特集2017.03

IT業界の働き方を変えるドイツ・スウェーデンの労組は「クラウド・ワーカー」の組織化を開始

2017/03/16
クラウド・ワークの広がりに欧米の労働組合はどのように対応しているのだろうか。ドイツやスウェーデンでは、労働組合による組織化が進んでいる。
木村 富美子 情報労連中央本部国際部

クラウド・ワーカーの日常

「起床すると、まず、スマートフォンをチェックして、仕事が来ているかどうかを確認します。何もなければパソコンを開き、インターネット上のマッチングサイトで仕事を探します」

アメリカ人のクリスティ・ミランドさんは、オンライン上で仕事を請け負うクラウド・ワーカーだ。ミランドさんは10年間にわたりアマゾンから業務を請け負っている。先日は12時間かけて面倒な仕事を仕上げたが、報酬は20ドルだった。それでも仕事がある日は良い。仕事がまったくなければ無収入になってしまうからだ。少しでも条件が良い仕事を逃したくないとの思いから、常にスマートフォンをチェックしている。

欧米の現状

オンライン上で仕事を請け負うクラウド・ワーカーは世界中で急増している。UNI欧州地域事務所が大学や研究機関と共同で実施した調査によると、ヨーロッパ全体では労働者の8人に1人がクラウド・ワーカーであると報告されている。

また、若い世代のクラウド・ワーカーが多いことが明らかになっており、全クラウド・ワーカーのうち、スウェーデン57%、イギリス50%、オランダ42%、オーストリア47%、ドイツ50%─が35歳以下との結果であった。

クラウド・ワークのメリットは、「自由に働ける」「融通がきく」、デメリットは「収入が不安定」「将来の保障がない」と考えられている。

幼い頃からデジタル機器を使いこなしてきたミレニアル世代には、自ら進んでクラウド・ワークという働き方を選んでいる人も多い。ミレニアル世代の労働者はコミュニティーへの帰属意識が薄く、労働組合への関心がないとも言われている。しかし、UNIのホフマン副書記長は「若い世代が労働組合に関心が薄いというのは思い込みだ。彼らは人とのつながりを大切にし、社会への貢献意欲が高い。ストライキやデモといったイメージに代表される労働組合に関心がないだけだ」と指摘する。加えて、「労働組合自身も活動の中身とイメージをリニューアルする必要がある。労働運動という一つの傘の下にさまざまなスタイルがあっても良い」と説明し、労働組合自身の変革の必要性を訴えている。

欧州での組織化事例

210万人のサービス労働者を組織するドイツ統一サービス産業労組(Ver.di)は、特定の企業に属さない自営労働者のための「メディアフォン」というオンラインサイトを運営し、組織化につなげようとしている。メディアフォンは誰でもアクセスできるサイトで、さまざまな相談をメールで受け付けて電話で回答している。クラウド・ワーカーからの相談では、契約や法律に関するものが多い。組合員は無料、一般は有料で1時間15ユーロ。他にもセミナーや勉強会を開催し、クラウド・ワーカー同士の交流の機会を作っている。

スウェーデンでサービス労働者を組織するユニオネン(64万人)は、この5年間で12万人の新規組合員獲得に成功した。スウェーデンは労働組合の力が強く、組織率は実に70%に達する。しかし近年では組合離れが進み、ユニオネンでも組織人員が減少していた。こうした状況を受けて、ユニオネンは組織化対象を絞り、組織のイメージアップを伴う新たな組織化戦略を策定した。主に職場で行っていた勧誘活動に加えて、テレビ広告やインターネットによる自営労働者向けの勧誘活動を積極的に実施し、その結果、多数の新規メンバーを獲得した。新たなメンバーには多くのクラウド・ワーカーも含まれる。

アメリカの事例

アメリカには自営労働者のための「フリーランサーズユニオン」という組織がある。いまや3人に1人といわれる自営労働者の生活向上を目的として2001年に発足し、会員数は現在35万人。2008年からは自営労働者のための医療保険プログラムを実施している。加盟費は徴収せずに、寄付金を活動の財源としている。

発足当初は一気に会員数を伸ばしたが、最近では「寄付が集まりづらい」「活動が停滞気味」などの悩みを抱えている。とはいえ、昨年はニューヨーク州で「フリーランサーズ賃金条例」の成立に貢献した。800ドル以上の請負労働について書面での契約を義務付けるというもので、立場が弱い自営労働者の保護やトラブル未然防止に役立つとして注目を集めている。

クラウド・ワークの課題

昨年、連合が実施した「クラウド・ワーカー意識調査」の結果からも、メリット・デメリットが指摘される中、その働き方は日本でも増加しているが、企業と雇用関係を持たないクラウド・ワーカーに労働組合はどのようにアプローチすべきか。

「クラウド・ワーカー」には明確な定義がないが、一般的にはオンライン上で仕事を請け負う労働者と考えられている。勤務場所はさまざまで、副業の場合もあれば、複数企業から仕事を請け負うケースもあり、クライアントが国外企業という例もある。

また、クラウド・ワーカーは社会保障の枠組みから外れているという課題もある。国によって違いはあるが、欧米各国ではクラウド・ワーカーは労働法の適用外であり、日本においても労働基準法や最低賃金法などは適用対象外である。今後、クラウド・ワーカーが増加して既存の従業員に置き換わったら、一体、誰が税金を納めるのか。社会や経済の仕組みにまでかかわる問題であり、社会全体で検討すべき課題である。

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