期間を盛り込む |
ステップ3 |
「自社の女性の活躍に関する情報の公開」 |
男女間格差の背景
男女間格差が是正されない背景には男性の長時間労働があります。そこが改善されなければ、女性は仕事と家庭を両立することができず、男女間格差は解消されません。
男性の長時間労働の背景には、日本の雇用管理や人事評価が全般的に機能していないことがあります。非効率な働き方でも長時間の労働力投入でそれなりの結果を出すやり方が評価され続けていることが要因です。この点を変えていくことが決定的に大切です。それができれば、これまで隠されていた性差別が明らかになり、働き方を変えざるを得なくなるでしょう。ただし、この法律でこれまでの雇用管理が見直されるようになるのかどうか疑問はあります。それでも、その問題に気づいたごく少数の経営者は実行を始めています。優良事例を共有する取り組みが有効でしょう。
労働組合の役割
労働組合は行動計画の策定に参画し、現場の声を反映させる機能を果たすべきです。その際には国会の附帯決議を参考にしながら、法律で定められた以上の内容を行動計画に盛り込むよう要求していくべきです。例えば、実態把握や分析を行う際に非正規労働者を含めた雇用管理区分ごとに行うように促したり、男女の賃金格差を実態把握の項目に含めるように訴えたりしていくことができます。
特に男女間賃金格差は非常に重要な指標です。格差の原因が雇用管理区分の違いなのか、勤続年数の違いなのか、昇進ルールに性差別が潜んでいるのか、要因分析を行うことで初めて実効性ある是正策を講じることができるようになります。
特に雇用管理区分ごとに実態把握をすることで、あらためて可視化されることも多いでしょう。女性比率の母数をどこから採るのか、分析方法をチェックすることも大切です。このように行動計画の策定やその後の点検作業に参画することは、組合活動の総点検にもなるはずです。
現場の声を集められるのは労働組合しかありません。組合が独自に集めたデータは労使交渉の際の強力な武器になります。政府や企業のデータに頼るばかりではなく、組合はもう一度現場の実態調査に力を入れるべきです。
この法律はもともと経済政策的な意味合いが強いものでしたが、労働組合の参画次第で改善していくことが可能です。行動計画は4月までに提出する必要があります。その後の点検作業も含めて、これをきっかけに活動を強めてほしいと思います。
今後の法制度の展望
日本には差別に関する基本法が存在しません。国連の女性差別撤廃委員会からも再三にわたって差別の定義を規定すべきとの勧告を受けています。理念的な話のようですが、根幹的な問題だと言えます。
男女間格差の問題で言えば、男女雇用機会均等法に規定されている「間接差別」は、差別に当たる項目の限定列挙にとどまっています。これを例示列挙とし間接差別に当たる差別の定義を広げていくべきでしょう。
女性労働者の半数を占めるに至った非正規雇用の問題では、その解消のためには均等待遇の実現が必要です。その実現には現在の人事体系の全般的な見直しが求められるため、抵抗を感じる企業なども少なくないでしょう。
そこで最低賃金の引き上げが重要になると考えています。最低賃金は世界的に見ても1500~2000円程度に引き上げられる傾向が出ています。日本でも同様の水準に引き上げれば、企業も容易に人材の使い捨てができなくなるでしょう。企業としては高い時給に見合ったスキルを身につけてもらいたいし、それだけコストを掛けた労働者には長期間、働いてほしいからです。
現在の物価水準などを勘案すると日本の最低賃金は低すぎると言えます。最低賃金の引き上げは、組織化されていない非正規雇用労働者と連帯できる課題です。今後の労働運動にとっても大きな課題になると言えるはずです。
労働組合の男女平等
女性活躍推進法の成立は、男性中心の働き方に女性を組み込んでいくものです。むしろ必要なのは女性中心に社会を変えていくことです。それは男性にとっても大きな意味を持ちます。仕事一辺倒の人生から育児に参加したり、地域社会に参加したりできるようになり、男性の生き方も多様で自由になっていくはずです。政党政治が機能不全に陥っている理由の一つには、男性の地域社会への不参加があることを思い返してください。
フランスはパリテ(男女同数)を法的に規定しています。労働組合もぜひこの規定の導入をめざしてください。どうしたら女性の労働組合役員を増やせるのかを考えてほしいと思います。女性役員を増やすのは、目的ではありません。あくまで手段です。女性組合役員を増やすことで組合活動を活性化させる。最終目標は組合活動の活性化です。魅力的な組合運動のために、現在の活動のあり方を見直してほしいと思います。