組合運動を強くする!戦略を持ち「穏やかに強くなれ」
団体交渉は保障された権利
労働組合が会社と団体交渉する権利は、団結権、争議権とともに憲法28条や『労働組合法』(第1条、第6条)で保障された労働者の権利です。使用者は、正当な理由なくこれを拒むことはできません(労組法第7条)。労働組合の役員は、この権利が憲法や法律で保障されていることを知り、労働組合の主要な機能として有効活用することが大切です。
団体交渉は、会社と労働組合の「話し合いと理解の場」であり、労働組合が「会社にお願いをする場」ではありません。また、使用者は労働組合の正当な行為をしたことを理由に、その労働者を解雇したり、不利益な取り扱いをしたりすることはできません(労組法第7条)。
労働組合はこの権利を活用し、会社側と対等な立場でフランクに話し合い、職場の問題点や改善の必要性を伝えていくことが重要です。この大前提をまずは押さえておきましょう。さらに過半数組合は、労基法が求める36協定をはじめとしたさまざまな労使協定の締結当事者なので、この締結時にも協議が必要ですし、当然、組合にも責任が生じます。
交渉の記録は必ず文書に
団体交渉の特徴は、話し合いの内容を文書で残すことです。普通の話し合いのように口頭だけ、というわけにはいきません。団体交渉で決めた約束(労働協約)は、書面と両当事者の署名や押印がなければ、効力が生じません(労組法第14条)。このように書面に残すことは重要なことなので、必ず実行してください。また、その時点で解決に至らず対立点が残ったとしても、「その交渉時の発言」として記録、調印しておきます。
労働協約は、労働基準法などの法令に違反するものは認められませんが、個々の労働契約や就業規則より上位に位置する効力を持ちます。それだけ強い効力があると覚えておいてください。
団体交渉では労働条件にかかわることすべてが協議事項になります。交渉委員に任命された人は、組合員の代表です。組合員の声を使用者にしっかりと伝える気持ちを忘れないでください。
団体交渉と労使協議会
一方、団体交渉という話し合いのほかに、労使が会社経営にかかわる情報共有や認識の一致を図ることを目的に設置するものとして、「労使協議会」や「経営協議会」があります。これらは、団体交渉と異なり、法的な規定などはありません。会社の事業動向、収支計画などに対して、労使双方のベクトルを合わせるために開催します。この場合でも記録、調印することが通例です。またこの労使協議会が団体交渉の代わりにされてしまうこともあるので、議題を限定しておくなどの工夫も必要です。
団体交渉までの準備
次に団体交渉を開催するまでの準備を説明します。
団体交渉に加わる交渉委員は、文書で相手方に通知し、労使で名簿を交換しましょう。年度が替わって交渉委員が交代するときも、文書で通知します。交渉委員以外の「説明員」を参加させたい場合は、事前に文書で申し入れしておきます。
また、団体交渉を実施する際も、文書による事前申し入れを行いましょう。団体交渉開催の申し入れは、労使どちらからでも可能です。法的な手続きはなく、口頭でも可能ですが、その後のスムーズな交渉のために、文書で通知しておくことが大切です。
文書には交渉日時や場所、交渉事項を記載しておきます。申し入れは2通作成し、1通は保管しておきましょう。このように団体交渉を始める際も、常に文書を残しておくことが重要です。
ちなみに、勤務時間中の団体交渉に関して、労使が合意してその時間の賃金をカットしないことは、労組法における使用者側の経費援助にはあたりません。
要求のとりまとめ方
団体交渉に臨むにあたって、組合側の要求を取りまとめる際のポイントは、次の通りです。
一つは、要求を「職場全体の要求」にすること。たとえ原案は執行部が提案するのであれ、最終的には『組合員全員の要求』にするまで、職場討議を尽くすことが大切です。そこから出てくる知恵は、会社側を説得する武器になります。
また、職場討議の段階では、会社の経営分析や法律上の裏付け、職場の実態など、さまざまな角度から調査活動を実施してください。この段階でしっかりした要求が組み立てられるかで、団体交渉の成果が変わってきます。これらの分析の際には、情報労連本部や県協議会をぜひ活用してください。
団体交渉のポイント
いよいよ団体交渉本番に臨みます。その際の注意点は次の通りです。
交渉の進め方・役割分担を決めて
団体交渉の前に、その日の交渉の進め方や、その日確認すべきポイントを整理しておきましょう。また、交渉の場で誰が議論をリードするのか、補佐役は誰にするのか、というように、交渉委員側で役割分担をはっきりさせておきましょう。
しゃべり続けず、聞き上手に
団体交渉の席上では自分たちの要求を訴え続ければいいわけではありません。会社側の主張を聞き、どうしたら問題を解決できるのか、信頼関係を築くことも忘れないでください。
仕事や規定を知る者は有利
団体交渉では、就業規則や現場の仕事内容に精通している人ほど、交渉を有利に進められます。それらに詳しい人を交渉委員にしたり、交渉委員がきちんと事前に学習したりしておくといいでしょう。
一般論では詰められないと知れ
一般論を述べるだけでは最終的に交渉がまとまりません。職場のどこに問題があるのか、何をどう改善すればいいのか、具体的な提案を心がけてください。
問題の焦点と矛盾をつけ
何が問題なのか焦点を絞って示さないと会社側は問題に対応できません。また会社側の提案に矛盾があれば、その点を突いて問題を改善させていきましょう。
内部の乱れは失敗のもと
団体交渉の最中に執行部の意見が割れてしまえば、会社側に交渉を有利に進められてしまいます。執行部の見解は事前に話し合っておきましょう。
機を見て休憩を。作戦タイムも必要
もし交渉中に執行部の見解が分かれるようなことがあれば、休憩時間をとるように要求しましょう。例えば、突然の質問に、その場で慌てて回答するのは得策ではありません。作戦タイムをとって、しっかりとした回答や提案ができるようにしましょう。
勝ちを急がず、一歩後退、二歩前進
団体交渉ではすべての要求が思い通りに勝ち取れるわけではありません。勝ちを急がない心構えも必要です。
交渉後の報告や分析
交渉が終わったら、必ず議事録を作成し、双方が署名押印してください。
また、その内容を組合員にきちんと報告することが重要です。かつてのように、組合員が待機していて、交渉が終わった直後に報告集会、というわけにはいきませんが、職場集会を開いたり、情報紙やメール、ホームページなどで、団体交渉の内容を報告してください。
報告の内容も、何が交渉のネックになっているか、どこまで課題を話し合えたのかなど、具体的に伝えましょう。それをしない組合は、組合の活動内容が組合員に理解されません。
また、団体交渉で得た優れた成果も、職場でみんなが使うことで初めて活きてきます。団体交渉から時間が経過した後の職場委員会や組合大会で、団体交渉の確認事項が職場でどう活かされているか、不足している点はないかなど、検証や総括することも大切です。
「穏やかに強くなれ」
中小企業の経営者で、労働組合を嫌がる人がいるのは、自分の「財布」に手を突っ込まれるように考えるからです。しかし、そうした経営者でも「生きたお金」を使うことには理解を示します。労働者が「背中がかゆい」と言っているのに、経営者が他の所をかいてあげても喜びません。執行部は、労働者が改善してほしいポイントをきちんと提案することが重要です。
加えて、日常的な労使コミュニケーションを図り、互いの問題点を理解し合えれば、団体交渉もスムーズにまとまります。信頼関係を築いておくためには、お互いが約束したことを守るといった、当たり前の行動が求められます。
組合役員から、「どんな活動をしたらいいかわからない」という相談を受けることがあります。その時は、組合員との対話会を開いて、「現場の悩みを把握すればよい」とアドバイスしています。「やることはなんぼでもある」のです。組合が活性化するもしないも、執行部のリーダーシップにかかっています。労使は「車の両輪」です。労働組合がしっかりしていない会社は、経営もきちんと成長できません。
「穏やかに強くなれ」。組合役員の皆さんにはこう訴えています。日常の労使コミュニケーションや、職場の世話役活動などをしっかりと展開し、組合員から組合があって良かったと思ってもらえるように、そしてそのサポートに情報労連中央本部や県協議会などを活用してもらえればと思います。