特集2024.08-09

世界の戦争/紛争と
日本の平和運動
知ることで平和への思いが変わる
ガザで深まる人道危機
国際社会は放置せず即時停戦へ行動を

2024/08/19
イスラエルの攻撃によりガザ地区の人道危機が深まっている。人々の暮らしや支援の現状などについて支援活動を展開するNPOのスタッフに聞いた。
小林 麗子 認定NPO法人
日本国際ボランティアセンター(JVC)
海外事業グループ

──ガザ地区の現状について教えてください。

状況は日々悪化しています。ガザ地区は人口密度がもともと高く、東京23区の約6割程度の面積に200万人以上の人が暮らしていました。イスラエルの攻撃によって多くの人が自宅を追われ避難を余儀なくされ、現在ではガザ地区の中部に避難民が集中しています。多くの建物が空爆などによって破壊されているため、危険な建物に避難するか、路上で過ごすしかない人もいます。

──生活インフラも破壊されています。どのような生活環境なのでしょうか。

公共の電気は、今回の戦争以前から1日のうち半分くらいしか供給されていませんでした。現在はかなり厳しい状態です。発電しようにも燃料が入ってきません。ガザ地区にいる私たちのパートナー団体のスタッフたちも、スマートフォンの充電を太陽光発電に頼っています。

水不足も深刻です。給水システムが30%程度しか稼働しておらず、多くの人が必要な水を得られていません。人道支援の基準では、飲用や洗濯、料理用を含め1日1人当たり15リットルの水が最低限必要とされています。生存のためには1日3リットルが必要ともいわれます。しかし、ガザ地区の避難所では1日2リットルしか支給されていないところもあります。食料が不足し、餓死する子どもも出ています。

ゴミ収集のシステムも機能しなくなっているので衛生状態は非常に悪くなっており、感染症も広がっています。病院も36あったものが空爆で破壊されるなどして10程度にまで減り、機能が大幅に低下しています。十分な医療を受けられない状態が続いています。

──パレスチナ自治区ガザの保健当局は犠牲者の数は3万9000人を超えたと発表しています(7月29日現在)。

パレスチナ自治政府が発表している犠牲者の数は、病院に運ばれて死亡が確認された人の数です。空爆で破壊された建物のがれきの下に1万人以上の犠牲者がいるともいわれており、犠牲者の数は、発表された以上の数になると思います。

ガザ地区という狭い地域で今回の戦争の被害を受けていない人はいません。比較的安全な地域にいた、私たちのパートナー団体のスタッフたちも避難を余儀なくされ、攻撃の影響を受けています。ガザ全体が戦場であり、全員が被害者であるといえます。

──支援の状況はどうでしょうか。

ガザ地区では、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が活動を続けていますが、200人以上のスタッフが犠牲になっています。UNRWAなどの支援機関のスタッフもかなりの人数が避難を強いられており、必要な支援の提供が難しくなっています。

また、インフラの破壊や厳しい検問などによって支援物資を運び入れること自体が難しくなっています。平時は、1日500台のトラックが支援物資をガザ地区に運んでいましたが、現在では最大でも200台。平均すると1日80台程度になっており、それも毎日ではありません。検問所を通過するのにかなりの時間がかかっており、搬入をイスラエル側から拒否される場合もあります。

ガザ地区に搬入できても、行き渡らせるのが困難な状態もあります。避難所も攻撃対象になっているため、別の場所への避難を迫られるなどして人の移動が激しく、支援対象者を定めるのも困難です。スタッフの安全を確保しなければ支援活動もできず、必要な支援を行うためにも即時停戦が必要です。

──JVCではどのような活動を?

JVCでは、今回の戦争の前からガザ地区で現地のパートナー団体とともに、地域に根差した母子保健の活動などを行ってきました。

イスラエルによる攻撃の後は、そうした活動ができなくなってしまったので、パートナー団体とともに避難所にいる2歳以下の子どもたちの健診を行い、液体ミルクや高栄養のビスケットを配布する活動を展開しています。また母子世帯などのぜい弱な世帯を対象とした現金給付の活動や、粉ミルクや医薬品を送る活動を行っています。物資の輸送にはやはりさまざまな調整が必要です。

ガザ地区にはJVCの現地コーディネーターがおり、東エルサレムにいるJVCのスタッフが毎日連絡を取っています。通話中にも爆撃やドローンの音が聞こえて緊迫した様子が伝わってきます。現地の人たちは絶え間ない攻撃にさらされており、その精神的なストレスは想像を絶します。支援を行うためにもやはり停戦が必要です。

一方、アドボカシー活動としては、パレスチナにかかわる団体合同で外務省に対して一刻も早い停戦に向けた要請文を提出したり、院内集会を開催したりして政府や議員に対する働きかけを強めてきました。各国がUNRWAへの資金拠出を停止した際は、早期の再開を政府に要請しました。

──市民にできる活動は?

まずは、今回の出来事について歴史的な背景も含めて知ってもらいたいです。今回の戦争は10月7日から始まったと捉えるのではなく、それ以前からガザ地区を含むパレスチナがどのような状態に置かれていたのかを知ることが大切です。パレスチナは今回の戦争の前から、イスラエルの占領の下、不当な逮捕や強制的な財産の没収、徹底した移動の制限など、非常に抑圧された状態に置かれていました。こうした状態を私たちも含む国際社会が放置してきたことが、今回の戦争につながっています。これ以上の犠牲を生まないためにも国際社会が声を上げる必要があります。

日本は、この問題に歴史的に深くかかわる欧米と違って独自の発言ができるポジションにいますが、積極的な発言や行動はしていません。政府を動かすためにも市民社会の声が大切です。

日本でも即時停戦を求めて声を上げている人たちがいます。私たちのような支援団体の活動を支援したり、ウェブサイトから停戦を求めるオンライン署名に協力したりもできます。できることから始めてほしいと思います。

ガザにいる人たちは想像を絶するような過酷な状況に置かれています。国連の事務総長をはじめ、多くの人が即時停戦を訴えてきましたが、攻撃は止まっていません。こうした状態をなぜ止められないのかという、言葉にならない強い思いに襲われます。国際社会はこの状態を放っておくわけにはいきません。ぜひ一緒に声を上げてほしいと思います。

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