特集2017.03

IT業界の働き方を変える広がるクラウド・ワーキング
アメリカのフリーランスの実情は?

2017/03/16
経済産業省がフリーランスに関する研究会を立ち上げるなど、雇用によらない働き方の広がりへの対応が検討されている。とりわけIT業界は、フリーランスの最前線だ。アメリカのフリーランス事情について聞いた。
山崎 憲 独立行政法人労働政策研究・研修機構調査部海外情報担当

規制緩和の歴史

アメリカにおける在宅形態の就労は、産業構造が変わる中で、なし崩し的に規制緩和されてきました。アメリカは1943年に連邦規則集で、在宅形態の就業を服飾や宝飾品の加工など七つの産業に限り許可制の下で限定的に認めました。

その後、この規制が撤廃されたのは80年代になってからです。81年から調査が始まり、89年に原則自由化されました。規制緩和の背景にはインターネットの発展があります。労働組合は反対の立場でしたが、70~80年代に労働組合が弱体化したことが規制緩和の要因に挙げられます。当時の在宅就労は雇用関係がベースであり、現在のように請負労働はあまり問題視されていませんでした。

しかし、アメリカ政府は90年代にすでに請負化の問題を認識していました。94年の「ダンロップ委員会」では、雇用の網の目に引っかからない請負労働者の増加に関して、団体交渉権や最低賃金、健康保険・年金など、請負労働者を保護する法律がないことに懸念を示していました。

2010年に米・国勢調査局が行った在宅労働者調査では、週のうち少なくとも1日は在宅形態で就業する労働者の数が1340万人に上っています。97年調査の924万人から400万人以上増加しています。

在宅形態の就業を行う労働者の73.3%は、非自発的理由で在宅形態での就業を選択していました。そのうち約半数が自営で、年収の中央値2万5500ドルに過ぎませんでした。在宅形態で就業するコンピューターエンジニア、科学職の割合は、00年から10年にかけて69.0%増加したという結果も出ました。

フリーランサーズユニオン

在宅で就労する請負労働者を積極的に組織化している労働組合はまだありません。一方で、労働組合ではありませんが、フリーランサーズユニオンというNPOがあります。芸術・デザイン・メディア・広告・ITエンジニアなどの個人事業主でつくる組織で、会員は現在約35万人。健康保険の団体割引制度や職業訓練機会の提供、情報共有の場などを提供しているほか、ロビー活動を展開し、州や自治体での条例づくりにも取り組んでいます。16年11月にはニューヨーク市で、フリーランサー賃金条例が制定されました。800ドル以上の請負労働を契約する場合は、対価の支払い期日や金額を書面で明記するなどと定めたものです。

フリーランサーズユニオンは、元請け業者との団体交渉権を求めるというより、業界団体や政治家、行政などを巻き込んだ「ラウンドテーブル型」で交渉し、請負労働者保護の枠組みをつくろうとしています。従来の労働組合とは異なる手法で注目すべき点だと言えます。

既存の労働組合は、雇用の請負化に反対の立場に立っています。その中に元請け企業に雇用責任を負わせようとする活動があります。産業構造の全体像を調査し、元請け企業との雇用関係を問うものです。ロサンゼルスでは、昨年6月に賃金取締条例が施行され、調査の結果、元請け企業が雇用責任を逃れていると認められれば、元請け企業に対して罰則や事業停止措置が科されるようになりました。マサチューセッツ州では、請負労働者の労働実態を調査し、認められれば雇用労働者に置き換えられるという独立請負条例が存在します。アメリカに限らず日本でも、こうした動きが活発化する可能性は十分にあります。

日本への示唆は?

日本では政府が働き方改革実現会議で副業・兼業を議論するとともに、経済産業省がフリーランスに関する研究会を立ち上げています。

そもそも、企業にとってのコア人材は、本業だけで手いっぱいになっている人材で、副業できる人材は簡単な仕事を任せている人材と捉えることもできます。その一方で、副業できる人の担っている業務は、アウトソースされる可能性が高まっています。仮にその仕事が請負に切り替えられた場合、仕事の単価が切り下げられ、長時間労働に歯止めがかからなくなる恐れがあります。

日本の労働組合は今のところ、個人請負化のこうした負の側面を規制する主体になっていません。まずは徹底した実態把握が求められます。その上で、入札に関して、民間企業の取り引きにも公契約条例のような評価項目を盛り込むことも検討できるでしょう。また、例えば、企業内の教育訓練制度を利用できたりするとよいのではないでしょうか。

雇用の請負化が日米ともに進行する中で、クラウド・ワーキングの負の側面もきちんと見ておく必要があるでしょう。

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