特集2021.05

気候変動対策 学び、行動しよう
迫る気候変動のリスク 知識を得て行動につなげよう
身近な自然から
プラスチックごみ問題を知り、行動を

2021/05/18
海洋生物の生態系の破壊につながるとして、近年深刻化している「マイクロプラスチック問題」。プラスチックごみはどこから出ているのか。身近な自然と触れ合う中で、学び、行動していこう。
藤森 夏幸 NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム事務局
SDGsプログラムコーディネーター

調べるごみ拾い活動

クリーンエイドとは、CLEAN(きれいにする)とAID(助ける)を合わせた言葉です。荒川クリーンエイドは、「ごみを拾って、自然が回復することを助ける活動」を1994年から行っています。

昨年は新型コロナウイルスの関係で活動がほとんどできませんでしたが、例年は荒川流域での清掃活動を年間約150回開催。およそ1万2000人が参加しています。

150回のうち100回は、「調べるごみ拾い活動」を行っています。拾ったごみを分類し、データとして「見える化」する活動です。分類方法はICC(Inter national Coastal Cleanup Campaign)という世界基準の手法にのっとっています。

拾ったごみを分類すると、大半が生活系のプラスチックごみです。2019年の場合、全体の64%が飲食系の容器・包装で、19%が飲食系以外の容器・包装でした。項目ごとに並べると、飲料ペットボトルが最も多く、食品のポリ袋、食品のプラスチック容器、食品の発泡スチロール容器──と続きます。

こうしたごみは、街中から河川に運ばれてきます。大雨や台風があると多くのごみが河川に流れ出てきます。河川敷でのレジャーで出るごみもあります。捨てられたごみが河川に集まってくるのです。

ごみ問題の移り変わり

清掃活動が始まった1994年当時は、たばこのフィルターや飲料缶が拾われるごみの1位と2位を占めていましたが、2009年になるとペットボトルが1位に、食品などのポリ袋が2位になりました。現在もその傾向が続いています。

たばこの回収数が減っているのは、紙巻きたばこの販売本数が年々減少するなどの社会的な要因が背景にあります。一方、ペットボトルの生産量は1996年から2015年にかけて3倍以上に増加。1996年に小型のペットボトルの生産が解禁されたことが影響しています。生産量の増加とともに、回収されるごみの量も増えていて、清掃活動で拾われるペットボトルは年間3万本に上ります。プラスチックごみは、大きな社会問題になっています。

マイクロプラスチック問題

捨てられたごみは、環境にどんな影響を与えるでしょうか。大きく4点挙げられます。

一つには、一般的に景観が悪くなります。次に、動物への直接的な被害があります。捨てられたごみが動物の身体に絡みついたり、動物がごみを誤飲したりします。

三つ目として、植物への被害もあります。ごみが土に覆いかぶさると植物の生育が阻害されます。

四つ目には、土壌環境の悪化が挙げられます。プラスチックごみが土に重なると、土が酸素を取り込めなくなり、「嫌気状態」となります。「嫌気状態」になると、そこに嫌気性菌が増殖し、メタンガスやヘドロ臭が発生します。

荒川の河口付近や干潟には、土とプラスチックごみが1対1の割合になっている場所があります。そこで多く拾われるのが、マイクロプラスチックと呼ばれるものです。マイクロプラスチックの多くは、プラスチック製品が風化したり、水の流れや紫外線でばらばらになったりしたものです。例えばベランダに干していた洗濯ばさみがばらばらになった経験はありませんか? そのばらばらになったプラスチックがまさにマイクロプラスチックです。それらが荒川の河口で堆積しているのです。

堆積物の中にはレジンペレットと呼ばれる、プラスチック製品の原材料も多く含まれています。荒川流域のどこかから流出したものだと考えています。

これらのマイクロプラスチックは、生態系に大きな影響を与えているだけではなく、私たちの健康への悪影響も懸念されています。川から海に流れ出たマイクロプラスチックは、食物連鎖を経て私たちの目の前に戻ってきます。プラスチックには油を吸着する性質があります。マイクロプラスチックが有害な油を吸着し、それを微生物が食べ、小魚が食べ、大きな魚が食べ、「生物濃縮」された結果、私たちの食卓に戻ってくるのです。

オーストラリアでは、人々は1週間でクレジットカード1枚分(5グラム)のプラスチックを食べているという研究もあります。年間では250グラムです。マイクロプラスチック問題は、私たちの健康とも密接にかかわっています。

処理しきれないごみ

プラスチックは年月をかければ、最終的に水と二酸化炭素に分解されます。しかし、その期間は、レジ袋では80年、ペットボトルでは450年かかるといわれています。現在のような大量生産が続けば、プラスチックごみが分解される前に、新たなごみがどんどん堆積していくことになります。ごみを減らしたり、そもそもの生産量を減らしたりしなければ、問題の解決につながりません。

プラスチックごみは、処理の問題も懸念されています。中国は2018年、プラスチックごみの輸入を禁止しました。それにより、ごみの行き場が失われました。環境省の発表では、ごみ埋め立て地の寿命は全国平均で約16年と言われています。大量生産から生み出されたごみをどう処理するか、重要な問題です。

また、日本はリサイクル率が高いといわれていますが、多くは「サーマルリサイクル」と呼ばれる、ごみを焼却する際に発生する熱エネルギーを回収する方式によるものです。素材自体をリサイクルしているわけではないので、リサイクルではないと海外から批判されることもあります。また、焼却の際に二酸化炭素を出していることから、気候変動の観点からも問題があります。

Think Globally, Act Locally

市民や企業に何ができるでしょうか。まずは現場に来て、現物を見て、現実を知ってもらうという「三現主義」が大切だと思います。その上で、企業や組織として社会に対して何ができるのか検討してほしいと思います。

近江商人の言葉として、「三方良し」(「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」)という言葉がありますが、その考え方を現代に即して発展させたのがSDGsではないでしょうか。現在の事業をSDGsにあてはめるだけではなく、社会変革を実現するような事業を新たに展開するような活動を期待しています。

消費者の役割も大切です。企業がプラスチック製品の生産を減らせないのは、消費者がそれを求めているからでもあります。消費者が行動を変えれば、企業の行動を変えることができます。「リデュース(減らす)」「リユース(繰り返し使う)」「リサイクル(再生する)」の「3R」に加えて、情報収集・情報発信などのプラスアルファの行動に取り組むことが大切だと思います。

社会を変えるためには、政治に関心を持つことも重要です。環境に対する政策に関心を持ってもらい、投票行動などに反映してほしいと思います。

「Think Globally, Act Locally(地球規模で考え、足元(地域)から行動せよ)」という考え方が、ますます重要な時代になっています。身近な自然に触れることが意識の変革につながります。身近なことから一つひとつ実践を始めてほしいと思います。

河口付近などに堆積するマイクロプラスチック
(荒川クリーンエイド・フォーラム提供)
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