特集2024.07

政治のなぜ?を考える
政治にまつわる疑問を考察
政治とのつながりを実感してもらうために
背景にあるプロセスを丁寧に伝える

2024/07/12
政治とのかかわりを実感できない人は多い。さらに仲間の代表を政治の場に送り出すことに実感を得られない組合員もいる。政治のプロセスを丁寧に伝えることが重要だ。
上西 充子 法政大学教授

何をしても変わらない雰囲気

政治が変わるという実感は私にもありませんでした。選挙権を得てから投票に行ってはいましたが、その候補者が当選するわけでもなく、政治とのかかわりをあまり感じられませんでした。

それが少し変わったのが、1995年の「村山談話」でした。このとき政府が日本の侵略を認めて謝罪した動きを見て、政治が変わることもあるのだなと実感しました。

その後、小泉政権や安倍政権があって、2009年に民主党に政権交代します。民主党政権の「子ども手当」は、所得制限を設けないユニバーサルな手当でそれまでの政策とは一線を画すものでした。政権が変わったことによる変化をここでも実感しました。

ただ、その後は長く自民党政権が続き、政治が変わるという実感を得づらくなっていると思います。何を言っても変わらないという雰囲気も感じます。例えば、安保法制は数の力で強引に通されてしまいましたし、多くの反対の声がありながら成立してしまった法案もあります。

その一方で、改悪を食い止めた法案もあります。例えば、裁量労働制の拡大を撤回させたり、高度プロフェッショナル制度に歯止めをかけたり、そういう成果はいくつもありました。

第三者から見ると、これらの成果は労働組合や野党の運動によるものとは見えないでしょう。それらの決定の判断を下すのは、最終的には政府・与党だからです。でも、よくよく見ると労働組合や野党が粘り強く求めてきたものが反映されていることがわかります。

この構図は、会社と労働組合の関係に似ています。労使関係では、労働条件の施策を決めるのは、最終的には会社です。賃上げも会社が決断したように見えます。でも、その決断の背景には労働組合の要求や粘り強い交渉があります。これは政治における野党の役割に似ています。そう捉えてもらえば、「政治に対して何を言っても変わらない」という感覚も、少しずつ変わっていくでしょう。

発言することの意義

表面には出づらいそうした動きを知ってもらうために私の経験をお話しできればと思います。私自身、法改正などに携わらせてもらう中で、政治とのつながりを実感するようになったからです。

私が最初に政治にかかわったのは、2008年に厚生労働省で開かれた労働法教育に関する研究会でした。このときは労働法を知らずに働き始める現状への問題意識を強く持ち、「知って役立つ労働法」というサイトの公開につながりました。2012年の「雇用戦略対話」では、若者の職業意識だけが問題ではなく、若者が働き続けられる職場環境の実現が大事だと発言して、報告書に書き込んでもらえました。その後、2015年に職業安定法の改正に関して意見陳述をした際は、私の指摘を井坂信彦議員が翌日の質疑に生かしてくれ、参議院の審議を経て問題意識が指針に反映されました。

こうした活動を通じて私は、政治への関与が後の政策実現にも反映されることを実感するようになりました。

その上で2018年の働き方改革関連法案における裁量労働制のデータ問題がありました。このときは安倍首相が裁量労働制について、制度適用者の方が労働時間が短いデータがあると答弁しました。そのデータの出典を森本真治議員が質問してくれ、示された調査を調べたところ、その調査からはそんなことは言えないことに気付きました。私は、長妻昭議員に連絡して、厚生労働省のレクにも参加させてもらいました。その後、国会でデータについての追及が行われ、その結果、安倍首相が答弁を撤回し、最終的に裁量労働制の拡大法案も撤回されました。

一連の動きをニュースだけで見ていたら、首相の判断で法案を撤回したように見えるかもしれません。でもその手前では野党議員が細かいところを詰めながら答弁を撤回に導き、法案撤回に向けても交渉していたことがわかります。

こういう動きを組合員の皆さんにも知ってもらえれば、組織から議員を送り出す意義を感じ取ってもらえるのではないかと思います。「組織から国会議員を送り出して何になる?」という冷めた見方もあるかもしれません。しかし裏では、皆さんが応援した議員が多くの活動をしていて、それが実際の成果にもつながっているのです。

背後にある頑張りを伝える

ニュースだけでは伝わりづらいこうした国会審議のもようを知ってもらいたいと考え、2018年に「国会パブリックビューイング」を始めました。街頭で国会質疑を流し、それを街ゆく人に見てもらう活動です。

実際やってみたところ、多くの人が立ち止まって見てくれました。見てもらう人にこちらから声をかけたりはしません。相手に判断を委ねます。見てもらえれば論点や野党議員の頑張りがわかってもらえると考えました。

裁量労働制拡大の撤回にしろ、検察庁法改正法案の廃案にしろ、一定の成果は生まれています。杉並区長選挙では、僅差で現区長が当選した結果、区議会議員選挙で女性議員が約半数になるという結果にもつながりました。よく見れば、少しずつ結果は出ています。そのことが組合員の皆さんに実感として伝わると良いと思います。

だから、「何を言っても変わらない」と諦めてしまうのはとてももったいないことだと思います。例えば、選挙で投票した人が落選してしまっても、投じられた票は、候補者の次の選挙につながります。私たちも街頭演説を聞いてみたり、選挙ビラの証紙貼りに参加してみたり、少しかかわるだけでも、気づきがあり、次の行動につながります。

情報労連の組合員の皆さんにとっても、前回「石橋みちひろ」議員が再選を果たせたからこそ、今も組合員の皆さんの声を国に対して伝えることができているわけです。その意味で組合員の皆さんの行動は、すでに成果につながっています。そうしたプロセスを丁寧に伝えることが、政治とのつながりを実感してもらえる機会になるのではないかと思います。具体的には、組織内議員などの国会質疑を組合員の皆さんに見てもらい、意見を聞く場を分会単位などで設けてみるのはいかがでしょうか。組合員の皆さんの声がもっと強くなれば、交渉力はもっと高まります。

つながりを実感してもらう

『情報労連REPORT』で、労働組合を結成して初めて春闘を体験した組合員に話を聞いた記事がありました(2024年1・2月号『「初めての春闘」体験記』)。取材に答えた組合員は、思っていたよりも会社が話を聞いてくれたし、賃上げの成果も出て、労働組合に対するイメージが変わったと話していました。このように組合員が思いや経験を率直に語り合う場があることがとても重要だと思います。

政治分野でも組合員の皆さんの行動は、実際の成果に結び付いています。政治とのつながりを実感してもらうために、組合員の皆さんの行動が成果に結び付くプロセスを丁寧に発信することが重要だと思います。

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