特集2017.03

IT業界の働き方を変えるIT業界の長時間労働はなぜ起きる?働き方改革の最優先は健康管理にある

2017/03/16
「東京過労死を考える家族の会」などで活動する木谷晋輔さんは、2002年から11年までITエンジニアとして過酷な長時間労働を経験した。現在は、情報サービス業界の長時間労働を是正する活動にも取り組んでいる。長時間労働の実情や求められる対応策などについて聞いた。
木谷 晋輔 東京過労死を考える家族の会ITエンジニア

─長時間労働の実態は?

一番ひどかった時は、月150時間の残業が連続していました。そのときは24時間2交代制の仕事で、勤務時間は夜の9時から朝の10時まででした。時間内に終わることはほとんどなくて、いつも昼過ぎまで残業です。ひどい時は職場内に段ボールを敷いて寝ていました。

当時は、テスト作業を管理していましたが、バグの発生率がものすごく高くて。テスト項目の千数百に対してバグが2000以上発生するというすさまじい状況でした。こういう状況でも会社は従業員の健康管理に目が向いていなかったように思います。

─長時間労働が発生する要因は?

長時間労働が発生する要因は、社内要因と社外要因に分けられます。

社内要因としては、長時間労働が評価されるような職場風土や、管理職が労働時間を把握しない労務管理の問題が挙げられます。

IT業界では、開発や設計・テストなどの実務を担当した人がプロジェクトマネジャーになることが一般的です。けれどもプロジェクトマネジャーと、開発やテストに求められるスキルは全くの別物です。開発経験があるから管理ができるかといえば、そうではありません。マネジメントのスキルや経験のない人が管理するチームが大変な目に遭うことはよく聞く話です。

また、社内要因として「営業力」も挙げられます。技術に明るくない営業職が、無理な納期や単価で受注してしまう。実際、A社向けに作ったシステムを同業他社のB社に使い回せるだろうと見積もって営業が短納期で受注してきたら、一から作り直さないといけないくらい無理な案件だった、なんてこともありました。

ほかにも、技術力に偏りがあり、「できる」人に仕事が集中する問題もあります。

─社外要因はどうでしょう。

社外要因では、「人月」の問題が挙げられます。製造業の工場では、作業工数とそれにかける人数を想定すれば、最終的な生産物の量も見えてくるでしょう。しかしIT業界で、それと同じように見積もるのは危険です。ソフトウエアは、設計書に基づいて組み立てればきちんと動くかといえば決してそうではなく、開発にもスキルの差が大きく影響します。そのあたりのことを理解せずにブルーワーカー的な発想で作業に頭数を掛けるだけで計算すれば、そのプロジェクトは後々の工程で大爆発します。

「人月」ではなく、スキルやタスクで価格を設定するような方法をとっている企業もあります。ですが、独自の技術を持たないと結果的に価格競争にのみ込まれてしまう。買いたたかれないための技術を持つ必要がありますが、なかなか難しいのが現実です。

さらにクライアントも品質をそこまで重視しない実態があります。A社の製品は品質がものすごく高くても、ぼちぼちの品質のB社の製品が安ければ、そちらを取ることが多い。ソフトウエアという見えないモノの価値、クライアントからの不可視性が大きく影響していると思います。

─多重下請け構造もありますね。

予算と納期をセットで確保しないと従業員にしわ寄せがいく傾向が強いです。労使の関係が対等なら、「この納期や賃金ではできない」と拒めるかもしれませんが、現実はそうではないので、「いいから早く終わらせろ」となってしまう。

サービスは本来的には対価として提供されるべきものですが、日本では無償で提供されるものがサービスだと思われている節があります。法外な割引価格で引き受けてしまう中小企業の実態を見たことがありますが、長い目で見れば自分たちの首を絞めることにつながると思います。どこかでしっかり一線を引かないといけないと思います。

クライアントへの要求対応として、カレーライスを例にした話をしています。例えば、お店でカレーライスを注文して、唐揚げをトッピングするならお店も後から対応可能です。しかしそれが、カレーを出した後に、ライスをサフランライスに変えてくれとか、ルーをグリーンカレーに変えてくれとかいうのは無理な話です。そういうクリティカルな仕様変更にクライアントがピンとこないケースがあるので対応が難しい。理解してもらうためには説明し続けるしかありません。仕様変更に対しては、費用や納期を必ず追加することも大切です。

─長時間労働の抑制にどんなことを要望しますか。

従業員の健康管理は企業の最優先課題です。従業員は会社の本質的な資産だと思います。従業員が健康に働けない企業の業績がずっと伸びるわけがありません。健康に働くためにも最低限の労働時間規制が必要で、労働時間の客観的な把握はその大前提だと思います。労働時間が適切に把握されていなければ、たとえ36協定に上限を設けても絵に描いた餅です。隠れ残業や不払い残業が増えてしまいます。

総労働時間数の上限設定や勤務間インターバル制度を要望します。徹夜で働いて、そのまま午前中も働き続けたことが何度もありますが、そういうときは正直、仕事になりませんでした。経営者からしても、パフォーマンスが低下した従業員に残業手当を払うのではマイナス面が大きいはずです。従業員に100%のパフォーマンスをしてもらうためにも、勤務間インターバル制度はプラスに働くと思います。

また、健康管理としてメンタルヘルス管理を要望します。私の同期入社74人中12人がメンタル不調による退職または1カ月以上の休職に追い込まれました。うつ病になる人がいることが日常という、異常な環境でした。こうした環境が、IT業界の人手不足の要因の一つになっているのではないでしょうか。

─業界構造に対しては?

多重下請け構造に関して公正な取引を促すガイドラインがあるようですが、適切に機能していない印象があります。元請け側で発注内容を規制しないと、下請け企業では対応が難しいと思います。元請け側による自主的な制限やガイドライン、一定の法規制が必要ではないでしょうか。

ユーザー企業に対してソフトウエアに対する理解を高めることも必要だと思います。

─労働組合に期待することは?

無理な納期や費用のプロジェクトに対して、従業員から「無理」と伝えるのは難しいです。それを伝えても、プロジェクトから外されてしまうのが現実です。そういう場合に労働組合が間に入って会社と交渉してくれたらいいと思います。賃上げも大切ですが、命あっての物種です。労働者の命と健康を守る取り組みに期待しています。

長時間労働が発生する理由 (3つ以内選択)
情報労連「ソフトワーカー労働実態調査2014」
「納期」について適正範囲での契約が難しい場合の対応 (複数選択)
情報労連「ソフトワーカー労働実態調査2015」
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