特集2021.05

気候変動対策 学び、行動しよう
迫る気候変動のリスク 知識を得て行動につなげよう
SDGsの目標を掛け合わせ
マルチベネフィットを生む

2021/05/18
2030年までの国連の開発目標であるSDGs「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」。気候変動対策のためにも欠かせない国際目標だ。どのような視点が大切なのか、識者に聞いた。
遠藤 理紗 NGO「環境・持続社会」
研究センター(JACSES)

気候変動対策の四つの視点

SDGsには、17の目標と169のターゲットがあります。「気候変動に具体的な対策を」は、目標13として掲げられています。

気候変動対策に取り組む際には、四つの視点が大切だと考えています。

一つ目は、気候変動対策に取り組む目的です。メディアでは、排出削減目標などの数字が取り上げられがちですが、気候変動対策の究極的な目標は、気候変動に伴って生じる悪影響や被害を抑えることです。日本でも、気候変動に伴う自然災害はすでに起きています。農産物などへの悪影響が生じたり、豪雨や台風による被害も出たりしています。国会では昨年、気象非常事態宣言が決議されました。削減目標という数値を定めることも必要ですが、被害を最大限防ぐという目的を押さえておくことが大切です。

次に、意識してほしい点は、国を越えた排出削減の重要性です。日本が排出する温室効果ガスは、エネルギー起源の二酸化炭素が9割を占めています。しかし、世界全体でみるとエネルギー起源以外の温室効果ガスの排出が3割を占めます。例えば、森林火災に伴う二酸化炭素の排出や、冷媒で用いるフロンガス、廃棄物などから生じるメタンガスなどもあります。温室効果ガスは国境を越えて影響するため、日本は国内の温室効果ガスの削減にとどまらず、海外支援を展開することも大切です。

三つ目は、実際に出ている被害に対する「適応策」の強化です。気候変動に伴い生じる悪影響や被害をどう軽減するかを検討するのが「適応策」です。「適応策」は、温室効果ガスの削減がメインの取り組みの中であまり注目されてきませんでしたが、実際に気候変動に伴う被害が大きくなる中で必要性が高まっています。今年1月には、「気候適応サミット」が初めて開催されました。2050年に温室効果ガスの削減をゼロにできたとしても、その間、気候変動に伴う被害は生じ続けます。温室効果ガスの削減と「適応策」を車の両輪として取り組む必要があります。

四つ目は、透明性の確保です。各国が目標を定めたとしても、その内容や実績が正確でなければ意味がありません。モニタリング機能の強化や透明性の確保がますます重要になっています。

このように、目標13「気候変動に具体的な対策を」の実現のためには、こうした視点も押さえておくことが大切だと思います。

マルチベネフィットを生む

SDGs全体の中で、気候変動対策はどう位置づけられるでしょうか。SDGsには、17の目標と169のターゲットがあります。それぞれ目標やターゲットが、その効果を打ち消し合ったり、バッティングしたりすることはあります。例えば、気候変動対策と経済成長の関係は、そうとも言えるでしょう。また、それぞれの目標が、人員や資金、リソースの配分を奪い合うこともあります。

しかし、そこで大切なのは、トレードオフやリソースの奪い合いではなく、マルチベネフィットをどうやったら生み出せるかを考える視点です。一つの例として、気候変動の影響は、立場の弱い人たちにより強く影響します。気候変動対策に取り組むとともに、貧困や失業などで苦しむ人たちにどのような特別な支援を提供していくのか。目標を掛け合わせながら対策を進めることが重要です。

雇用と気候変動の問題も同じです。脱炭素社会の実現過程では、旧来の産業で働く人たちの雇用が失われるということも起こり得ます。新しい産業で雇用をどう生み出すか、旧来の産業で働いていた人たちの雇用をどう守るのか、二つの課題を掛け合わせて検討しなければいけません。すでにEUでは、「ジャスト・トランジション(公平な移行)」という考え方の下、基金が創設され、雇用対策に巨額の資金が投じられることになっています。このように、課題ごとのトレードオフを防ぎ、マルチベネフィットを生み出す方向で対策を考える。その際には、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を生かすことが非常に重要です。

企業とSDGs

企業はSDGsにどう取り組むべきでしょうか。企業とSDGsについては、すでにさまざまなガイドラインや経営ガイドが公表されています。

気候変動対策では、自社が排出する温室効果ガスを削減することに、すでに多くの企業が取り組んでいます。一方、サプライチェーンも含めた「適応策」の強化という点では、取り組みはあまり進んでいません。サプライチェーンのグローバル化によって、国外工場が増えています。国外工場が自然災害の被害を受けると、本国の経営にも影響を及ぼしますが、国外工場の「適応策」の強化はあまり進んでいません。企業は、国内における自社の温室効果ガスの削減だけではなく、グローバルサプライチェーンの「適応策」も強化してほしいと思います。例えば、情報通信系の企業であれば、日本国内の技術やノウハウを使って、早期警報システムなどの防災システムをサプライチェーンの「適応策」に活用できるかもしれません。

このように企業がSDGsに取り組もうとする際は、自社の持つ技術やノウハウをSDGsに結び付けて検討することが大切です。情報通信企業で考えるとすれば、リモート教育の普及は、目標4「質の高い教育をみんなに」につながりますし、インターネットインフラの普及は目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」や目標11「住み続けられるまちづくりを」につながります。

働く人たちは自社の持つ強みをよく理解しているはずです。その視点からSDGsで何ができるのかを考え、会社に提案するのもいいかもしれません。労働組合は、組合員の声を集め、SDGsの観点から会社に提案することもできるのではないでしょうか。

身近なことに結び付ける

SDGsに対して、グローバル社会や国が取り組むべき課題という意識を持つ人も少なくありません。けれども、SDGsで取り組める課題は私たちの身の回りにあります。その関係がわかるとがぜんやる気が湧いてきます。

例えば、女性がより質の高い職に就くための教育訓練と気候変動を結び付けたらどうか。これまでは個別の課題だったものが、SDGsによって相乗効果を生み出す関係が構築しやすくなっています。そのように自分ができる身近なことと、気候変動をはじめとしたSDGsの課題を結び付けることで、社会を動かしていく。皆さんの持つ力を発揮してくださることを期待しています。

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