特集2019.01-02

政治とのつながりを見つめ直すいくつかのメッセージ「安倍一強」はなぜ可能になったか
野党が示せる対抗軸と労組が取るべき行動とは?

2019/01/15
問題だらけのように思える安倍政権だが、安倍首相の在任期間は史上最長に到達しそうな勢いだ。それを可能にする日本社会の現状とは何か。対抗勢力は何を有権者に提示できるのか。識者に聞いた。
吉田 徹 北海道大学教授

投票率と政治不信

投票率の低さが、政治への無関心として語られることがあります。しかし、他国と比べて日本の投票率だけがとりわけ低いわけではありません。アメリカの大統領選挙でも投票率は50%くらいです。中高年層の投票率が高く、若年層の投票率が低い傾向は、どの先進国でも共通しています。

実際、長期的に見ると先進国の投票率は徐々に低下傾向にあります。これには二つの理由が挙げられます。まず、若い頃に投票が習慣化するとその後の選挙でも投票する傾向が高まります。1960〜70年代の「政治の季節」を若い頃に経験した年代層は投票率が高い傾向がありますが、それ以降の年代はそうした政治的イベントが少なくなりました。そのため若年層の投票率は低下する傾向にあります。

もう一つは、各国での政治不信の広がりです。政党、政治家、中央政府など既成政治に対する不満が高まる一方、人々は投票以外の方法で政治に参加するようになりました。例えば、デモだったり、不買運動だったり、SNSを通じた発信などです。投票だけが重要なのではなく、それ以外の政治参加のあり方も広がりを見せてきました。既成政治に対する不信感がある以上、政治意識が高くとも、それが自動的に投票率に反映されるわけではありません。

長期政権はなぜ可能になったか

安倍政権が選挙でなぜ勝ち続けているのかという質問もよく受けます。その理由の一つに解散権の乱用があります。有権者が選挙でできるのは示された争点に対する総体的な可否の意思でしかありません。つまり問われる争点が具体的なほど、有権者の答えも具体的になります。例えば、2014年の総選挙で安倍首相は、「消費税を上げないこと」を解散理由としましたが、増税引き伸ばしに反対する有権者は多くありません。反対のない争点を「合意的争点」などと呼びますが、解散権を握る側が争点設定の主導権を握った上で、反対しにくい争点を掲げれば、投票率も低くなり、与党は有利になります。

その一方で、野党の分断もあります。小選挙区制の下で与党・自公が完璧な選挙区調整をする一方で野党が分断していれば、勝てる選挙も勝てません。争点設定も与野党の力関係に依存しています。野党の力が強いほど、争点設定に影響力を及ぼせますが、野党の分断によってその影響力も限定されています。そうなると投票率は必然的に低くなり、組織票を持つ与党が有利になる、という構造的な問題があります。

「今のままでいい」有権者

「安倍一強」がなぜ実現したかと言えば、ポスト55年体制の政治行政改革の結果でもあります。まず、小選挙区制の下で政党執行部に権限が集中するようになったことが原因としてあります。候補者の公認や、資金提供などで執行部が強い権限を持つようになると、候補者は党幹部の意向を忖度して行動しなければ当選もおぼつかない。次に、「橋本行革」によって首相官邸の権限が強化され、官邸に党が従属する、いわゆる「政高党低」の状態となります。対する野党は野党同士の競争に埋没して、信頼ある選択肢になり得ていません。

安倍内閣による政権運営には強引さが目立つ一方、有権者が最も重視する景気や社会保障で、大きな失策があったわけでもありません。景気は世界経済の動向に左右されますが、曲がりなりにも賃上げが実現し、質の面は別にしても雇用の数は増えています。リーマン・ショックの頃に比べると物事が大きく悪くなったと感じる有権者が少ないので、現状維持志向の有権者層が結果として安倍一強を許している側面もあります。

野党が示せる対抗軸

この状態に対して野党は何を提示すべきでしょうか。政治はダンスのようなものなので、相手のステップに合わせて争点を作り出す必要があります。その前提で言えば、一つは国際社会の中で日本がどのような国になるかという、国のあり方についてのビジョンがあります。安倍政権の方向は、投資を呼び込み、輸出で稼ぐといったような、グローバル化の波に乗って日本を豊かにしていくものです。これに対して、福祉やサービス業を中心とした内需を充実させ、軍事的にも中立路線という対抗軸が考えられるでしょう。いわば「大国路線」に対する「小国路線」です。

もう一つは、文化・社会的次元にかかわるもの。社会を構成する要素を個人とするのか、それとも家族や企業、地域といった共同体に置くのかです。前者は性別・年齢、障害の有無などにかかわりなく、個人にユニバーサルな権利を保障する政策が重視されるでしょう。後者は、自民党改憲草案にあるように、家族といった共同体を社会の基礎に置く方向です。個人を中心とするか、共同体を中心とするかも、新たな対抗軸として構想されるべきです。

苦境に立つ社民政党と労働組合

欧州でも社会民主主義政党は苦しい立場に立たされています。フランスの社会学者ロベール・カステルは、近代では働くことと政治的・社会的権利が一体となり民主化が進んできたと指摘しています。しかしポスト工業社会になり、その前提はすでに崩壊し始めました。働くという行為の延長線上に権利の獲得や民主化があったのに、不安定かつ限定的な仕事が増え、それまで一体だった労働と政治的・社会的権利が分離し始めました。

こうした中で、社会民主主義政党や労働組合は苦境に陥っています。カステルは、労働者層は政治的にリベラルとは限らないと指摘します。社会民主主義政党は、経済的には保護主義を採用し、労働者に雇用と生活のセーフティーネットを提供してきました。1960年代になると、政治的にリベラルな価値が広がっていく過程と重なることで、社会民主主義政党の現在のイメージができ上がります。しかし、1990年代以降は、社会民主主義政党も含め、政治は経済的にリベラルな方向を強めます。保護される対象だった労働者層が取り残されたため、彼らが支持するようになったのが、経済的な保護主義と社会的な権威主義を組み合わせたポピュリズム政党です。

社会民主主義政党が強かったのは、経済的な保護と政治的リベラルを車の両輪にできたからです。日本の場合、憲法問題があるため、政治的リベラルに運動の軸が偏りがちです。しかし、人々がまず気に掛けるのは、日々の生活です。暮らしの面で取り残されたと感じる人々が増えれば政治的空白が生まれる懸念は高まります。安倍政権はこの点に敏感で、経済的保護という姿勢を手放していません。日本のリベラル勢力は経済問題について大きな見取り図を描き出すべき努力をすべきでしょう。

党派を超えて現場を大切にする

労働組合は日々の職場の問題を処理する組織ですから、頭でっかちにならないことが大事です。現場の働く人々をまずは大切にすること。日々の生活に格闘している人たちを党派やイデオロギーに関係なく包摂していくことが最も大切です。「他人に優しくする」「他人に優しくしてもらえた」という互酬関係は社会資本となり、それが民主的な社会の基盤となります。工業社会の遺産としてまだ大きなリソースを持つ労働組合は、新たな環境に置かれている労働を、生産の場にとどまらない形で発展させていく拠点になるべきでしょう。

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