特集2015.10

組合運動を強くする!職場の民主主義が会社を強くする

2015/10/30
労働組合は何のために存在するのか。その理由の一つは、職場における民主主義=「産業民主主義」を実現させるためだ。労使が対等な立場で意見を交わすことが、会社を強くする。
呉 学殊(おう はくすう) 独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員
著書に『労使関係のフロンティア労働組合の羅針盤』など

日本の私たちは、民主主義社会に暮らしています。ただし、民主主義社会とは、政治リーダーを選ぶだけの社会ではありません。多くの人が人生の大切な時間を過ごす職場に民主主義があってこそ真の民主主義社会と呼ぶことができます。民主主義社会を本物にするためには、職場における民主主義=「産業民主主義」を確立しなければなりません。これは私の確信です。

会社を強くする

職場の民主主義は、会社を強くします。職場で働く労働者たちは会社の下す決定すべてに満足できるわけではありません。けれども、その決定プロセスに労働組合を通じてかかわることで、労働者は納得性を高め、主体性を発揮するようになります。自分たちで決めたことだから、納得し、責任感を覚え、自分の会社というロイヤリティが高まるのです。

働く人たちは、仕事を通じて、職場の問題点に気づき、効率的な仕事の仕方を提案することができます。長期的にも自分の仕事をいつまで続けられるのか、会社の将来にも関心を抱いています。企業が労働者のこうした声を尊重すれば、会社は経営危機に陥ることなく、働き甲斐をもって発展し続けられるはずです。

民主主義のない職場

労働組合のある職場であれば、職場に民主主義があるとみなせるでしょう。けれども、労働組合のある職場の割合は17.5%に過ぎません。しかも、それ以外の職場は、民主主義がないといっても過言ではない状況です。

私は、4年間にわたり個別労使紛争を研究してきました。その紛争現場はほとんどの場合、労働組合がありませんでした。とある労働者は、「おれたちは死刑囚だ。クビという刑の執行を、いつ来るのかと待っているんだ」と説明しました。また、別の非正規労働者は、16年間働いても手取りは12万円のまま。殺伐とした雰囲気の面接では自分の希望を話すことなどできないと訴えていました。これでは、職場の民主主義なんてほど遠い理想に過ぎません。

人生の大切な時間を過ごす職場で自由に発言もできず、経営者の言うことを黙って聞いて働きなさいというのは、民主主義社会でありません。まずは、個人が自由に意見を言える環境をつくること。そして、ルールを決めるときは、個人対会社ではなく、労働者の代表が、対等な立場で会社と交渉する。働く人はそこに参画していく。こうして、労働者の代表と会社が対等な立場で交渉する場を確立することが、日本の問題を解決する一番の近道であると考えています。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構『労使コミュニケーションの実態と意義―アンケート調査を基に―』

経営資源としての労使関係

一つ、例を挙げます。九州のとある金属加工の会社は、会社のことすべてを従業員が決めます。社長がするのは幹部の人事評価くらいです。あとは現場の従業員が何をするのか、判断します。

この会社には、社長が従業員から査定される仕組みもあります。経営危機に対応できるのか、従業員から信頼されているかなど、10~12項目で評価されます。それに対して社長は自由記述も含めてすべてに目を通し、回答します。こうして、従業員は自分の思いを社長に伝え、社長は従業員の声を尊重する。その結果、労使がお互いを信頼できます。信頼とはつまるところ、言行一致しているかどうかです。それにより、予見可能性が高まると、人は相手を信頼できるのです。

私は、「3K2S」が充実すれば、労使コミュニケーションが、経営資源性として機能すると訴えています。

「3K2S」とは、
(1)決断(ketsudan、社長が労使コミュニケーションの重要性を認識し、それを本格的に行おうとする)
(2)公開(koukai、企業の全経営情報を一般従業員に開示する経営情報の完全公開)
(3)権限移譲(kengenijou、社長の権限を従業員に委譲する)
(4)相互尊重(sonchou、労使が相手の存在を自分と等しく認める)
(5)相互信頼(shinrai、言動の一致、相手の言動の予見可能性が見える)
の五つです。

前述の会社は、「3K2S」が実現している職場と言えます。この社長は、2008年の就任後、従業員を41人から80人にまで増やしました。事業も安定して成長しています。このような職場の民主主義に基づく、経営者の「半」労働者化と、労働者の「半」経営者化が、企業を成長させているのです。

経営者を育てる

私は、経営者の能力は労働者によって決まると説いています。企業経営者は、事業運営や投資先の決定など、将来を見通す判断能力を持たなければなりません。しかし、それを自力で育てるには限界があります。そこで、その能力を身に付けさせるのが労働組合です。職場の弱い立場の人を守ることは労働組合の大事な役割ですが、そればかりではありません。会社や経営者の考え方を変えるために、前向きに、積極的に提言していくことも労働組合の大切な役割です。経営者は産業動向や世界の潮流、投資先の決定などにまで目を向ける必要があります。労働組合もそれに見合う経営のチェック能力を高めなければいけません。

では、労働組合が経営に対する発言力を高めるには、どうすればよいでしょうか。私は労働組合が二つの能力を高める必要があると考えています。

一つは、組合リーダーが、長期的な見通しを持ち、会社のあるべき姿を描くこと、すなわち「長期見通し能力」をもつことです。5年後、10年後の会社をどうしていくのか。そのために、何をすればいいのかを考えることです。

もう一つは、現場の声に耳を傾け、その「吸い上げ力」を強化することです。組合リーダーは、経営者と一般組合員の間に挟まれて、どのような決断を下すか、悩むこともあるでしょう。しかし、その悩みを丁寧に一般組合員に伝える努力をすれば、組合員も組合リーダーに悩みを打ち明けてくれるはずです。この二つの力を高めることで、経営に対する労働組合の発言力も高まるはずです。

その意味では、非正規労働者やグループ会社の組織化を進めることも大切です。これらを進めるには、本体の労使関係をきちんと構築しておく必要があります。日頃から労働組合の発言力を高めておくことが、非正規労働者やグループ会社の組織化にもつながってきます。

「労使関係の4共性」

労使協議で大切なのは、相手の存在を認め、互いがそれを尊重することです。そこで私は、「労使関係の4共性」が大事だと訴えています。

「労使関係の4共性」とは、一つは、「労使関係の共存性」です。労使関係は、一方が欠けるとその関係が成り立たない共存関係です。ですから、相手を尊重しなければ、健全な労使関係は築けません。昔は社長をつるし上げるような団体交渉もあったかもしれませんが、どんな社長でも一応企業のトップです。相手を傷つけないよう発言することも大切でしょう。もちろん経営者も相手がたとえ部下でも何を言ってもいいわけではありません。労使対等が前提であり、従業員が積極的に発言できるように経営情報を積極的に公開すべきです。

二つは、「労使関係の共感性」です。例えば、労働組合の代表者が、真剣に会社の現状と将来を考えて提言する。その真剣さに経営側との「共感」が生まれます。

裏を返すと、ダラダラとした労使協議・団交を繰り返しても意味がないということです。執行部が毎年交代し、団交も決まった内容を儀式化するだけ。外部とのつながりもない閉鎖的な組合では、重みをもった言葉を伝えられません。

三つは、「労使関係の共育性」です。中小企業であれば、経営者が成長しなければ企業も成長しません。経営者も常に従業員から学ぶ。その裏返しとして、従業員も常に現状に満足せず、学ぶ姿勢が大切です。労使がともに自ら足りないものを考え、相手の指摘を通じて育つ姿勢を堅持すべきです。

四つは、「労使関係の共創性」です。企業のさらなる発展、労働条件の維持・向上のためには、ときに痛みを伴う決断も必要です。企業の問題を解決するために、労使が譲歩しあうことも重要です。

こうした「労使関係の4共性」は、新しい付加価値やよりよく働く労働環境を生み出す「経営資源」であると言えます。

産業民主主義が日本を救う

このように職場で民主主義が機能すれば、会社は強くなります。しかし、問題なのは、労使が話し合える場が、この国に少ないことです。

国の中央で、政労使会議による合意がなされても、それを実行するために現場の労使が話し合う仕組みがありません。そのためトップでさまざまな事項に合意しても、現場まで響かないのです。ですから私は、従業員代表制の法制化が急務だと考えています。私は、その仕組みの法制化は、労働組合活動にもプラスに作用すると訴えています。

市民が、政策決定プロセスにかかわること、そして決まったことを実行するプロセスにもかかわること。これが民主主義の両輪です。これらが機能しなければ、日本はよりよい社会になりません。

繰り返しになりますが、人生の大切な時間を過ごす職場で、自分の意見も言えず、黙って仕事をするのは、民主主義ではありません。真の民主主義社会をつくるために、職場の民主主義を確立する必要があります。それが、日本社会そのものを救う方法です。

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