特集2017.03

IT業界の働き方を変える[座談会] いまこそIT業界に働き方改革を

2017/03/16
働き方改革の機運が盛り上がる中、IT業界の働き方に焦点が当たっている。ベンダー、ユーザー、労働組合の立場から、働き方改革の必要性や実現に向けた課題などについて語り合った。
(左) 西村 光司 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS) 常務理事事務局長 (中央) 廣瀬 毅 一般社団法人情報サービス産業協会(JISA) 常務理事兼事務局長 (右) 柴田 謙司 情報労連中央本部書記長

働き方改革はなぜ必要か

司会(情報労連中央執行委員 宮原 千枝)

本日の座談会は、「IT業界の働き方改革」をテーマに、ITベンダー企業、ユーザー企業、労働組合のそれぞれの視点から、IT業界のこれからの働き方を展望していきたいと思います。

まず、働き方改革が求められる背景をどう捉えていますか。

柴田

労働組合の課題認識は、この産業の魅力を高めることです。IT業界は、「箱のない建設業」だと言われます。発注者から数次の下請けにおよぶ多重下請け構造があり、その中で長時間労働やメンタルヘルスが問題になっています。労働組合としては、こうした問題を改善し、魅力ある産業にすることなどを訴えています。

廣瀬

IT業界の働き方改革は、マクロとミクロの両方の視点で考える必要があると思います。

マクロの視点は、日本の労働力供給の変化です。この変化に伴い、二つの制約が生まれています。一つ目の制約は、少子高齢化で労働人口が減少していくこと。もう一つの制約は、育児や介護などで時間に制約のある社員が増えていくことです。

ミクロの視点は、IT業界の魅力が若者にとって相対的に低くなっていることです。若者は長時間労働などの問題に敏感で、優秀な人材がIT業界に集まってこないという問題があります。

JISAは一昨年に「JISA Spirit」という宣言を出しました。私たちはこの中で、IT業界がこれからの日本経済を牽引する業界になること、これからの若者にふさわしい産業であることを宣言しました。働き方を変えて、魅力ある業界にしていくことは私たちにとっても重要な課題です。

西村

お二人のお話に加え、働き方改革の背景として、デジタルビジネスの進展が挙げられます。ITを活用したイノベーションの重要性が増す中で、企業は早期の製品投入や、プロセス改革が求められるようになっています。このため、従来のような基幹システムの保守・メンテナンスに多くの労働時間を割くような状況では、時代の変化に追い付けません。働き方を変えて、労働時間を削減し、エンジニアが新しい技術を身に付けること、価値創造に人員を振り向けることが必要になってきています。

また、ITの仕事の魅力が増せば、多くの学生がIT業界を志望するようになると思います。

働き方の何が問題なのか

司会

働き方改革を進める上で何が課題になるでしょうか。

廣瀬

ベンダーサイドとしては、プロジェクトマネジメントの問題が一番大きいと思います。ソフトウエアの開発・運用には多段階の工程があり、多くの技術者がかかわります。そのため、当初の見積もりや人の配置、品質管理などのマネジメントが重要になります。しかし、その一方で無理に仕事を受注してしまったり、進捗管理が不十分だったり、エンジニアのスキルが技術進歩に追い付かず、仕事が一部の人に偏在してしまったりする問題があります。こうしたプロジェクトマネジメントの失敗が大きな課題だと考えています。

西村

要件や進捗を見える化し、体制や期間に関するリスクを事前に洗い出し、早く対策を講じることが大切です。

さらに重要なのはコミュニケーションです。ソフトウエア開発には、発注するユーザー企業、情報子企業、一次・二次請け企業など、多くのプレーヤーが携わります。これらの関係者が一つのチームになることが大切です。関係者全員がプロジェクトの責任を負うことで、成功率が高まり、長時間労働も改善するのではないでしょうか。

司会

ユーザー企業とのコミュニケーションについてどうお考えですか。

廣瀬

欧米のIT人材の約7割は、ユーザー企業にいます。日本はその逆でIT人材の約7割がベンダー企業にいます。ただ、産業の成り立ちなどを考えると、一概にどちらが正しいとも言えないと思います。必要なのは、お互いが共通の認識を持つことや、同じ技術レベルを持つことではないでしょうか。

柴田

ベンダー企業にIT人材が多くいることで、客先常駐という形態が多くなっています。客先では、顧客のニーズに応えるため、労働時間が長くなるといった問題があります。

西村

長時間労働対策などの施策は、客先常駐の企業も含めて、一緒に取り組んだ方がチームワークの向上につながります。それが結果的にプロジェクトの成功につながるのではないでしょうか。

廣瀬

西村さんがおっしゃる通り、チームワークやコミュニケーションがとても大切です。「私たちは帰るけれどあとはよろしくね」。こういうチームでは、プロジェクトは成功しません。

納期をどうする?

司会

納期の問題についてどう考えていますか。

廣瀬

グローバル競争の中で生き残りを図る企業にとって、納期が短くなることがあるのも仕方ないことだと思います。ベンダーサイドとしては、品質管理や変更管理を徹底して手戻りをなくすことが重要です。また、開発手法もウォーターフォール型だけではなく、アジャイルやDevOpsなどの手法を用いることも必要だと思います。

西村

ビジネス上、短納期にならざるを得ない場合がありますが、そのプロジェクトがうまくいかなければ元も子もありません。発注側も、「短納期とわかっていて受注したんでしょ」という姿勢では、今後は仕事を受けてもらえなくなります。企業や労働組合が協力して一つの方向に向かうことが必要だと思います。

また、「灯台下暗し」で、システム開発のプロセスがIT化されていない現状にあります。BPMSやAI・ルールエンジンを用いて匠のノウハウを標準化することも、短納期対応やシステム品質向上に大いに有効だと思います。

柴田

公共系システムで納期に無理があるケースが多いと聞いています。難しい問題とはいえ、ユーザーに理解を求めることも大切になってくると思います。

労働時間の上限規制への対応

司会

働き方改革の議論では、労働時間の上限規制や勤務間インターバル制度も議論されています。どう捉えていますか。

廣瀬

JISAは昨年11月に経済産業大臣に要望書を提出しました。情報サービス業は、金融やエネルギー、交通機関など社会の重要インフラを支えているため、予期せぬトラブルには対応せざるを得ません。こうした事情から労働時間の上限規制に関して、業界の固有の状況を勘案してほしいと要望しました。

JISAでは、政府の働き方改革実現会議のとりまとめに合わせる形で、「働き方改革宣言」を検討しています。労働時間に関する具体的な目標は現在議論中ですが、総労働時間を削減する方向で話を進めています。勤務間インターバル制度に関しては、まず労働時間の総量を減らすことが優先だと考えています。

西村

新たな規制や制度は、各社の風土・実情に合わせて、どんどん進めていけばいいと思います。そうしたルールづくりと人材育成が絡み合えば、この業界の魅力も向上すると思います。

勤務間インターバル制度は、突発的に2~3日厳しい状況に置かれることもあるので、もう少し柔軟的に考えられたら良いと思います。

魅力ある会社にしなければ、企業のリスクが高まる時代です。経営者には働き方改革に本気で取り組む姿勢が求められていると思います。

柴田

ルールを守らない企業に全体が引っ張られることのないように、全体で取り組む姿勢が問われていると思います。

人材育成に関しては、毎日、深夜まで残業している現場では、新しい技術を身に付ける時間も余力もありません。長時間労働はこうした点でも悪循環を招いていると思います。

廣瀬

JISAは労働時間を削減して、その時間を個人の趣味や学びに利用したいという思いを強く持っています。特に先端技術や新しいビジネスに向けた学びは重要です。要望書では、人材育成に対する国の支援も求めました。

多重下請け問題はどうする?

司会

多重下請け構造の問題はどうでしょうか。

廣瀬

JISAの調査では、会員企業における人手不足感が過去10年間で最も高まっています。そうした中で、あまりにも短納期で低単価の仕事では、下請け企業に引き受けてもらえないという話も聞きます。

国は、下請法の運用基準を改正するなどしていて、今年度内にも下請けガイドラインを改訂する予定と聞いています。これに合わせて、JISAでも自主行動計画を策定すべく現在検討中です。

西村

一つのチームとなってプロジェクトを成功させるためには、進捗管理や推進体制に関する事項を契約書に織り込んでルール化するなどの取り組みも重要だと思います。

柴田

労働組合としても、発注などに関するガイドラインのようなものを発信したいと考えています。

働き方を変える絶好の機会

司会

最後に、今後の展望についてお聞かせください。

廣瀬

私たちは、この業界に携わる人が生き生きと働けるような環境をつくっていきたい。そのためには働き方改革が不可欠だと認識しています。

国も含めて機運が高まっている今は、いい機会です。厚生労働省のIT業界における長時間労働対策事業には、さまざまな業界団体に加えて、労働組合も参加しました。こうした団体間の連携を企業レベルに波及させていくことが今後の課題だと思います。

西村

働き方改革は、IT業界にとって、いくつかある課題の中の一つではなく、根底にある課題だと思っています。オールITで取り組むべきだと思います。

柴田

この業界では、労働組合がまだまだ少ないのが現状です。働く人たちの声を拾い上げて、課題解決に生かせるようにしたいと考えています。本日はありがとうございました。

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