特集2025.01-02

情報労連の2025春季生活闘争
産別・加盟組合は何をしているのか/何をすべきか
賃上げの波及効果の実態は?
中小企業が賃上げしやすい環境づくりを

2025/01/16
大企業の賃上げは中小企業にどれほど波及しているのか。企業規模間格差の是正に向けた産業別労働組合の役割を探る。
李 旼珍 (イ・ミンジン)
立教大学特別専任教授

賃上げの波及効果

大企業の賃上げは、中小企業に波及しているでしょうか。厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」(以下、「賃金引き上げ実態調査」)を見ると、1983年頃から賃上げ額の分散係数が上昇傾向にあります。これは賃上げ幅のばらつきが大きくなったことを意味しており、賃上げの波及効果が弱まったと解釈することができます。

同じように連合の春闘回答集計から賃上げの波及効果を分析してみましょう。ここでは、1000人以上規模の第1回回答集計(3月中旬)の賃上げ額(定昇相当込み)と、300人未満規模の最終集計(7月)の額を比較してみます。これによって大企業の賃上げが中小企業にどのように波及しているのかを推測することができます。それを見ると2015年から2021年にかけてその差額が小さくなっていることがわかります(2015年:3197円→2021年:1323円)。これは大企業と中小企業の賃上げ額の幅が小さくなったことを意味します。大企業の賃上げが中小企業にも波及したと解釈することもできますが、ここでの大きな要因は大企業の賃上げ額が下がったことです。つまり、大企業の賃上げ額が下がったことで低位平準化が起きたといえます。

この傾向は2022年以降、変化しています。2022年に大企業で賃上げの動きが回復すると中小企業との賃上げ額の差は広がるようになります。その差額は、2022年は1828円でしたが、2024年には5363円となり、賃上げのばらつきが拡大しました。これは中小企業への賃上げの波及効果が低下したと捉えることができます。

ただし、300人以上999人未満規模と大企業を比較すると、その差はそれほど広がっていません。300人以上の企業には、大企業の賃上げの波及効果が及んでいると推測できます。

他方、300人未満であっても規模によって違いが生じていることもわかります。300人未満の規模を99人未満と100〜299人規模に分けて分析してみたところ、99人未満の方が1000人以上規模との賃上げ差が拡大していることがわかりました。このことからは規模がより小さくなるほど波及効果が弱くなっていることがわかります。

さらに99人未満では同じ規模内でも賃上げ格差が広がっていた一方、100〜299人規模では、2024年の第1回集計と最終集計の差が小さくなっており、同じ規模内での賃上げのばらつきが縮小していました。

増えた世間相場重視

このような動向をどのように分析できるでしょうか。厚生労働省の「賃金引き上げ実態調査」では、「賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素」を企業に聞いています。それによると2023年以降、1000〜4999人および5000人以上規模で「世間相場」を重視する企業が増えていることがわかります。

また、100〜299人規模でも「世間相場」を重視した企業が、その前年から2倍に増えています(約3%から約7%弱)。さらにこの規模では「親会社またはグループ会社の改定の動向」を重視する企業も増えました。賃上げの波及効果の背景にはこうした企業の意識が影響していると考えられます。

産別労組の影響は?

労働組合はこうした動きにどうかかわっているでしょうか。基幹労連は、2月から3月の初めに単組からの支援要請をもとに経営要請行動を実施しています。これは、基幹労連の本部や企業連および単組の本部が、グループ会社や系列会社の経営者に要請書を提出する行動です。この行動が企業に及ぼす影響はどれくらいあるでしょうか。「賃金引き上げ実態調査」の結果を産業別にみると、鉄鋼・非鉄・金属は、他の産業より「親会社またはグループ会社の改定の動向」を重視する企業の割合が高いことがわかります。基幹労連の要請行動が影響している可能性があります。

また、JAMは、4月のヤマ場に妥結できなかった単組に対して、地方JAMの役員を単組の交渉に参加させる取り組みを行っています。その効果はどうでしょうか。JAMの妥結結果を見ると、300人未満の中小組合では回答額よりも妥結額の方が高いことがわかります。これは、会社回答に対して労働組合が積み上げ交渉をしている結果と見ることができます。背景には地方JAM役員が交渉に参画している影響があると考えられます。

このような産別労組の運動を見ると、産別労組がグループ会社に要請行動を展開したり、中小組合の交渉に直接参加したりすることには、賃上げの波及に対して一定の効果を発揮しているのではないかと推測することができます。

求められる役割とは?

こうした動きを踏まえれば、賃上げの波及効果を高めるためには、産別労組が交渉に直接参加したり、賃上げのための環境づくりを整備したりすることが重要であるといえます。経営者への要請行動から始めても効果があるでしょう。産別労組が価格転嫁の環境づくりを進めれば、グループ会社の賃上げにつながります。このような産別労組の行動を広げることが、賃上げの波及効果を高め、企業規模間格差の是正にも結び付くはずです。

特集 2025.01-02情報労連の2025春季生活闘争
産別・加盟組合は何をしているのか/何をすべきか
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー