特集2017.03

IT業界の働き方を変える[覆面座談会] 勤務間インターバル「わが社だけ導入するのは難しい」中堅企業ITエンジニアのホンネ

2017/03/16
中堅企業で働く4人のITエンジニアに集まってもらった。A~Dさんは、それぞれ500人規模のIT企業で働くエンジニアだ。長時間労働の実態などを率直に語ってもらった。

長時間労働の実態は?

─簡単にプロフィルを。

A私は管理部門の所属でプロジェクトの進捗や品質を管理しています。

Bうちは客先常駐の仕事がほとんどで、社員の80%くらいは客先に散らばっています。客先常駐の社員は、仕事も勤務時間も現場に準じて、という感じだね。

Cうちもほとんど客先常駐です。8割くらいは客先ですね。客先によって業務の繁閑もだいぶ違います。「精神論で乗り切れ」みたいな客先もあるので……。

D弊社は大企業のお客さんが多いです。

─単刀直入、皆さんの職場の長時間労働の実態はどうでしょうか。

B月45時間超の残業がある場合は、労使協議をします。ただ、これもあくまで「紙の上」ですよね。45時間を超えて60時間までと決めても、客先で仕事を振られたら「できない」とは言えないので。

特別条項の年間の上限は999時間です。数年前は1000時間を超えたこともあったけど、ここ数年はそういうことはなくなりました。徹夜で作業という話は最近はないみたいだけど、23時くらいまで毎日やっているとかは聞きますね。

C現場にいると、トラブルで呼び出されるとか、どうしてもありますよね。公共性の高いシステムだとなおさらです。私も深夜の2時とか3時に電話が鳴って、「こんなメッセージが出たんですけど…」みたいな。一番ひどい時は深夜でも自宅からタクシーで現場に来てくれなんてこともありました。

月に100時間超の残業をする人は5人も10人もいませんが、ゼロではありません。

─公共性が高いと納期は余計に厳しくなりますよね。

Cそういうことですね。一般のコンシューマーがいるシステムはどうしてもそうなってしまうかな。社内システムとはそこが少し違う。

A私は最近まで、24時間3交代制勤務で協力会社の人たちと一緒に働いていました。開発の仕事は協力会社の人たちに任せながら、私たちはお客さん向けの仕事を主に担当する。すると、二つの仕事がどうしても重なるところがあって、前者の仕事も私たちがやらないといけなくなることがあるんです。そうすると労働時間がどんどん長くなって。気がついたら30時間連続勤務していたことがありました。

特別条項は月75時間で年間720時間に抑えるようにしています。上限が迫ると会社から「帰れ」と言われますが、守っているかどうか怪しい人はいるんですよね。調べたのですが、よくわからない。そういう人はサービス残業ですね。

Dうちは、お客さんが大企業なので、客先の定時退社日に合わせて一緒に帰れるので、最近では終電まで働くということはめったにないですね。月40~50時間の残業がメインになっています。

長時間労働はなぜ起きる?

─客先での労働時間管理はどうなっていますか?

Bデータは総務が持っています。月60時間以上だと時間外の割増率が上がるし、労災のこともあるので、会社としても時間外を抑えたいので、指導はしています。ただ、あくまで納期とかあるので、36協定の上限を超えてしまう人もいるのが現実ですね。

C出先は管理しきれないですよね、正直言うと。本社内ならPCのログなどで管理できますが、出先は「申告にお任せ」みたいな。

─長時間労働が発生する要因をどう考えていますか?

Aマシンは基本的に24時間動いているので、昼も夜も関係ありません。変なメッセージが出れば夜中でも電話がかかってくる。開発もしつつ運用もしつつ、そのどちらでもトラブルが起きて、調査や回答をしないといけない。こういうのが実態なのかなと。

Bうちの運用系はシフト勤務なので、極端な長時間労働にはならないですね。つらいのは、開発系だよね。

C100時間超の残業になった現場は、一次開発がサービスインして、二次開発に進もうとしたら、一次開発でトラブルが起きちゃって。そっちに対応していたら、二次開発のスケジュールはどんどん遅れる。だけど、二次開発の納期を先延ばししてくれるわけでもなく、後から人を増やすこともできずに、一人で二つの作業をやってしまう。で、長時間労働になってしまう。

超勤はみんないけないと思っているのでしょうけど、電話がかかってきたら、やっぱり「行かなくちゃ」と思ってしまう。管理職も「行くな」とは言えない。組合には事後報告、みたいな感じですね。

─トラブルはどうしても生じてしまう。

(一同)うん。うん。それはどうしても出る。

─どうするのがよいでしょう。

C最初のサービス仕様の設計は、単なる文章でしか書かれていません。文章だけだと、意味の取りようがぶれるじゃないですか。「設計書のここの意味は何だろう」みたいな。お客さんに聞いてみると、「そうじゃないよ」と。それで手戻りが出る。

語弊のある言い方かもしれませんが、お客さんの「質」によって違いますよね。「こんなものをつくってほしい」と言われてつくってみたら「そうじゃない」とか。逆に上流工程でガチガチに決められるのも厳しいところがありますが……。

A上流で時間がかかり過ぎていつまで経っても下流に降りてこないみたいな。

Cそんなところですね。

Aうちは年に2回サービスインがあるのですが、開発してテストしている最中に、次の開発の作業が始まるので、息つく暇がない。昔はそうじゃなかったんですけどね。

Cうちもそうですね。一つの波が落ち着くかと思ったら、もう次の波が上がってきている。

多重下請けという競争社会

─下請け構造の問題は?

D試験業務やログ解析で「ノルマ」があるのですが、次の契約のことを考えて会社がそこに作業を上乗せしたり、納期を早めたりすることがあって、契約の内容通りに作業できないところがありますね。それで稼働が増える。

Aうちもパートナー企業があります。このくらいの単価だから、これくらいやってくれるだろうと思っていたら、それに満たなくて、会社が急に契約を全部切ってしまった。

─それでどうしたんですか?

A自分たちで全部引き受けました。いわゆる「内製化」です(苦笑)。

C単金が安いと自社では受けきれなくて、パートナー企業に振りながら受注することはあります。こういうのが多重下請け構造ですね。たまにこれでどうやって生活するのかというくらい安い単価で受注する企業があってびっくりします。

D競争社会ですよね。

労働時間の適正化は可能か

─情報労連では労働時間の適正化のために勤務間インターバル制度の導入をめざしています。現場の声はどうでしょうか。

Bインターバルが翌日の始業時間に重なって、その時間に出社できないというのは、現実的にはどうなのかなと。少人数で客先常駐している職場からすると、他社の社員もいるので現実的には難しいかもしれない。

A1社だけだと難しいですよね。法律で同時に守るようになれば違うのでしょうけれど。

C産業別といっても、情報労連に加盟しているIT企業もあれば、電機連合に加盟している企業もあり、そこを説明するのが難しい。勤務間インターバル制度に関しても、現場の第一声は、「じゃあ、この制度を誰がお客さんに説明してくれるんですか」ですね。

D弊社ではインターバル制度が導入されています。かつて朝方まで作業することがあったのですが、そのときに昼過ぎまで出社してこない社員がいました。他社のメンバーは朝から来ているのに、うちだけ昼から出てくるのはまずい。インターバル制度を導入することで、むしろ、休息時間に引っかからないように逆算して退社時間を早めるようになりました。特定の人に業務が偏らないように、仕事の分散も工夫するようになりましたね。

─女性の活躍促進はどうでしょうか。

C女性社員が少ないんですね。女性管理職になるとなおさら。高くそびえる目標ですね。

B女性がいても産休・育休とかになると、だいたい総務系になってしまう。

D弊社も女性社員が少ないですね。そもそも女性の採用自体が多くありません。

もっとお話を伺いたいところですが、時間が来てしまいました。本日はありがとうございました。

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