特集2015.10

組合運動を強くする!「横のつながり」の中に問題解決の手がかりがある

2015/10/30
ハラスメントやメンタルヘルスに関する相談が増え、労組相談の内容が複雑化している。労働組合役員はどう対応すればいいだろうか。専門家に聞いた。
嶋﨑 量 弁護士・日本労働弁護団常任幹事

ハラスメントの相談が増加

私のような労働弁護団の弁護士に寄せられる労働相談には、労働者が直接連絡してくるケースと、労働組合の相談窓口になっている組合役員が、対応に苦慮して相談してくるケースの2通りがあります。両者ともに共通する近年の傾向は、セクハラ、パワハラ、マタハラといったハラスメント系の相談が増えていること。メンタルトラブルの相談が増え、内容が複雑化してきています。

ハラスメント系の相談が増加している背景には、働き方にゆがみが出ていることが要因としてあげられます。例えば、最近マスコミを賑わせているブラックバイト。言葉は新しいですが、アルバイトに対するパワハラの側面があります。そのパワハラを行っている正社員は、会社側から過酷な労働条件を押し付けられ、長時間労働を強いられていたりします。社員が会社側から受けた対応が、アルバイトに向けられるという構造です。

労使関係のゆがみが、そのまま働き方のゆがみに結び付き、労働環境が悪化。それにより職場がギスギスしてきたことが、ハラスメントの相談が増えた一因として考えられます。

相談の背景にある問題の指摘を

ハラスメントなどの労働相談を解決へと導くためには、個別の問題なのか、それとも職場における構造的な問題なのかを判断しなければなりません。

上司と部下との個人的な関係のもとで、ハラスメントが引き起こされるケースもあります。一方、職場全体として発生しやすい状況にある場合や、相談窓口が機能していないことで引き起こされる場合もあります。

また、例にあげたように、ハラスメントの要因が長時間労働というケースもあります。長時間労働が劣悪な労働環境を生み出し、それがハラスメントを引き起こしやすい状況をつくり出している。一見関係ないようなハラスメントと長時間労働が連動し、構造的な問題になっているケースも多いのです。

労働組合は労働相談の背景にある構造的な問題を捉え、団体交渉などを通して、経営者側に伝える役割を担っています。構造的な問題として、多くの企業が共通して抱えているのが、長時間労働です。長時間労働はハラスメントに限らず、残業代の問題や体調の管理など、あらゆる問題に連動してきます。長時間労働を放置し、劣悪な労働環境が続けば、早期退職者が増え、人材が定着しません。貴重な人材が失われていくことは、安定した経営という面から見てもマイナスです。

労働組合は、人材を定着させること、人材を育成することが、経営的にもプラスになることを、経営者側に繰り返し伝えることで、職場を改善する役割を担っています。人材を大切にする企業風土をつくることは、経営者と労働者の双方にとってプラスにはたらきます。労使交渉を通して、働きやすい環境へと導くことが、結果としてハラスメントなどの問題の解決にもつながるのだと思います。

横のつながりに解決のヒントがある

労働相談の内容は複雑化しているため、それぞれのケースに即した対応が必要になります。組合役員は多忙な場合が多いので、個々の相談に対して十分な時間を割けないのが現状でしょう。弁護士の立場から言えば、労働関連の法律を習得する事の重要性もお伝えしたいですが、必ずしも法的知識だけが重要ではありません。労働法などの知識は最低限のレベルを持ち合わせていれば対応できる場合が殆どです。問題に直面してから法律を調べれば対応できるケースも多いので、誤解を恐れずにいえば、法的知識の習得は、組合役員の優先順位としては決して高くないと思います。

それよりも、他の産別、他の労働組合と情報交換を行うことに時間を使ってもらいたい。個々の労働組合には、労働相談を解決してきた事例やノウハウが蓄積されています。また、職場環境を改善してきた先進の取り組みなどの情報も持ちあわせています。労働相談を解決に導くヒントは、そのような他労組の情報のなかに、どんな姿勢で相談に臨むべきかという本には書いていない情報が含まれているはずです。

「社会常識」を更新する

例えば、ハラスメントなどの精神面も絡む問題。このような問題は、白か黒かの判断が難しいものも多く、社会常識と照らし合わせて判断をくだすしかないのです。何がセクハラという社会常識からみた判断基準は、10年前と現在ではまったく異なります。近年の最高裁の判決では、現状よりもさらに厳しい概念でセクハラを捉えています。

組合役員は社会の常識と自分の常識にズレがないかを確かめ、その差を調整し続けなければ、ハラスメントなどの問題には対応できません。社会の流れや常識を敏感につかむためにも、外部と交流することに多くの時間を費やすべきだと思います。

外部の専門家と連携を

組合員から寄せられる多種多様な相談のなかには、組合内部だけではどうしても解決できない問題も含まれていることでしょう。特にメンタルヘルスなどの問題は、さまざまな要素が絡み合うため、対応に苦慮するケースが多いと思います。

組合役員がそのすべてを受け入れてしまうと、自分自身がパンクしてしまう様な場合もあります。精神的なケアや法律上の対応などは、外部の専門家と連携し、そのアドバイスに沿って進めたほうが、組合役員の負担が軽減し、何よりも問題も解決しやすくなります。

特に、メンタルが絡む問題は、精神医療の専門的な知識をもたないまま素人判断で対応すると、かえって症状が悪化するケースもあります。相談のレベルによって線引きをして、任せるところは外部に委託する、というスタンスをとったほうが、組合役員のためにも、相談者のためにもなるのだと思います。

組合活動で人生を豊かに

組合員の相談に対応すること一つをとってみても、組合役員は重責を担いながら、日々の仕事と向き合っているのだと思います。ときには、責任が重いわりには報われない、と感じることもあるのでしょう。けれども、組合活動を通じて培った人間関係の広がり、視野の広がりは、自分自身にフィードバックされ、今後の仕事や生活を豊かにするはずです。

労働組合は、労働相談を含め、平和運動、社会貢献活動など、社会的に意義のある活動を幅広く展開しています。そのような情報を外部にも発信することで、労働組合の社会的評価をさらに高めていってもらえればと思います。

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