特集2019.01-02

政治とのつながりを見つめ直すいくつかのメッセージ政治を語ることがタブーでなくなり
自分の言葉で語れるように

2019/01/15
国会審議の様子を街頭で放映する「国会パブリックビューイング」という活動が始まっている。取り組みをはじめたきっかけや活動の狙いを、立ち上げから運営にかかわる法政大学の上西教授に聞いた。
上西 充子 法政大学教授

伝えられない不誠実な答弁

2018年の通常国会に「働き方改革関連法案」が提出されました。私は、法案に含まれる「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)や「裁量労働制の適用拡大」の危険性をツイッター「Yahoo!ニュース 個人」などで発信してきました。でも、その危険性が伝わらないことに問題意識を持っていました。

確かに、高プロや裁量労働制の問題をわかっている人は積極的に情報を発信したり、集会を開催したりしてきました。けれども、運動の外にいる人たちには、「反対している人がいる」ということはわかっても、問題の内容はよくわかりません。政府・与党はその一方、巧みなイメージ戦略でそれらの制度に問題がないかのような印象を振りまきます。こうした状況の中で、多くの人に情報を届けるのは簡単ではありません。

法案のうち、「裁量労働制の適用拡大」は、法案の基となるデータに問題があり、法案から削除されました。私もデータ問題についてSNSやウェブメディアなどで追及しました。これは「理詰め」での撤回が実現した事例でした。しかし、高プロは数の力で押し通されてしまいました。その間の国会審議では、野党の質問にまともに答えなかったり、前言を撤回したり、平然と嘘をついたりするような政府の不誠実な答弁がありました。でも、それがマスコミで報じられない。この国会の様子を何とか多くの人に知らせたいとツイッターに書き込んだのが、2018年6月11日のことでした。

ありのまま伝える

6月15日に新橋のSL広場でスピーチする予定がありました。そこで手伝ってくれる人たちがいて、国会の様子をスクリーンで放映することができました。

インパクトは大きかったです。国会審議を写真や映像で流すと多くの人が足を止めてくれました。法案に詳しくない人でも、映像があると見てくれました。

放映したのは、国会の質疑と答弁そのままの様子です。加工していない一次情報からは、さまざまなことが読み取れます。例えば、もっともらしい答弁をしているようでも話がかみ合っていない様子。下を向いて官僚の書いた答弁書を読み上げるだけの様子。安倍首相の答弁を求めているのに加藤大臣が答えようとして紛糾し、速記が止まる様子。こうした余白の部分にこそ国会の実情が現れています。この手法では、ありのままの国会の姿を見て、そこから何かしらを自分で発見してもらうことができます。それがこの手法のいいところです。

「急がば回れ」

私のツイッターの現在のフォロワー数はおよそ1万7000です。SNSにはそれなりの広がりがありますが、情報が伝わるのはフォロワーとその周辺の人にとどまりがちで、特定の範囲以上に伝わっていきません。

確かに、街頭で映像を流す方法では足を止めてくれる人の数は多くはありません。でも、数だけじゃないとも思っていて、この映像をじっくり見て、政治や働き方を考えてくれる人が生まれてくれることが大切だと思っています。

長野県の松本市で映像を流したときに、映像を見てくれて、「自分の職場には高プロを導入させない」とSNSで感想を述べてくれた人がいました。これは、映像を見て自分の行動を変えようと思ってくれた人がいたということ。つまり、職場を変えていく主体が生まれたということです。だから、単に流れる人の波に訴え掛けるだけよりも、じっくりと考えて、自分の考えや行動を変えてくれる人が出てきてくれることの方が、ずっと意味があると思います。

「脱 カスタマー」「急がば回れ」という話をしてくれた市議会議員の人がいて、この取り組みにも同じことが言えると感じています。「脱 カスタマー」とは、政治において自分が「お客さま」から脱却して、職場での働き方や政治を変える主体になるということ。そのためには「急がば回れ」という意味です。

そのために映像にもこだわっています。一つの質問とその答弁のやりとりは、その間をカットせず流すようにしています。カットして編集するとあたかも質問と答弁がかみ合っているように聞こえてしまいますが、実際には先ほど述べたようにかみ合っていないことがほとんどです。でも、カットせず流すと印象は大きく変わります。解釈する余地が生まれ、映像を見た人が主体的に判断できるようになります。恣意的な編集をしていないことを示す意味もあります。

音にもこだわっています。トラメガなどを使わずにスクリーンの近くで映像が見られるように音響設備を工夫しています。街宣車のように大きな音を使うと遠くの人には聞こえるかもしれませんが、近くでゆっくり映像を見て考えることはできませんから。

また、この取り組みでは、映像などには必ず出典を示し、信頼性の高い情報を提供するようにしています。さらに、安心して見てもらえるように、立ち止まる人に対して声掛けもしませんし、リーフレットも基本的には手渡しでは配りません。

すでに、国会パブリックビューイングの映像を使って、地域や自宅で上映会を開催してくれている人もいます。SNSの外側に情報が伝わったり、主体的に動いてくれる人がいたり、この活動の可能性を感じています。時間はかかるかもしれませんが、「急がば回れ」です。

自分の言葉で語る

国会パブリックビューイングの映像を見てもらうと、働き方改革にとどまらず、他のさまざまな国会審議でも、政府が不誠実な答弁を繰り返しているとわかるようになります。今の政治の問題に気付くきっかけにしてほしいと思います。

労働組合などの集会にもこれまで参加してきました。従来型の方法は、メンバーシップの中での意思確認や情報共有のためには有意義だと思います。けれども、より幅広い人たちに問題を理解してもらって世論を喚起するためには、従来型の集会とは切り分けた方法を考えるべきだと感じています。未組織の人たちを意識した情報発信の強化を期待しています。

政治のあり方を変えていくためには、政治について主体的に考えられる人が増えることが重要です。選挙の戦い方に関しても、認知度の高い候補者を擁立するのではなく、「脱 カスタマー」な人たちを育てていくことを重視すべきです。政治を語ることがタブーではなくなり、政治を自分の言葉で日頃から語れるようになることが大切です。

国会パブリックビューイング

国会の審議の様子を街角で上映することで、「国民の代表機関」の実態を多くの人たちに向け可視化し、透明性を高めることを目的として2018年7月にスタート。

ツイッター:https://twitter.com/kokkaipv

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