特集2015.10

組合運動を強くする!日頃の労使関係が危機対応を左右する

2015/10/30
経営のスピード化や事業再編の波などにより、労働組合が事業所閉鎖や企業再編に直面する場面が増えている。組合はどう対応したらいいのか。事例や対応のポイントを紹介する。
林 克之 情報労連副委員長 全統一労組委員長

経営危機に直面した事例

最初に、事業環境の変化を理由に工場閉鎖に直面した組合の事例を紹介します。

自動車部品メーカーの組合でしたが、2年前、会社から突然、東京近郊に古くからあった工場を閉鎖したい、との事前協議の申し入れがありました。リーマン・ショックの受注減から景気がようやく持ち直してきたときだったので、組合員にとっては寝耳に水の出来事でした。

当時、自動車メーカーの売り上げは円安で回復しましたが、部品メーカーの利益は原材料費の高騰により伸び悩んでいました。加えて、工場の老朽化が進む一方、近隣地域の住宅化で新規の設備投資が難しくなっていました。組合もそのことを察していましたが、こんな早期の工場閉鎖は予測できませんでした。

会社は、将来的な企業の存続のためには、古い工場を閉鎖し、北海道や中国の新しい工場に集約したいと提案してきました。事業所閉鎖は高度な経営判断なので、組合執行部が工場存続に関して交渉力を持つのは、難しかったのも事実です。組合は希望退職募集の実施を受け入れ、退職金の上乗せなどの条件闘争を選択しました。

この事例のポイントは、この会社の場合、日頃から労使の信頼関係があったことです。そのため会社は、組合を無視せず、きちんと説明をし、組合にも協力を求めた上で、工場閉鎖を進めました。

また、別の会社では、リーマン・ショックの影響で3年間定昇を凍結しましたが、その後、労使の話し合いで賃金カーブを元に戻しました。これも日常の労使関係が安定しているからできたことです。

労使関係が安定していないと…

一方、対照的なのは、労使関係がうまくいっていない会社の事例です。

この会社は、東日本大震災の影響で、仕事が激減し、休業せざるを得ない状況に追い込まれました。そのとき会社は、組合員に対して、休業を一方的に通知してきました。その後も定昇を凍結させ、一時金もゼロにする施策を出してきましたが、組合が説明を求めても具体的な数字などが出てきません。結局、労働委員会の斡旋を受けて、交渉を手助けしてもらうことになりました。社長の労働組合に対する姿勢の違いが明確な事例です。

さらに、この会社の場合、希望退職に募集予定を上回る人数が手を上げました。会社に対する不信感が募ったからでしょう。そのため会社は以前に退職した人を呼び戻すなどの対応をして、なんとか業務を乗り切りました。しかし、その裏で会社に残る選択をした組合員たちは相当の無理を強いられました。日頃からの基本的な労使関係により、大きく結果が変わってくるといえます。

企業再編への対応事例

次に、企業再編により組合が解散した事例を紹介します。

この会社は、タイヤメーカーの販売会社。県ごとにあった販売会社が親会社の意向で、全国的に統合されることになりました。

このとき、親会社とその県の販売会社には労働組合がありましたが、他県の販売会社には労働組合がありませんでした。労働組合が唯一あった販売会社の組合執行部のメンバーは、親会社の組合執行部と協議し、組合をいったん解散し、新しい全国規模の販売会社で、労働組合を立ち上げることにしました。

この際にも大切なのは、日頃からの組織運営です。販売会社の組合は、日常的な組合活動にきちんと取り組んでいたので、企業再編でもイニシアチブを握ることができました。組合の解散後に、専従の従業員代表が置かれたのですが、旧執行部のメンバーがその任に就きました。そう考えると、日常の労使関係がやはり大切だといえます。

他にも企業合併に直面した組合がありましたが、こちらは、中核メンバーの定年退職や管理職登用により組合活動が弱体化していたため、統合後の会社で組合を存続することはできませんでした。

事前協議の協約化が重要

このように、経営危機でも企業再編でも、安定した労使関係が築けているかどうかが、その後の対応のために重要です。それがないと、労使の話し合いも、会社から情報を得ることもできません。

会社と安定した労使関係を築くには、まず職場の過半数の組織化が重要です。組合が職場の声を代表する組織になっていないと、会社も組合を信頼して話し合おうとしないでしょう。組合が職場を代表する組織になることが大前提です。

そのために組合は、職場の末端の声をきちんと集めなければいけません。執行部に職場の声を聞く姿勢がなければ、組合員の参加意識が弱くなりますし、執行部役員だけの意見では、会社も組合を甘く見ます。組合員へのフィードバックも含めて、末端の声を会社に伝えること。それは、会社にとってもメリットなので、その結果、組合の発言力も高まります。

その上で、危機に対応するためには、事前協議に関する労働協約を締結しておくことが重要です。全統一労組ではこの間、春闘の統一要求の一つに、事前協議制の協定化を盛り込んできました。協約のひな型を参考にしてください。労働条件にかかわる事項が生じる場合には、必ず組合と協議する担保を確保しておくべきです。

ここで大切なのは、締結した協約の書面をきちんと整理しておくことです。労使関係が安定しているからといって、口頭の約束で済ませてはいけません。必ず書面に残すこと。加えて、きちんとファイリングしておくこと。経営者が交代した場合、労使関係のよりどころになるのは、書面化された労働協約です。できれば交渉経過なども整理しておきたいものです。

また、会社からの情報を鵜呑みにするだけではいけないので、現場の肌感覚の情報を把握しておいた方がいいでしょう。上部団体の協力を得ながら、会社の経営を分析したり、ときには企業信用調査を入手したりすることも大切です。

日常活動の振り返りを

会社から厳しい提案を突きつけられても焦ってすぐに回答せずに、組合執行部でよく相談したり、上部団体や弁護士などの外部の力を活用したりしてください。企業倒産や再編・統合は難しい法的手続きがあるので、早めの相談が肝要です。

一方、結果的に組合員にとって厳しい選択をせざるを得ない場合もあります。執行部が組合員の個別事情にすべて対処できるわけではありませんが、できる限り真摯に対応してほしいと思います。

繰り返しになりますが、組合の危機対応力の礎は、日常からの安定した労使関係にあります。労使の信頼関係があれば、会社はまず組合に相談し、理解と協力を得ようとするでしょう。それがない場合に、会社の独断で、組合や従業員の立場を無視して、経営合理化策が進められてしまいます。自分たちの活動が、危機が起きた場合に対応できるものになっているかどうか、点検してください。

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