特集2015.11

改正ワークルールへの対応 職場から改善を国際潮流に反する日本の派遣法「派遣は臨時的・一時的」に再規制を

2015/11/16
日本の派遣法見直しは、派遣労働を規制しようとする国際的な潮流に反するものだ。では、労働者派遣の仕組みをどう見直していくべきか。ドイツの事例を参考にしながら今後の再改正へ向けた方向性を展望する。
高橋 賢司 立正大学准教授

先の通常国会で成立した改正労働者派遣法は、過半数労働組合への意見聴取などを要件に派遣労働者の受け入れ期間制限を撤廃しました。実はドイツにも同様の動きがありました。2002年の「ハルツ法改革」で派遣労働の受け入れ期間制限を撤廃したのです。ですが、ドイツはその後、方向転換します。11年の法改正で、「派遣労働は一時的な労働である」とする原則を導入し、一時的な労働に見合うもの以外は派遣の受け入れを認めないとしたのです。さらにドイツ連邦労働裁判所は無期限の派遣労働の受け入れを違法とする判決を13年に下しました。

メルケル政権は、派遣の受け入れ期間制限を18カ月とする項目を連立協定に明記しています。この協定に明記されている「法定最低賃金」はすでに法制化されましたし、「請負労働」に関する法案も今秋に提出される予定です。派遣期間の制限に関しても、ほぼ間違いなく再規制の方向に進むでしょう。

厚生労働省はドイツの「ハルツ法改革」を雇用政策のお手本として高く評価してきました。しかし、フランスは派遣労働を一時的なものとして規制していますし、ドイツは期間制限を再規制する方向に転換します。日本の法改正は、国際的な潮流に反するものだと言えます。

連合が主張した改正労働者派遣法の問題点
1 派遣は「臨時的・一時的」な働き方との原則が骨抜き
2 雇用安定措置に実効性がない
3 派遣労働者の根本的な処遇改善策が講じられていない
4 キャリアアップ措置に実効性がない
5 「正社員化を促進する」根拠が明確でない
6 立法のプロセス等に問題あり

ワーキング・プアの増加

ドイツが再規制に舵を切った背景には、派遣の期間制限を撤廃した結果、低賃金のワーキング・プアが増加したことがあります。ドイツの公共放送が「現代の奴隷労働」と称してこの問題を取り上げるなどして、低賃金の派遣労働は社会問題だとする認識が世間に広がりました。ドイツの派遣法にはたしかに派遣労働者を保護するための同一賃金原則規定がありました。しかし労働協約を締結すれば適用除外にできる例外規定が設けられたことで低賃金労働者が大量に生み出されてしまったのです。

こうしたドイツの事例を参考にすれば、同一価値労働同一賃金推進法の施行が先延ばしになり、かつ派遣の期間制限が撤廃されることで、日本でも派遣労働の広がりによるワーキング・プアの増加が懸念されます。

派遣労働の前提を覆す改悪

ドイツ連邦雇用エージェンシーの調査によると、ドイツの派遣労働者は、ハルツ法改革以降増加してきましたが、11年の政府の方向転換以降は、景気上昇局面においても増加していません。反対に正社員など社会保険義務のある雇用が増加しています。

その背景には二つの要因があります。一つは前述したように、派遣は一時的な労働であるとする原則を導入したこと。もう一つは、派遣労働者の最低賃金(2015年4月1日から2016年5月31日まで、Aの州で8.20ユーロ、Bの州で8.80ユーロ、毎年更新)を設定したことです。これにより派遣労働は、社会保険料や派遣契約のマージン料を含めれば、低コストと言えなくなりました。こうして派遣を一時的なものに限定し、最低賃金保障を明確にすることで、直接雇用が促進されたのです。

派遣労働を一時的とする原則はお題目ではありません。規範的にも雇用政策的にも大きな意味があります。規範としては無期や長期の派遣労働を許さないということ。雇用政策としては常用代替を防止し、直接雇用を促進することができます。このように見ると、日本の改正法は、「一時的な労働」のもつ、直接雇用を促進する雇用政策上の機能を阻害し、大きな問題があると言えます。

質の高い労働を重視

一時的な需要に対応するために、柔軟なマッチングが大切であることは否定できません。EUでもフレキシブルな労働の重要性は認識されていて、間接雇用そのものが否定されているわけではありません。けれども、その一方でEUは雇用の安定性を重視していることを知る必要があります。

たしかに派遣労働は一時的な需要に対応しやすいかもしれません。しかしその半面、長期的な需要がある場面では、なぜその仕事が派遣労働でなければいけないのか問われなければなりません。長期的な需要があれば、直接雇用して教育訓練した方が企業の見返りも大きくなります。EUの労働政策は、低賃金を生み出しやすい派遣労働に歯止めをかけるという観点を重視していると言えます。

このようにEUでは柔軟性と安定性を組み合わせた「フレキシキュリティ」が重視されています。日本で言われるように「失業しなければいい」「雇用が増えればいい」のではなく、「質の高い労働」を増やそうとしています。ドイツの使用者も日本の使用者と同じように解雇規制が厳しいなどと訴えます。労働組合はこうした言説に対抗する理念を掲げ、提言していくことが必要になるでしょう。

ドイツ事業所委員会の事例

ドイツでは、労働組合とは別に組織される「事業所委員会」が派遣労働問題に取り組んでいます。自動車メーカーのオペルは、派遣労働者の割合を従業員の3%以内に抑える取り決めをしました。シーメンスは事業所協定で派遣労働者の受け入れ上限を18カ月とし、それを超えた場合は直接雇用するという規定を設けました。日本の労働組合も参考にしてほしい取り組みです。

日本の労働組合にとって大きなポイントは、10月1日から施行された「労働契約申し込みみなし制度」です。違法派遣があった場合は民事請求権が認められるので、派遣先に団体交渉応諾義務が生じることになります。これまで中労委で派遣先での直接雇用について団体交渉応諾義務が認められなかったことを考えると、労働組合はこの規定を十分に活用していくべきでしょう。違法派遣は複数の事項が生じている場合があるので、きちんとチェックし、直接雇用に向けた団体交渉を要求してほしいと思います。

派遣法再改正の方向性

派遣法を今後どう見直していくべきでしょうか。私は派遣労働が一時的だとする原則を確立する再規制が大切だと考えています。

その際、受け入れ期間の上限をどの程度にすべきでしょうか。労働力を使い切ることを想定すると3年でも長いと考えます。フランスは、派遣労働を受け入れる際の理由を定義づけする「入り口規制」を設けています。こうした規定を設けるのか、それとも「期間制限」だけで足りるのか議論が必要です。また、その際には受け入れ期間を延長できる例外規定も廃止すべきでしょう。派遣労働はあくまで一時的な労働です。常用代替を防止し直接雇用を促進することが重要です。

もう一つは、均等待遇です。賃金のみならず、一時金や手当などの労働諸条件に関しても視野に入れていくべきです。比較対象者の問題では、意欲や能力といった主観的な要素を排除し、職務内容や責任の程度などといった客観的な要素で比較するべきです。

今回の法改正は、派遣労働を一時的なものとして規制し、雇用の質を高めようとする国際的な潮流に反するもので大きな問題があります。非正規労働者が増え続ければ、社会保障や税収に影響し、国家の破たんも視野に入ります。国全体の問題として考えるべきです。

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