特集2019.01-02

政治とのつながりを見つめ直すいくつかのメッセージアメリカに見る民主主義の伝統と底力
日本にある民主主義の伝統を探るべき

2019/01/15
昨年10月のアメリカ中間選挙から読み取れることは何か。アメリカの民主主義の伝統に対して、日本にある伝統とは何か。それを探ることが大切だ。
篠田 徹 早稲田大学
社会科学総合学術院教授

「真ん中」への揺り戻し

ワシントンDCだけを見てもアメリカは語れません。アメリカは人口的にも面積的にも規模が大きい国です。ヨーロッパに50の国があり、それを一くくりにできないように、アメリカもそれくらい地域性があると考えた方がいいというのがアメリカを見る際のポイントです。

中間選挙に対する評価もさまざまです。民主党が下院を奪還しましたが、上院を確保できればトランプ政権は問題ないと評価する人もいます。次の大統領選挙まであと1年半。その間に極端な景気悪化を招かなければ、支持率が急激に落ちることもないため、再選するという見通しもあります。そのため、中間選挙の結果がトランプ政権の今後を占うというのも条件付きで見た方がよいでしょう。

ポイントとして言えることは、女性運動の躍進です。「#MeToo」などを背景に、職場を中心としたパターナリスティックな支配状況に大きなひびが入ったのは確かです。揺り戻しがきかない「ティッピングポイント」を超えたと見ています。その政治的な表現が中間選挙だったと言うことはできます。

女性議員(圧倒的に民主党)の躍進によって議会は今後どうなるでしょうか。民主党内で意思統一できなくなると言う人もいれば、リベラルの進出と言う人もいます。そうした中、ウォール・ストリート・ジャーナルは、「プログレッシブ(進歩的・革新的)」よりも「モデレート(穏健)」の進出と評価しました。女性議員イコール「プログレッシブ」で「リベラル」という訳でもありません。そういう意味ではリベラルの進出という評価も確定的ではありません。トランプ大統領の「分断」に対する「真ん中」への揺り戻しが起きたというのが一つの見方だと思います。

それを裏付ける一つの動きは、トランプ支持者の「オバマ・ケア」に対する反応です。トランプ支持者の中には、医療ケアに困難を抱えている人たちがたくさんいます。そうした人びとが党派を超えてオバマ・ケアの恩恵を受けている。そのことが民主党への揺り戻しの一部になりました。リベラルの進出と言っても、複雑な背景があると見た方がよいでしょう。

アメリカ民主主義の底力

リベラルの進出としてもう一つ語られるのは、ニューヨークで社会民主主義を掲げる女性候補が当選したことです。ただ、ニューヨークやサンフランシスコのような経済的先進地域は、特殊で一般的なアメリカ社会から切り離されていると見た方がいいくらいです。これがアメリカ全土に波及するかというと、むしろニューヨークのローカルポリティクスの話と捉えた方がよいでしょう。むろん、ローカルポリティクスであっても、社会民主主義的な要求や政策が支持されるようになったこと自体は興味深い現象です。しかし、それをアメリカ全土に波及させるのはどうかということです。パリで起きていることをベルリンやローマにそのまま当てはめないように、州が違えば事情も違うという点を押さえておいた方がいいでしょう。アメリカには“politics is local”という有名なフレーズがあります。今回の中間選挙でもそれを再確認できたとも言えそうです。

そうした中で、地域でさまざまな動きが起きています。シカゴやウェストバージニアなどで貧困と教育の問題に対し教員が、ストライキなどを起こして労働条件の改善などを求めています。ただ、これもローカルな動きとして見た方がいいということです。労働組合が社会運動の中心で声を上げる時代は終わりました。それでもポジティブな一面もここから読み取れます。かつては想定されなかった地域や階層の人びとが声を上げるようになったということです。さまざまな地域で声を上げ、それにより政治的に結果を出せる。アメリカの民主主義のレジリエンス(回復力・復元力)をここから読み取れます。アメリカには、社会運動や選挙を通じて人々の思いが噴き出すという民主主義の伝統と底力があります。

女性の活躍促進が労働組合の未来のカギを握る

日本の伝統とは何か

アメリカの状況を日本にそのまま当てはめることはできません。アメリカと同じものを日本の中に探すのではなく、日本にある民主主義の伝統とは何かを探すべきです。

アメリカでは、社会運動・労働運動には二つの路線があると昔から言われています。一つは「デュアル・ユニオニズム」。もう一つは、「ボウリング・フロム・ウィズイン」という方法です。前者は対抗的な組織をつくり独自の運動を展開する方法で、後者は組織の内側から掘り崩す方法です。前者は華々しい運動ですが、持続性に課題がある一方、後者は組織を内側から変えることができれば、持続性のある強い運動になります。

日本には後者の方法が適していると思います。例えば、UAゼンセンの流通部門。ここでは多くの女性が書記長や委員長として活躍していて、「組合専従女子」という会合がすでに6〜7回も開かれています。組織の内側から少しずつ変化は起きています。この変化が10年後、20年後の大きな変化につながります。

日本の労働組合にとって、女性がその中で活躍できるようになるかが分岐点になるはずです。アメリカと同じことを日本の中に探るのではなく、見過ごしているかもしれない日本の動きを探すきっかけになればいいというのが私からのメッセージです。

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