特集2017.03

IT業界の働き方を変える「働き方改革」の事例:SCSK/CTC

2017/03/16

【事例1】SCSK - 月の平均残業時間20時間以下に 「できるわけない」が「やってよかった」に

SCSKは「月の平均残業時間20時間以下」「有給休暇100%取得」を目標とする「働き方改革」を経営トップの強いリーダーシップの下で展開してきた。現場ではどのような工夫が積み重ねられてきたのだろうか。

経営トップの手紙

ITサービス企業大手のSCSK株式会社は、労働時間を削減しながら業績を伸ばした企業として注目を集めている。

SCSKは、2013年4月から「月の平均残業時間20時間以下」「有給休暇100%取得」を目標とする「スマートワーク・チャレンジ20」の取り組みを始めた。

働き方改革の取り組みは、住商情報システム株式会社と株式会社CSKの2社が合併した翌年2012年に、住友商事株式会社副社長という経歴を持つ中井戸信英氏が先頭に立って始めた。「当時、中井戸社長(現在は相談役)は、朝から疲れている様子の社員や、昼休みに机に突っ伏している社員、そして残業するのが当たり前という雰囲気を感じて、経営トップとして改善しなければと感じたようです」とSCSKユニオンの深井英明委員長は話す。

取り組みは、中井戸氏の強いリーダーシップの下で進められた。中井戸氏は、残業削減や有給休暇取得に対して理解を求める手紙をお客様に出した。また、社員の家族にも「健康増進」「有給休暇の取得奨励」をお願いする手紙を出した。当時を振り返って深井委員長は、「労働時間の削減は、すべてに優先して取り組む雰囲気があった」と話す。

当初は、高い目標に対して現場から反発もあった。「『仕事があるのに帰ることができるのか』『目の前の案件を断るのか』『品質を担保できるのか』。こうした声があった」と深井委員長は打ち明ける。

これに対して会社は本気度を示した。取り組みは、会社全体の経営施策(目標)として設定された。「残業時間が減る=収入が減る」という声もあったが、目標の達成度に応じてインセンティブ(翌年度の賞与に支給)が支払われる仕組みがつくられた(※2015年以降は、月々の給与に加算される仕組みへ変更)。また、部門単位で評価されるので、目標達成には、部門全員の協力が必要となる仕組みにした。加えて、労働時間に関して管理職の責任も具体的に問われるようになった。このような施策を通じて会社は、組織全体で取り組む姿勢を明確化した。

現場の工夫

IT業界特有の「手戻り」対策も進めた。開発プロセスの標準化を推進し、人員配置を含むマネジメントを強化した。深井委員長は、「1日の作業量を明確化したり、一つの案件を複数人で担当したり、それぞれの現場で工夫を積み重ねています」と話す。お客様やパートナー企業に対しては、担う仕事の区分や仕事の進め方などについて、より丁寧に説明することで理解を求めた。バグやトラブルに対しては、開発ステップの標準化や第三者によるチェック、全国規模での人員のアサインなどで、対応を強化している。深井委員長は、「特効薬のような施策があったというより、それぞれの現場の工夫が積み重なったことが良かったのではないでしょうか」と話す。

「残業しない」が当たり前に

こうした取り組みの結果、SCSKにおける平均残業時間と有給休暇の取得日数は、2008年度の月平均残業時間35.3時間▽有給休暇の取得日数13日から、2015年度には、月平均残業時間18.0時間▽有給休暇の取得日数18.7日(取得率95.3%)─にまで改善した。

「残業しないで帰る。有給休暇を取得するのは当たり前。こういう文化が根付きつつあると思います」と深井委員長は話す。当初は、施策に対して「できるわけない」という声も多かったが、現在は、「やってよかった」という声が大多数になったと深井委員長は説明する。

今後の課題として深井委員長は、「揺り戻しが来ないようにチェックしていくこと、トラブルプロジェクトが発生しない仕組みの追求も大切だと思います。労働組合としては、サービス残業のチェックや、組合員に対するヒアリングやアンケートなどで現場の声を拾っていきたいと思います」と話す。

SCSKではパートナー企業にも働き方改革を進めてもらうように、同社の取り組み内容や管理指標を共有している。労働時間の削減という働き方改革を広げていけるのか、業界全体が問われている。

【事例2】伊藤忠テクノソリューションズ - 20時以降の残業を原則禁止に 退社時間の「見える化」など創意工夫

CTCは、2013年12月から20時以降の残業を原則禁止にした働き方改革を展開している。退社時間の「見える化」など、残業時間の削減のためにさまざまな施策を展開している。

深夜勤務と休日勤務は禁止に

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(略称:CTC)は、2013年12月から「働き方」に対する意識変革の取り組みを進めている。

まず、2013年12月から20時以降の残業を原則禁止にした。同時に、22時~翌5時までの深夜勤務と会社休日の勤務を禁止し、当日20時以降の時間外勤務が必要な場合は、翌日5~9時の「朝方勤務」を奨励する施策を導入した。早出勤務に対しては、法定の時間外割増手当に加えて、早朝割増手当25%を上乗せし、インセンティブとして支給する仕組みを取り入れた。

「さらに今年度から管理職の評価項目に残業時間に関する項目が加わりました」とCTCユニオンの尾島代表は説明する。残業時間が規定の水準を超えた管理職はマイナス査定される仕組みだ。

また、2016年11月から退社時間を「見える化」する施策もスタートした。退社の予定時間を表示するカードを国内で働く社員6000人の社員に配布。社員は自分の退社時間を決めたら、机の上に「20時にカエル」「明日は朝方勤務」などと書かれたカードを立てる。これにより職場のコミュニケーションの促進と業務の効率化を図る。

そして、今年2月からは、経済産業省などが推進する「プレミアムフライデー」に賛同し、「プレミアムフライデー」を「働き方変革チャレンジデー」と位置付け、15時退社を推奨している。ここでは計画的な年次有給休暇の取得を呼びかけるなどしていく。

このほかCTCでは、1日の所定就業時間を変えずに始業時間をずらして働くことができる「スライドワーク」や、サテライトオフィスなどを利用した「モバイルワーク」の取り組みも行っている。

働く密度「上がった」

尾島代表は、「取り組みの当初は顧客対応で苦慮する場面もありました。ですが社会全体が長時間労働を削減する風潮にあるので、影響はさほど大きくありませんでした」と話す。もちろん、時間外を含めて顧客からの要請に対応しなければならない場合もある。しかし、「無理をして計画達成するよりも、36協定を順守するようにという指示が会社から出ています」と打ち明ける。労働時間の上限を意識したスケジュール管理を徹底することで、そうした場面をつくらないような工夫が積み重ねられている。働き方に関して尾島代表は「密度が上がった」と話す。

こうした取り組みの結果、「残業する人の数は減りました。部署によって差はありますが、私のいる部署は19時を過ぎるとほとんどの人は退社しています」と尾島代表は話す。全社的にも毎年、効果が表れていると尾島代表は説明する。

「課題の一つは、残業してでも働きたい人がいることです。会社は残業抑制に力を入れていますが、それでももっと残業したい人もいます。難しい問題です」と尾島代表は話す。労働時間の管理は、会社のシステムへのログイン・ログアウトおよび入・退館を照合してダブルチェックする。オフィス外で勤務する場合も、ウェブ上のシステムへのログを管理して、労働時間を把握している。これにより「隠れ残業」が発生しないようにチェックしている。

CTCでも00年前後は「不夜城」と呼ばれる状態もあったと尾島代表は明かす。それから10年以上が経過し、「働き方改革」が進んでいる。

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