特集2024.01-02

2024春闘へ
賃上げを勝ち取る
春闘やってみよう!
要求立案・団体交渉・妥結のポイント解説

2024/01/17
「春闘」では具体的に何をすればいいのでしょうか。要求案をまとめるところから、会社との交渉、妥結などのポイントを解説します。みんなで春闘に取り組みましょう!
青木 哲彦 情報労連組織局長

Q 賃上げに向けて要求作成はどのようにすればよいのでしょうか?

A労働者の皆さんがよりよい労働条件・職場環境で働きたいというのは働く誰しも思っていることです。その中でも「賃上げ」は皆さんが一番関心ある事項でしょう。

まず「賃上げ要求」を検討するにあたっては、どのような水準で要求すればいいのかを検討しなければなりません。例えば情報労連は、2024春季生活闘争方針(案)で「すべての加盟組合は、『人への投資』を継続的かつ積極的に促す観点から、月例賃金改善については、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)の確保を前提に、3%以上(定期昇給相当分を含め5%以上)とし、各単組の置かれた状況等を踏まえ、前年を上回る賃上げをめざします」「一時金については、年間収入の向上を図る観点から、水準の引き上げをめざします」という具体的取り組みを提起しています。この考え方に基づいて、どのように「賃上げ要求」を行うか考えてみましょう。

まずは、会社の状況を知ることが具体的な要求水準を考える重要なポイントになります。「春闘とは、一年間の経営活動の中で生み出される付加価値(パイ)の配分を決める労使交渉」といえるでしょう。そのためには、経営状況や今後の見通しを把握し、経営側の支払い能力を組合として見極める必要があります。

仮に、経営状況が悪化している中で、賃上げ要求をしても交渉は難航するでしょう。そのためにも、具体的には、会社の経営状況を知るために「財務データ」を入手することが重要です。

「財務データ」とは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などのことです。労使交渉、もしくは有価証券報告書や民間等のデータベースを活用して入手することができます。

同時に、賃金実態の把握が重要となります。自社の賃金制度はどうなっているのか、働く皆さんの平均賃金はいくらかなどを把握しなければ、具体的に率もしくは額を要求するのも難しいでしょうし、根拠がない要求となってしまいます。そのためにも、日ごろから労働組合だからこそ持てる「武器」である、職場組合員の「声」をどれだけ把握しているかが重要です。組合員の協力の下、事前に賃金実態を把握できれば、責任・根拠のある交渉を進めることができます。

次に、具体的な要求検討を行うにあたり、賃金制度がある場合には、単純に率で要求することも可能ですが、そもそも自社の賃金水準が地域や業界における水準と比較してどうなのかもポイントとなります。他企業と比較しやすい高卒35歳を標準労働者(※)を設定して、情報労連「モデル賃金」の「最低到達目標」「めざすべき水準」や連合「地域ミニマム運動」などの調査報告などを参考にして、どれだけ引き上げるのかを検討することで、要求内容の根拠が明確になります。

また、賃金制度がない場合には、企業規模間格差を是正することを目標に、「連合が掲げる賃金カーブ維持分(4500円)の確保を大前提に、連合加盟組合平均賃金水準の3%に企業規模間格差是正分を加えた1万500円以上を賃上げ目標とし、総額1万5000円以上の賃金引き上げをめざす」といった考え方を採用するのも一つの方法です。

※標準労働者とは、学校卒業後直ちに企業に就職し、同一企業に継続勤務している労働者のこと

情報労連「2024春闘・賃金水準指標」(案)
最低到達目標水準(所定内賃金)
めざすべき水準(所定内賃金)
2023年度モデル賃金特性値(高校卒・所定内賃金)および水準指標
連合「企業規模間格差是正に向けた目標水準」

〔参考〕連合の各種調査報告からの賃金実態
○指標-1 月例賃金の試算(300人未満規模・平均)
○指標-2 連合全体の月例賃金
(2023「賃金・一時金・退職金調査」速報値より)
○指標-3 2023「地域ミニマム運動」集計における
年齢別最低保障賃金の参考値

Q いよいよ会社との交渉。その際のポイントは?

Aそれでは会社と交渉へといきたいところですが、まず、組合員の皆さんに「要求案」を周知しましょう。要求内容に至った経過や社会的背景などを伝え、組合員の皆さんから意見をもらうことで、「春闘の要求内容は組合員の総意」であると明言でき、会社交渉に臨む上での強みとなります。

また、組合員の皆さんの「声」を集めることで、自分たちが要求を行っているという意識の醸成を図ることができます。

要求内容の決定は、なるべく多くの組合員の意思が反映される方法として、組合員の選挙で選ばれた代議員が参加する「議決機関」で決定することが望ましいですが、運営実態に応じて、全組合員にメールや掲示板で周知するなどの創意工夫を検討してみてください。

そして、要求内容が決定され、ようやく会社との交渉となりますが、組合としての事前準備が必要となります。

事前準備では、(1)交渉に臨む方針・獲得目標と進め方、(2)具体的な質問事項と役割分担、(3)組合要求の根拠と会社側の反論に対する見解、(4)今後のスケジュール──等について、執行部で打ち合わせをしておきましょう。

そこまでの準備ができたら、いざ団体交渉に臨むことになります。一度の交渉で決着することはほとんどないでしょう。その都度、議事録を作成し、前述の事前準備を繰り返し行うとともに、協議内容などについて組合員への「見える化」を意識しましょう。

交渉を数次重ねた結果、満額回答であれば交渉決着(妥結)ですが、満額回答でないことも大いに想定できます。その場合、(1)会社回答を受け止める、(2)継続協議する、(3)ストライキなどの争議行為を行う──など、労働組合として決断をしなければなりません。

いずれを選択する場合においても、組合員の皆さんに伝えることが重要です。「みんなの要求」を労働組合が会社に伝え、労使交渉をして一定の回答や会社の考えを引き出した、という要求作成から妥結までの一連のプロセスを組合員と共有することが、「労働組合の存在意義」の実感・団結力の強化につながります。

Q 交渉を終えた後は、どんなことをすればいい?

A最も大事なことは、繰り返しになりますが、会社側と協議した内容を職場組合員に対し伝え、「見える化」することです。せっかく皆さんが苦労して会社と交渉して具体的な成果を引き出しても、それを組合員にタイムリーに伝えなければ、その成果は組合の成果だとの認識を得られませんし、十分な成果を引き出せなかった場合などは特に、交渉のプロセスや判断に至った背景などを共有しなければ、不信感を募らせることにもなりかねません。

最後に、組合員を代表し会社側と交渉することは、大きな責任が伴うことから、その心労もひとかたならぬものと思います。責任を一人で背負うのではなく、執行部全体で共有し取り組むことが大切です。そして、より多くの組合員からの声を聞き、組合員の後押しの下、自信をもって、その声を会社側に伝えていきましょう。

悩みがあれば、ぜひお近くの情報労連役員にもご相談ください。ともにがんばりましょう!

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