特集2015.10

組合運動を強くする!労使の一体感の醸成へ きめ細かいオルグで、底上げを実現

2015/10/30
労働組合活動の底上げのために非正規労働者の組織化や処遇改善は必要不可欠の課題になっている。ユニオン・ショップ制の締結から、春闘でのベースアップ獲得などで成果を上げてきたKDDI労組の取り組みを紹介する。
KDDI労働組合 (写真左から)川畑一也 組織部長、瀬田奈緒子 組織局長、登尾直樹 教育宣伝部長

2012年1月にユ・シ協定

KDDI株式会社は、2000年10月にDDI、KDD、IDOが合併して発足した。合併前のKDD(国際電信電話)にはユニオンショップ制の労組があったが、新生KDDIの労組は、オープンショップ制でのスタートとなった。組合の組織率は、その後の企業合併の影響などもあり、一時、過半数割れに追い込まれたが、地道な組織化を進めてきた。そして、2012年1月に会社とユニオンショップ協定を締結した。会社側としても、合併を重ねてきた背景から、社内における労使関係を含む一体感の一層の醸成が不可欠と判断し、協定締結に至った。

ユニオンショップ協定の締結後、これまで派遣労働者が従事していた事務業務や店頭での携帯電話等の販売業務について、新たに直接雇用の有期契約社員制度を導入し、その結果、これらの業務に従事する契約社員はKDDI労組の組合員となった。

現在、KDDIには三つの職種の契約社員がいる。それは上述の事務業務を担う事務契約社員と店頭販売業務を担うセールスアドバイサー、そして受課電による通信料金等に関する問い合わせ対応を行う料金アドバイザーである。この三つの職種の有期契約社員として合計約3000人が働いており、この数はKDDI株式会社の組合員全体のうち約3割を占めている。

契約社員の処遇改善を実現

契約社員の組織化後に、職場の不安として出てきたのは、「がんばっても賃金が上がらない」「有期契約だから将来が心配」「正社員と同じように働いているのに処遇が上がらない」という声だったと、KDDI労組の瀬田組織局長は説明する。

そのため執行部は、契約社員の労働条件の底上げが不可欠と判断。春闘などにおいて、処遇改善に力を入れてきた。

まず、13春闘では、協約化されていない契約社員への一時金支給を要求し獲得した。以降、15春闘まで毎年、契約社員への一時金を獲得している。また、13春闘では、無給休暇(弔事、結婚、産前産後など)の有給化を勝ち取った。

14春闘では、事務契約社員のベースアップ(1万2800円/月(平均))を獲得。また、車で移動するセールスアドバイザーの「通勤費」の支給も勝ち取った。続いて15春闘では、すべての契約社員のベースアップ(一律4800円/月)や正社員を含めた全職種の勤務間インターバル制度を導入した。

また、KDDI労組は有期契約社員の正社員化も推進してきた。2014年夏には、事務契約社員の正社員登用制度の導入に労使合意した。背景には、事務契約社員の契約期間が3年だったことがある。2012年4月の契約社員制度開始から2015年3月で期間満了となるためだった。登用制度で実際、正社員に登用されたのは数十人だったが、労組は会社と協議し、これまで培った経験やスキルを生かして、新たに入社する契約社員を指導するための業務を新設し、引き続き雇用される枠組みを作った。今後も正社員登用の枠組みの拡大などが課題となっている。

きめ細かいオルグで一体感を醸成

KDDI労組の15春闘結果は、総合職正社員のベア獲得額2700円(平均)より契約社員への配分を高くして(4800円(一律))、社会的な注目を集めた。

KDDI労組は、年4回、職種を分けたオルグ活動を全職場で実施している。例えば、一つの職場で、総合職と事務契約社員、セールスアドバイザー│と3回に分けて職場オルグを実施している。執行部に負荷はかかるが、それぞれの職種の組合員の声をくまなく集約するためにはきめ細かい対応が必要と執行部は考えている。

この職場オルグで執行部は、職場最前線でがんばりながら、企業業績を支えている契約社員の処遇改善の必要性を繰り返し説明した。その結果、総合職正社員の間で、契約社員も同じ職場で働く仲間という意識が高まるとともに契約社員の処遇改善が最優先であるとの考えが浸透したと、瀬田組織局長は説明する。

また、執行部では、事業所外で勤務するセールスアドバイザーへの対応として、職場オルグの回数を増やしたり、開催の時間帯を夜に設定したり、ウェブサイトを活用したりして、参加意識の向上を図っている。

会社にも生じるメリット

契約社員の組織化によって、会社にもメリットが生じた。労組がオルグ活動を繰り返したことで、契約社員の声が会社に伝わるようになったからだ。契約社員の組合員は、総合職の組合員より、職場会等に積極的に参加する事例も多いという。これにより、総合職の声だけではなく、多様な意見が会社に伝わるようになった。また、派遣労働者を受け入れていた時期より、離職率が低下したというメリットも生じた。ユニオンショップ協定の締結が、労使の一体感を醸成し、より良い会社をつくっていくという目的であっただけに、この間の取り組みが一定の成果を挙げてきていると言える。

今後の活動としては、組合活動の質の向上をめざす。職場会やイベントに積極的に参加する組合員を増やすために、労働組合の活動の意義や内容を浸透させていきたいと瀬田組織局長は説明する。KDDI労組では、契約社員の労組役員が現在2人、活躍している。現場の声をきめ細かく拾い、処遇改善につなげていく活動を継続する構えだ。

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