2024春闘へ
賃上げを勝ち取る「初めての春闘」体験記
春闘のイメージはどう変わった?
「暴れる」春闘のイメージ
労働組合には、なじみの深い「春闘」だが、一般的には何をするのかわからない人がほとんどではないだろうか。
そこで今回、新しく結成された労働組合の組合役員に、「初めての春闘」はどうだったのかを聞いてみた。話を聞いたのは、ミライト・モバイル・イースト労働組合の副執行委員長の猿渡朋子さんと、執行委員の小埜貴男さん、エクシオインフラ労働組合の執行委員長の野村優斗さんの3人。3人とも2022年に労働組合が職場にでき、2023年に春闘を初めて経験した。
労組結成前、3人は春闘にどのようなイメージを抱いていただろうか。
猿渡さん「会社と交渉するというより、鉢巻きを巻いて、旗を立ててイベントに参加するものだと思っていました」
小埜さん「拳を上げて闘うイメージが強かったです。昔のストライキの映像を見て『暴れる』イメージがありました。正直、いいイメージではなかったです」
野村さん「抗議をしている人たちというイメージでした」
要求立案を体験
こうしたイメージは春闘を経験してどう変わっただろうか。それぞれの「初めての春闘」を聞いた。
まずは、春闘の要求を立てるところから──。
猿渡さん「私たちの会社は、労働組合のあった会社となかった会社が統合してできた会社です。そのため初めての春闘では、労働組合経験のある組合役員を中心に、親会社のミライト・ワン労働組合の助けを借りながら要求を組み立てました。経験者がいないと何をしていいのかわかりませんでした」
野村さん「私たちの会社は統合前から労働組合がなかったので、ゼロから労働組合を結成しました。春闘の要求は、私の前の委員長が親会社のエクシオグループ労働組合の要求をベースにしながらつくりました。こうした支援がないと何をしていいかわからないと思います」
初めての体験には、誰かの助けを得ることがやはり大切だ。他方、組合の要求には組合員の声を反映させる必要がある。そのために職場集会などを開く。そこでの体験は?
猿渡さん「会社には北海道から東京までいくつかの支店があります。春闘の要求づくりなどを通じて、他の支店の状況がわかり、会社全体のことが見えるようになりました」
小埜さん「普段行かない支店に行って、そこで組合員の皆さんと直接話をして職場で困っていることを聞きました。こういう活動は労働組合があるからこそできるのだと肌で感じました」
春闘の要求づくりは、会社全体の状況を把握したり、職場のつながりを強めたりする効果があることがわかる。
初めての交渉
初めての春闘。会社に「要求する」ことも、もちろん初めてだ。
3人とも会社に定期昇給制度はあるが、「ベースアップ」を経験したことはなかった。労働組合を通じて初めてベースアップを要求した。小埜さんは「こんな額を要求していいのかと正直思いました」と打ち明ける。
そんな思いを抱えつつも、会社に要求書を提出し、実際の交渉に臨んだ。
猿渡さん「会社の交渉窓口となった人が元上司だったので、比較的話しやすく交渉できました。1回の交渉で妥結は難しかったので何度も交渉を繰り返しながら金額を引き出していきました。会社から『これ以上無理だよ』と言われても、何度も粘りました。執行部内で何度も話し合って妥結を決めました」
交渉期間中は、親会社やグループ会社の労働組合の仲間と密に連携を取り合って情報交換した。交渉の中でどういう言葉を選んだ方がよいのかなどの具体的なアドバイスも受けた。
加えて2つの労働組合とも、ベースアップに加えて、インフレに対応するための一時金を要求した。
猿渡さん「こうした手当は労働組合がなかったら要求することは間違いなくなかったと思います」
交渉の結果、2つの労働組合とも初めてのベースアップを勝ち取り、インフレ対応の一時金も獲得した。
野村さん「労働組合が要求することで賃金が上がるんだとびっくりした」
組合員の反応は?
猿渡さん「賃金のことはみんな気になるので、組合員の反応はとても大きかったです」
小埜さん「賃上げ以外にも組合員の声を反映して職場ルールの見直しをすることができてよかったです」
初春闘後のイメージの変化
初めての春闘を経験して労働組合のイメージはどう変わったのだろうか。
猿渡さん「イメージはすごく変わりました。組合の要求に対して会社も誠意を持って『できることはできる。できないことはできない』と、はっきり答えを出してくれます。交渉を通じてもやもや感が解消されました。改善が難しいと思う問題でも会社と歩み寄れることがわかりました。労働組合がなかったら何も変わらないままだったと思います。労働組合ができてよかったです」
小埜さん「イメージは間違いなく変わりました。労働組合は、会社が組織として機能するためにも必要だと感じるようになりました。組合員が不安や不満を心の中にためたまま仕事をしても、働きやすい職場になりません。その気持ちを労働組合に集め、組合がその声をまとめて会社と交渉することで、会社という組織がうまく回ると感じています。昔は『暴れる』イメージでしたが、今は『紳士的』なイメージに変わりました」
野村さん「会社と対等に話し合えるのが労働組合の強みだと思います。執行委員長として職場の状況を会社に伝えていきたいです」
「初めての春闘」を経験して、春闘のイメージは大きく変わったようだ。春闘を社会全体に広げていくためにも、こうした経験を広く伝えることが大切だ。