政治のなぜ?を考える
政治にまつわる疑問を考察政権交代はなぜ重要なのか?
政治と民意のずれを埋める
議会制民主主義のメリット
政権交代はなぜ大切なのでしょうか。まず議会制民主主義のメリットから考えてみましょう。
議会制民主主義のメリットは、民意を統合し安定させることにあります。どのような国や時代でも、社会には多様な意見があります。そうした多様な意見を平和的に統合し社会を安定させられることが議会制民主主義のメリットです。
民主主義によって社会が安定すると、将来に対する予見可能性が高まります。それにより将来のビジネスや暮らしが設計しやすくなります。独裁主義の場合、体制が転覆する可能性があるので、このような安定性は望めません。
また、複雑化する社会の問題を解決するためにも議会制民主主義が有効です。権威主義の社会では、権力者の一つの視点に頼りがちで、解決策も問題を見えなくするだけのこともあります。これに対して民主主義は、さまざまな視点に配慮しながら問題を解決しようとします。こうした営みが、自分の思いが政治に反映されているという人々の実感につながり、政治と民意が合致しているという手応えになっていきます。
政権交代のないデメリット
政権交代はあくまで手段の一つであり、大切なのは政治が民意と合致していることです。その点、支持率の低さを踏まえると現在の政権は民意と合致していると言い難いでしょう。
政権交代のないことのデメリットは、ここから生じます。民意と合致していない政権運営が長期化すると、民意と合致しない国家方針に基づく政策が既成事実として積み重ねられ、政治のあり方が民意から乖離してしまいます。そうすると自分の意見が反映されないと感じる人が増え、政治に対する諦めのような空気が醸成され、政治と民意の乖離がさらに広がるという悪循環が生まれます。これは政権交代のないことのデメリットです。
日本の選挙制度も、政治と民意との乖離を助長しています。小選挙区制度は、民意を「デフォルメ」する制度です。例えば、ある選挙区でA候補が6万票、B候補が4万票、C候補が1万票を得た時、小選挙区制度において議会で民意を代表するのは、A候補だけで、残りの候補の民意は議席の上では切り捨てられてしまいます。そのため小選挙区制度は、一部の民意をより大きくデフォルメして見せる制度なのです。
小選挙区制度では、当選者が1人しかいないことから、「地盤・看板・かばん」のような資源を持っている人や、選挙で勝つために政治活動に集中しなければいけないため生活実感から乖離した人が候補者に選ばれやすいという側面もあります。
これらの結果、自分の意見が反映されないと感じる人が増え、政治と民意の乖離が進行しています。
こうして日本では政治と民意との乖離が生まれ、政治に対する「諦め感」が生まれています。同時に新自由主義的な「自己責任」の政策や風潮とも相まって、政治に期待しない人も増えています。こうした状態が招くのは、不満のはけ口としての、より過激な政治勢力の台頭です。過激な選挙妨害などそうした傾向はすでに現れています。議会制民主主義のメリットである民意の統合と安定が失われる危険性があります。
解散権行使の問題
日本の場合、政権交代が起きにくい仕組みもあります。
その一つは、首相による自由な解散権の行使です。首相が自分の都合の良いときに解散権を行使できると、与党に有利なその時の瞬間風速的な情勢が、その後の議会構成を固定化することになります。これは政権交代が起きづらい原因の一つでもあり、民意との乖離が起こりやすい原因ともなっています。
もう一つは、いわゆる「1票の格差」が大きく、自民党の強い地域が議席数に反映されやすい仕組みになっていることです。
アメリカやイギリスも小選挙区制度の国ですが、政権交代は起きています。アメリカやイギリスで政権交代が起きている背景には、政党のスタッフやボランティアが日常的に有権者と接することで民意と政治との乖離を埋める作業をしていることがあります。そのことが政党と有権者の距離を縮めて政権交代の原動力の一つになっています。
日本では小選挙区で当選を続ける野党議員はいますが、党としての強さというより、個人としての強さの方が先行しています。政党と有権者の距離をどのように埋めるのかは政権交代のためにも重要な課題だといえるでしょう。
政権交代のメリット
議会制民主主義における政権交代は、同じ体制の枠内で国家方針を転換できる唯一の方法です。権威主義国家では国家方針を変えるためには革命やクーデターが必要ですが、民主主義の国では革命を起こさず、国家方針が転換できます。体制を変えずに国家方針を変えることができるのが政権交代のメリットです。
現在の日本の体制とは、日本国憲法と日米安保条約の二つに規定されています。政権交代は現行の体制を覆すことなく、国家方針を変えられます。
国家方針とは政策の大前提となる方針です。例えば、自民党でいえば経済成長優先主義であり、立憲民主党でいえば生活者を優先した支え合い、助け合いのビジョンです。政権交代を通じて、有権者はどのような国家方針に基づく政策を実現していくのかを選択できます。
しかし、政治と民意の乖離が大きく政治に対する「諦め感」が広がってしまうと、野党第一党という「もう一つの選択肢」があることすら実感しなくなってしまいます。
こうした民意との乖離を埋めるためにも、まずは9月に予定されている自民党や立憲民主党の党首選挙で候補者が国家方針となるビジョンを示し、しっかり議論してほしいと思います。「無風」が一番よくありません。これから来年にかけて国政選挙が予定されています。衆議院は来年秋に任期を迎え参議院選挙もあります。社会全体でこれからの日本をどうするのかを議論することが重要だと思います。
いろいろな人が意見を述べ、議論をすることが、有権者が自分たちに変える力があると気付くきっかけになります。その点、労働組合は、さまざまな場所で議論の場をつくってほしいと思います。
政治と民意を合致させるために、政権交代という機能を有効に活用することが社会の安定のためにも重要です。