特集2017.01-02

分断社会を乗り越えろ!若者就労支援「静岡方式」の強み「地域は資源のオアシス」だ

2017/01/17
「ひきこもり」や「ニート」などの若者に対する就労支援で注目を集める、青少年就労支援ネットワーク静岡の「静岡方式」。地域の分断を乗り越え、住民たちがつながる活動のあり方を取材した。

仕事は「完全栄養」

「どんな人でも働ける」。それが「静岡方式」の信念だ。

「静岡方式」とは、青少年就労支援ネットワーク静岡(2002年発足、2004年NPO法人化)が行う若者就労支援の方法を指す。理事長の津富宏さん(静岡県立大学教授)はこう語る。

「働くことで人は変わる。仕事に人をつなげ、その人を変えていくのは、地域つまり人のつながりです」

津富理事長は大学卒業後、法務教官(少年院の教官)を務めた後、2002年に静岡県立大学の教員となった。転職後、すぐに就労支援に取り掛かった背景には、法務教官時代の経験がある。津富理事長は「決定的だった」と話す。

「働けるか、働けないか、それが再犯率に大きく影響していました。少年たちにいろいろ言っても、全部をやってもらうのは難しい。けれども、仕事だけはがんばろう。そうやって一つに絞ると若者たちはがんばれる」

なぜ「仕事」なのか。それは仕事が「完全栄養」だからだ。津富理事長はこう話す。「仕事にはいろいろな要素があります。人間関係、生活リズム、お金の管理、仕事への誇り─。私は仕事を〈完全栄養〉と呼んでいます。働くことで若者の人生は変わっていくのです」

「静岡方式」の就労支援

「静岡方式」の特徴を見てみよう。(1)どんな人でも受け入れる(2)何をしたいか本人の希望を優先する─が大きな特徴だ。支援はどんな人に対しても行われるし、就労体験や就職活動では本人の希望を叶えることが優先されている。

具体的な就労支援の方法を見ていこう。就労支援はまず若者就労支援セミナーの開催から始まる。セミナーは定員20人で年2回の開催。静岡県全域を対象に開催される。半年を1クールにした全5回のプログラムだ。

最初のプログラムは、事前セミナーの開催。参加した若者は、学生ボランティアなどと交流し、対人コミュニケーションへの不安を和らげる。続いて、2回目のセミナーは宿泊形式で開催される。ここではボランティアスタッフとさらに交流を深めながら、やる気を引き出していく。

3回目のプログラムは、保護者を交えたワークショップ。ここで、若者と保護者、若者を支援するサポーターとの三者面談が行われる。4回目のプログラムは就労体験受け入れ先企業による説明会、個別面談がある。

5回目以降は、個別サポートだ。若者に「担当サポーター」がつき、伴走型で6カ月間、若者を支援する。若者はサポーターの支えを受けながら、就労体験や就職活動を行っていく。

若者を支えるサポーター

これらの活動を支えているのがサポーターの存在だ。サポーターは、地域のボランティアの人びとだ。現在、静岡県内で500人超が登録している。サポーターの人たちの経歴はさまざま。登録に当たって必要な資格はない。「市民こそ地域のことを知る専門家」「地域は資源のオアシス」という「静岡方式」のモットーに基づくものだ。NPOの常駐職員もいるが、活動の多くは地域のサポーターによって支えられている。

「静岡方式」は伴走型支援が特徴だ。支援を受ける若者1人に対して、担当サポーターが2~3人つく。担当サポーターは、若者の相談にのったり、就労体験先を紹介したり、メールで励ましたり、仕事の体験談を話したりする。

担当の割り振りは住んでいる地域で決められる。近所に住んでいるので、ときにはお互いの自宅を行き来して、相談に応じたり、雑談したりすることもある。もちろん、すべてのボランティアが担当サポーターになるわけではなく、セミナーやフォローアップミーティングに参加して若者の話し相手になったり、就労体験先を紹介したりするだけの人もいる。このようにサポーターの人たちは、若者たちと交流しながら、彼・彼女たちのやりたいことに導くための手伝いをしている。

サポーターのやりがい

ボランティアの一人、福島久美子さんは、元高校教員。教員時代に通信制高校の卒業生たちが就労できない現実を目の当たりにしていた。

福島さんはこれまで10人弱の若者の担当サポーターを経験した。「週1回とか月1回とか、お茶を飲みながら若者と話をします。若者がやりたいこと、興味のあること、行ってみたい場所を聞きます。それから、就労体験先を紹介して、また話を聞いて。そうしているうちにあっという間に6カ月がたちます」と福島さんは話す。ポイントは本人の希望を大切にすることだ。

NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡スタッフの中村圭志さんは、「若者がやってみたい仕事があれば、その企業に直接連絡して、見学と就労体験を申し込みます。受け入れてもらえることが多いですね」と話す。この活動が始まった当初は、ボランティアのメンバーが「飛び込み営業」で就労支援先を探した。地縁、血縁、校縁という縁をフル活用して、若者の希望を叶える支援を展開している。

サポーターの皆さんのやりがいは何だろうか。ベテランサポーターの吉野光洋さんは、「若者が自分で動いてくれるときですね。いつもという訳ではありませんが、彼・彼女たちの秘めたパワーを見つけると感動します」と話す。同じく中村さんも「仕事を始めた若者が、数カ月後に見違えるような顔つきになっている。そのたびに感動します」と語る。仕事の「栄養」をたっぷり摂取して成長する若者の姿を見ることがやりがいにつながっている。

梶山幸子さんは、「若者は一人ひとり違っていて、万能薬はないと思っています。大人にもいろいろな人がいるし、若者もいろいろ。その中で誰か気の合う人がいればいいなという思いで私は参加しています。友達や親とは違う話し相手になれれば」と語る。

他方で、こういうやりがいもある。福島さんは、「職場と自宅の往復だった人生がガラッと変わった。地域に娘・息子がたくさん増えた感じ。地域で生活している感覚があります」と語る。また、9月にボランティア登録した石井貞夫さんは、「地域との接点を増やしたくて登録した」ときっかけを語る。この活動が住民同士のつながりを再構築する役割を果たしている。

若者の反応

支援を受けた若者はどう感じているだろうか。今年8月にこの活動を通じて就労体験した大森健吾さんはサポーターとのつながりについて、「すごく安心します」と話す。

「親と違う大人の人と話す機会があるのは、親以外にも見守ってくれる人がいる。それだけでもがんばらなきゃという気持ちになります。困ったときに相談できる安心感があります」

大森さんは学習塾で就労体験した。この経験を通じて「自分が何を好きなのかわからなかったけれど、就労体験を通じて見えてきました。働くのは1年半ぶりで、すごく不安でしたが、弾みがついたと思います」と話す。

また、大橋麻衣さんは、「就労体験を通じて、自分にできることとできないことがわかった。それでもっと前向きになれた」と話す。

これらの活動を通じて、セミナーに参加する若者20人中、16~18人は就労すると津富理事長は話す。若者同士の横のつながりも生まれている。

活動参画の検討を

若者就労支援を展開する「静岡方式」は、地域の市民ネットワークによって成り立っている。労働者であると同時に地域の住民でもある労働組合の組合員は、自分の住む地域の雇用問題に携わることで、地域の一員として新しいつながりを持てるようになる。それは地域の新しい活力を生み出すとともに、地域人としてのやりがいをもたらしてくれるだろう。現役の労働組合員だけでなく、退職者も含めて、こうした活動への参画を検討できるはずだ。

ボランティアへの参加は、青少年就労支援ネットワーク静岡のホームページで随時募集している。

若者就労支援「静岡方式」とは?

  • 専用の「場」を持たない
  • 支援はすべて若者に無償で行う
  • ボランティアサポーターによる伴走型支援
  • 終わりのない継続支援
  • 支援する若者の住まいに近く住むサポーターが担当
  • サポーターは「おせっかいな」おじさん、おばさん
  • 居場所や訓練を経ず「ゴール(職場)に一直線」
  • 地域は資源のオアシス
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