特集2024.08-09

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知ることで平和への思いが変わる
核兵器禁止条約の批准をめざし設立
「核兵器をなくす日本キャンペーン」の取り組み

2024/08/19
2024年4月に日本の核兵器禁止条約の批准をめざす新たな団体「核兵器をなくす日本キャンペーン」が立ち上がった。キャンペーン設立の背景や目標の達成に向けた活動、私たち市民にできることなどについて聞いた。
浅野 英男 核兵器をなくす日本キャンペーン

──「キャンペーン」設立の経緯と目的を教えてください。

「核兵器をなくす日本キャンペーン」は、2024年4月に新しく立ち上がった団体で、2010年に設立された核兵器廃絶日本NGO連絡会(以下、NGO連絡会)が母体となっています。NGO連絡会は、核兵器廃絶をめざす団体のネットワークで、各団体が連絡を取り合う緩やかなつながりとして活動してきました。毎年8月には超党派の国会議員討論会も開催してきました。

こうした中、2017年に核兵器禁止条約が国連で採択され、その後50カ国が批准したことで2021年1月に発効しました。このことから新しい目標が生まれました。それは日本が核兵器禁止条約に加わることです。NGO連絡会では、それまでの緩いつながりから目標の実現に向けた集中的なキャンペーンを展開する必要があるとして、そのためのいわば実働部隊をつくることにしました。それが「核兵器をなくす日本キャンペーン」です。

キャンペーンでは、専属のスタッフを確保するためにクラウドファンディングで資金を集めました。明確な目標を持つキャンペーンを展開することで核兵器廃絶に向けた動きを加速していきたいと考えています。

──目標達成に向けた活動内容は?

「核兵器をなくす日本キャンペーン」は、日本が核兵器禁止条約を批准するという明確なゴールを設定しています。しかし目標を定めたからといって、一気に進むとは考えていません。そのためにキャンペーンでは、五つのステップを設定しています(図)。

最初のステップは、核兵器禁止条約の締約国会議に日本がオブザーバーとして参加することです。この会議が2025年3月に開催されるため、そこでのオブザーバー参加をめざして活動しています。

こうした目標の達成に向けて、私たちは二つの活動の柱を掲げています。それが政治への働きかけと市民への働きかけです。

一つ目の政治への働きかけでは、NGO連絡会で築いてきた超党派の枠組みを生かして国会議員などへの働きかけを行っています。NGO連絡会の活動では、多くて年に数回、意見交換の場を設けてきましたが、これをより恒常的に、足しげく議員のもとへ通って、核兵器禁止条約の批准に向けた課題などについて説明していきたいと考えています。

私たちは、与野党関係なく、超党派の枠組みを大切にしています。4月の発足から3カ月間でほぼすべての国政政党と意見交換できました。8月には国会議員討論会を行う予定です。

外務省との意見交換も行っています。7月には、NPT準備委員会に向けた市民団体からの要請書を手渡し、意見交換を実施しました。

──市民への働きかけはどうでしょうか。

市民への働きかけでは、核兵器廃絶に向けて一緒に活動する仲間を増やして世論を喚起していきたいと考えています。

そのためにいくつかの取り組みを始めています。一つは、さまざまな分野の団体とコラボレーションして活動の間口を広げることです。例えば、気候変動に取り組む団体とコラボレーションしたフォーラムの開催を予定しています。このような取り組みを通じて核兵器の問題がさまざまな問題とも関連していることを知ってもらいたいと考えています。

もう一つは、若い世代への働きかけです。核兵器の問題は、今を生きる私たちの問題でもあります。若い世代の参加を促すためにも、核兵器の問題についてもっと気軽に話してもいいと感じてもらえる場づくりをしていきたいと思っています。今年の6月には、広島と長崎で、軽食を取りながら対話をしたり、リレートークをしたりするカジュアルな雰囲気のイベントを実施しました。これからも参加しやすい空間づくりを広げていきたいと思います。

また、こうした取り組みの一環として、25歳以下の若年層を中心にオンラインや対面で一緒に勉強したり、活動したりするグループをつくりました。3週間で全国から20人超の応募があり、手応えを感じているところです。

世論があってこそ政治は動くし、政治が動くと世論が盛り上がります。活動の二つの柱をうまく接続して好循環を生み出したいと思います。

──課題はありますか?

議員への働きかけを強めても、批准が一足飛びに実現するわけではありません。批准に向けて現実的にどのような道筋があり得るのか、そのために乗り越える課題はどこにあるのかなど、丁寧に説明していきたいと考えています。

同時に、核兵器禁止条約の推進派から懐疑派までの幅広い有識者を巻き込んで、課題はどこにあるのかをしっかり整理して、それを政治の場に届けていきたいとも考えています。議論をしないことには課題を洗い出すことはできないし、具体的な行動につなげることもできません。まずは議論することが大切です。この課題に正面からぶつかっていくのが、今回のキャンペーンの特徴でもあると思います。

実際、この間のNGO連絡会での超党派の議論を通じて、核兵器禁止条約の締約国会議に日本がオブザーバー参加すべきという意見が多くの政党で形成されるようになりました。自民党も党内に議論を持ち帰って検討すると言うようになりました。有識者や超党派の政党とのチャネルが固まりつつある中、これを土台にいよいよ動き出すという段階に入っています。

──市民に何ができるでしょうか。

まず一つは、核兵器廃絶に関する情報を取り続けてほしいと思います。例えば、ニュースをチェックしたり、私たちも月2回メールマガジンを発行しているのでそれに登録してもらったり、SNSをフォローしてもらったりすることは、キャンペーンの活動に貢献することにもつながります。

二つ目はこの問題を考えるきっかけづくりです。核兵器の問題を家族や同僚と話すのは意外と難しいです。そのため、地域や職場などの自分が所属するコミュニティーで核兵器の問題を考えるきっかけづくりをしてくれたらうれしいです。例えば、地域や職場などで学習会を企画してもらえれば、喜んでお話しにいきます。

その上で、ボランティアも含めて一緒にアクションをしてもらえたらうれしいです。

──労働組合への期待は?

核兵器禁止条約が成立した背景には、市民社会の大きな活躍がありました。ノーベル平和賞を受賞したICANの活動もそうですが、市民がこの運動に参加して、核兵器を持っていない国と協力して、この条約が誕生しました。

こうした動きを見ると、市民が世界を変えていける、自分たちの行動で世界を良くしていけるという実感が生まれます。実際、条約の成立過程を見てこの運動に関心を持った人もたくさんいます。

核兵器の問題は、今を生きる私たちにとってリアルな問題であり、現在進行形の問題です。そして市民がかかわって社会を動かすことができます。労働組合だからこそできる職場でのきっかけづくりをはじめ、皆さんと一緒に核兵器の廃絶に向けて活動していけたらうれしいです。

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