特集2016.04

一人ひとりを大切にする社会へマタハラ解消を起点に日本の労働環境を変えたい

2016/04/20
「女性が輝く社会」を掲げる安倍政権だが実態はどうか。マタハラ問題から社会を眺めると問題のありかが浮かび上がってくる。
圷 由美子 (あくつ ゆみこ) 弁護士
日本労働弁護団常任幹事。「マタハラNet」を立ち上げから法人化まで支援。「かえせ☆生活時間プロジェクト」発起人の一人。

─安倍政権の女性活躍施策に対する評価は?

安倍政権の当初の男女平等政策は、いわゆる「202030」(※1)のみでした。「まったくずれている」と思いました。

当時、私は次男を出産し、仕事に復帰したばかりで、育休中に地元でマタハラに遭ったママたちに接する機会に恵まれました。「活躍」の前に、その舞台にすら立てない、立てたとしても追い出されてしまう女性が大勢いる。そのことに目線を置いていないことに憤りを覚えました。

─マタハラ被害の実態は?

時系列でお話しします。まず妊娠を告げると「戦力外通告」、次に切迫流産などになると、「急に休まれても困る」と退職強要。産休に入っても復帰時に職場は門を閉ざし、受け入れてもらえず。復帰しても労働条件を切り下げられる。こうした事例が今も昔も変わらず起きています。最近では、「働くママはリスク」とされ、復帰時に正社員から有期1年の非正規に変更され、「まずは1年間、働けることを実証せよ」と言われ、あげく「権利ばかり主張する」と1年で雇い止めされた方もいます。「マタハラNet」の調査では、休みを取ったことで不利益な扱いをされたという方々のうち、なんと75%が有休の範囲内だったとの結果もあります。通常の権利行使でも、妊産婦ということで、不利益な扱いを受ける実態があります。

─マタハラの背景にあるのは?

いわゆる「昭和的価値観」や「制約社員は半人前」という捉え方、そして、実はもう一つ、周囲の社員たちが、自身の労働条件に不満を抱えていることも背景にあります。「自分は有給未消化、あるいは長時間労働なのに」との不満を、弱い個人にぶつけてしまう。本来、連帯して労働条件の改善を求めるべき相手は会社であるにもかかわらず、です。

─広島の「マタハラ裁判」(※2)やその後の厚労省の通達(※3)などの影響は?

最高裁判決や通達を受けて行政も変わりつつあります。経営側の弁護士も「マタハラが一番怖い。直ちに対処を要する問題」と語るようになりました。以前は弁護士のもとにほとんど来なかった相談も、今はコンスタントに来ています。立法分野でもマタハラ防止措置を事業主に課す法改正が今国会で実現しました。

─マタハラ解消へ求められることは?

私がマタハラ問題に取り組むのは「妊産婦」のためだけではなく、それを起点に全労働者の労働環境そのものを変えたいからです。日本の職場はいまだに「無限定正社員神話」がまかりとおり、社長講話などで「三日三晩寝ずに働いた」経験を「美談」として語る「時代遅れ」の大企業も少なくありません。トップダウンの「古い」価値観や働き方の押しつけこそが、マタハラを生み出す元凶です。マタハラ被害者は、「無限定正社員神話」に縛られ、声を上げられない男性労働者の「代弁者」です。労働力不足時代、「時間も場所も無限定で働く」労働者ばかり求める企業は、いずれ「ブラック企業」として自然淘汰されることでしょう。

私の場合も、長男・次男とも育児中に夫の深夜タクシー帰りが続きました。次男は夫になかなか懐きませんでした。長時間労働は家族にとっての時間だけでなく、自治会・ボランティアなど、市民活動も阻害し、地域や社会を壊していくことにもつながります。

─「高度プロフェッショナル制度」や「裁量労働制の拡大」を含む安倍政権の労働時間法制に対する評価は?

まったくもって反対です。8時間労働の根本をなす「防御壁」を取り除いてしまったら、「生活時間」はもっと浸食されます。労働災害(過労死、うつ病)がむしろ増加傾向にある情勢で、規制を取り払うなど本末転倒。安倍首相にはまず「時短実現」という「宿題」をやってくださいと強く言いたい。これらはもちろん女性活躍とも逆行するものです。

安倍政権がこうした提案をするのは、外国企業へのアピールが目的と考えています。規制を取り払い労働者が企業に対抗するためのツールを取り上げる。いわば「刀狩り」です。「外国企業さん、訴訟リスクをなくしました。どうぞ安心してご参入を」ということ。政府のいう「予測可能性」とは、まさにこれを示していると思われます。

私は「かえせ☆生活時間プロジェクト」の発起人の一人です。労働時間規制緩和に対し、むしろ、人間らしい生活を取り戻すことの大切さを訴えていきます。

─女性が活躍するためには?

いまは、正社員なら時間・場所問わず「無限定」、そういった働き方ができない者はパートや派遣になれ、といった状況です。すべての人が活躍できるためには、(1)整備されたさまざまな選択肢の準備(2)ライフイベントごとに(3)その選択肢を自由な意思で選択できること─が求められます。さらに、公正な評価のあり方や人材配置の仕組みを労働組合の側からも積極的に発信していくべきです。

※1 政府目標として、社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度にすること。

※2 広島市内の病院に勤務していた女性が妊娠を理由に降格されたと訴えた裁判で、2014年10月に最高裁が、「妊娠による降格は原則違法・無効」とする判断を初めて示した。差し戻し審にて、女性側が逆転勝訴。

※3 厚生労働省は2015年1月、妊娠・出産などと、降格などの「不利益取り扱い」の時期が近ければ原則として因果関係あり、と判断するよう全国の労働局に通達を出した。

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