特集2024.07

政治のなぜ?を考える
政治にまつわる疑問を考察
見え始めた政権交代の兆し
野党が「未来の政権政党」になる条件とは

2024/07/12
政治資金問題などを背景に自民党の支持率が低下する中で、政権交代の兆しが見え始め、「政治が悪いのは『野党のせい』」という見方も変わってきた。だが、野党に乗り越えるべき課題はある。政治を変えるために何が必要か。
尾中 香尚里 ジャーナリスト
元毎日新聞編集委員

政治が悪いのは「野党のせい」?

実は本稿の執筆を依頼された際のテーマは「政治が悪いのは『野党のせい』? 野党に何を期待すべきか」というものであった。なるほど、2012年に自民党が政権に復帰して以降、野党陣営がそんな風に嘆きたくなる場面ばかりだったのは確かだ。政権がいくら失政を重ねても、メディアの「与党も野党もどっちもどっち」という言葉に回収される。自民党の組織的な裏金作りでさえ「自民党不信」でなく「政治不信」という言葉で一般化される。野党やその応援団にとっては、やり切れない日々だっただろう。

しかし、本稿が読者の皆さんの目に触れる頃、政治状況は少し変化しているのではないだろうか。ここ1カ月ほどの報道機関などの世論調査では、若干のばらつきはあるものの、岸田政権や自民党の支持率が政権復帰後最低レベルまで下落し、一方で野党第1党の立憲民主党が目に見えて支持を上げている。

NHKが6月7〜9日に実施した世論調査では、岸田内閣の支持率は21%(不支持率60%)、自民党の支持率は25.5%で、ともに自民党の政権復帰以降最低だった。立憲民主党の支持率は9.5%と、5月の前回調査から実に2.9ポイント上昇した。自民党と立憲民主党の支持率の差は16ポイント。岸田内閣の発足時(35.1ポイント)に比べ大きく縮小している。

「多弱」と言われた野党の中で、立憲がその中核としての立ち位置を確立し、自民党に対峙する「政権の選択肢」として認識され始めたことを示す数字だと思う。

もちろんこれだけで、有権者の野党に対する見方が大きく変わったと考えるのは早計だ。それでも「政治が悪いのは野党ではなく自民党のせい」であり「政治を変えるには野党に期待するしかない」という認識が、有権者の間に一定程度浸透してきたとは言えるだろう。

「未来の政権政党」になる3条件

問題はここからだ。かつての万年野党なら、単に政権を批判していれば良かったが、与野党の力が伯仲に近づき、さらに衆院選の足音が聞こえてくれば、それだけでは済まない。「政権の選択肢になれるか」が、大きな評価基準として加わってくる。「気が早い」と言われようとも、立憲民主党は「未来の政権政党」として有権者の信頼をどう勝ち取るか、真剣に考えなければならない。

どうしても頭をよぎるのが「悪夢の民主党政権」という言葉だろう。10年あまり前の民主党政権が、政権運営に失敗し、その後の自民党の長期政権を許してしまったのは事実だ。この「トラウマ」から脱却し、有権者の「政権交代への躊躇」を取り除くために、何が必要なのか。

筆者は「政権の選択肢となるべき野党第1党の条件」は、次の三つだと考える。


(1)「めざすべき社会像」の選択肢を「提示できる力」

(2)政権を勝ち取るための「戦闘力」

(3)政権を安定して運営できると「期待させる力」

この(1)と(3)が、民主党政権には足りなかった。立憲民主党はここを強化する必要がある。

提示できる力

(1)は立憲民主党が「自民党と違うどんな社会をめざすのか」という大きな姿を示す力だ。

民主党は自民党離党組から社会党出身者まで幅広い出自の政治家が集い、党全体で「めざす社会像」を十分に共有できなかった。その結果、政権交代という目的を達した途端、共通の目標を見失い、党を分裂させてしまった。だから立憲民主党は、国政、地方政治を問わず、すべての議員と職員が「めざす社会像」を共有し、有権者にしっかりと提示すべきだ。

この点で立憲民主党は、民主党時代よりは進化している。国民に「自己責任」を強いる自民党的な社会に対し、立憲民主党は「新自由主義を終わらせ、お互いさまに支え合う社会をめざす」という理念を掲げ、党内もこの方向性をほぼ共有している。民主党政権当時のような「党内バラバラ」という批判は、ほとんど聞こえない。あとは「支え合う社会」の具体的なイメージと、それを実現するための個別政策のパッケージをどう示し、実現可能性に説得力を持たせることができるかどうかだ。

戦闘力

(2)はすなわち「選挙に勝つ力」だ。

よく「支持率が低いので選挙に勝てない」というが、実際はその逆で「選挙に勝てないから支持率が伸びない」のだと思う。各種選挙で自民党との「与野党対決」に勝ち、有権者が「総選挙でも野党が勝つかも?」と期待感を抱いた時、初めて野党は支持を得られる。政権交代前の民主党もそうだった。現在立憲民主党の支持率が上昇しているのも、4月の衆院3補選全勝など、注目の選挙で勝利を重ねてきた結果だ。

この期待感を切らさないことも大事だが、衆院選が近づいている中で、そちらの準備が遅れているのは気がかりだ。立憲民主党が擁立を決めている立候補予定者は約180人。衆院定数の過半数に達していない。これでは「政権交代」は絵に描いた餅だ。同党は現在、候補者発掘も視野に入れて「りっけん政治塾」を開講中で、約500人が受講中というが、あらゆる手段で質の良い候補を発掘しなければならない。

期待させる力

(3)の政権担当能力があると「期待させる力」は、最も難しく、かつ重要だ。

現実に政権を持っていない状態で政権担当能力をアピールするのは簡単ではないが、「悪夢の民主党政権」のイメージを重ねられないようにすることは、死活的に重要である。所属議員はまず、不要な党内対立を起こしたり、執行部への不満を党内ではなく外に向かってアピールしたりする、いわゆる「民主党しぐさ」を厳に慎むことだ。党内議論は活発に行い、決まったことには結束して臨むという、チームとしてまとまっている姿を見せることが、党全体に安心感を与える。

民主党が政権を奪取した時には、与党経験のある議員は少なかったが、現在の立憲民主党には、民主党政権の中枢を経験した議員が複数いる。これは党の財産だ。もちろん幾多の失敗もしたが、その経験も安定感のうちである。

 「呪い」から解き放たれるとき

逆に、そろそろ彼らは有権者に問い返しても良いのではないか。「民主党政権のどこが悪夢だったのか」と。党内対立は言い訳のしようがない。だが、今と比べて子育てはやりにくかったか。老後の不安は大きかったか。景気は今よりも悪いと感じていたか。

民主党の下野から10年あまり、私たちは民主党政権の「悪夢」を払拭するどころか、国民の命と暮らしをさらに苦しめながら、自らは裏金にまみれていた「地獄の自民党政権」を目の当たりにした。「悪夢の民主党政権」という「呪いの言葉」から、もうそろそろ自らを解き放つべきではないか。

特集 2024.07政治のなぜ?を考える
政治にまつわる疑問を考察
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー