「2020」その先を考える加速化する人口減少
背景にある日本の働き方 日本社会は変われるか
人口減少のインパクト
──人口減少のインパクトとはどのようなものでしょうか。
人口減少は今後、加速していきます。少子化は想定以上のスピードで進んでいます。2019年に生まれた赤ちゃんの数は87万人を割り込むことが確実で、出生数は今後さらに少なくなります。30年後に30歳になって子どもを産む可能性のある女性は43万人しかいません。国の予想では出生数が90万人を割るのは2021年の予定でした。
2040年代には団塊ジュニア世代が高齢者になります。団塊ジュニア世代は就職氷河期などの影響で不安定雇用の中で家族を形成しないまま、高齢者になる人も多く、経済力のない高齢者が増えることになります。この頃が高齢化率のピークです。日本の高齢化率は4割近くになる可能性もあります。そうなれば、現在のような医療・介護制度などを維持することは困難でしょう。
日本の年間の出生数は、2004年に111万人。2005年に106万人、2016年に98万人となりました。2019年には87万人台を割ることが確実です。110万人台から10万人減るのに約10年かかっていましたが、さらに10万人減って87万人弱になるのにかかったのはわずか5年程度。少子化は加速度的に進んでいます。
人口減少よりインパクトが大きいのが、少子化です。高齢化率は高まっていくのに、それを支える若年層が想定以上に減っていく。非常に深刻な問題です。
低賃金・不安定雇用が背景に
──少子化の背景にあったものとは何でしょうか?
日本の賃金はここ二十数年間、横ばいのまま上がっていません。1990年代以降、日本企業は非正規化などを通じて賃金を安くすることで生き残りを図ってきましたが、そのことで若年層は家庭を形成できなくなりました。それが少子高齢化問題を深刻化させました。
企業が非正規雇用を増やし、新卒採用を抑制してきたことに関しては、労働組合も共犯者ではないでしょうか。オランダでは1980年代、失業の増大などの問題に対して、ワークシェアリングを実施しました。オランダの労働組合は、女性や若者の非正規雇用化に対して、このままではすべての雇用が非正規雇用に置き換えられると認識し、痛みを分かちあう覚悟を決めました。
一方、日本の労働組合は、男性正社員が世帯の稼ぎ主となるモデルから脱却できませんでした。男性正社員の仕事を守るために若者や女性の仕事を犠牲にし、非正規化を進めたことが、かえって自分たちの社会の首を絞めることにつながったのではないでしょうか。
変えられなかった考え方
──政策的に欠けていたこととは?
日本社会は「若者が就職できないのは若者のせい」「子育ては親の責任」という考え方から脱却できませんでした。欧州は若年層の失業率が高かったため、若者雇用促進や子どもの育成を社会的にどう支えるかが政策課題となりました。けれども日本は新卒一括採用で若年層の失業率が低かったことなどから、時代の変化に対応できませんでした。2000年代前半に横浜市役所に勤めていた際にも、子育てや若者支援の必要性を訴えましたが、周りの中高年男性から「子育ては親の責任」だとずっと言われ続けてきました。
市役所に勤務してわかったのは、大企業で働く人たちが見ている社会は、限られた社会でしかないということです。学歴が高く、会社からも守られている。そういう限られた世の中のことしか知らない一握りの人たちしか政策決定の場にいない。そのことが時代の変化に対応できなかった大きな理由だと思います。
行き当たりばったりの対策
──地域社会で起きていることとは?
地域社会では、会社からは想像できないまったく別の問題が生じています。非正規で使い捨てされた人や高校を中退した若者、シングルマザー、孤独の中で暮らす高齢者など、ケアが必要な人たちが本当にたくさんいます。近年では、外国人の子どもも増えていて、母国語も日本語も中途半端なダブルリミテッドといわれる子どもたちの教育が問題になっています。学校での授業にもついていけず、就職も難しい。外国人労働者を安易に安く働かせてきた日本社会がそういう若者たちを生み出しています。
でも、そうした人たちは自ら市役所に相談してくることはありません。問題が深刻化してから市役所に情報が寄せられます。今、地域社会で必要なのは、その人が抱えている困りごとを見いだし、必要な支援につなげることです。しかしケアをする人材は不足。ケアをする人材を増やすための税収も不足し、専門性のある人材も減少しています。そうした中、ケアを求める人だけが増え続けています。日本社会は負のスパイラルに陥っています。
率直に言って、先行きは暗いです。人口減少は以前から想定されていて、本来なら対策をもっと講じておくべきでした。けれども、繰り返されたのは、行き当たりばったりの対策ばかり。就職氷河期に新卒採用をやめて、今になって中堅がいないとあわてたり、氷河期世代の中高年化が問題になって初めて対策を講じたり。若い世代が低賃金・不安定雇用で家庭が形成できなければ、少子化が進行し経済成長を阻害するだけでなく、将来的に貧困問題を生じさせることは想定できたはずです。なのに対応してこなかった。「国家百年の計」がないと言わざるを得ません。
労働組合に期待できるのか
──対策はあるでしょうか?
国民が真剣にこの事態に向き合わないと明るい未来は描けません。少子高齢化がますます進行する中で、医療や介護、年金など、何ができて、何を諦めるべきなのかを議論しなければいけません。厳しい選択を迫られるかもしれませんが、目をそらすわけにはいきません。若者だけではなく、大人たちも、自分たちを取り巻く社会保障制度などがどうなっているのかを知る必要があります。
若者たちは企業や労働組合が信用できる組織かどうかを見ています。2019年5月、化学メーカーのカネカで、育児休業を取得した男性が復帰後2日で転勤辞令を出され、そのいきさつがインターネット上で炎上した出来事がありました。今の若者たちは、共働きすることが当たり前なので、生活基盤を破壊するような頻繁な転勤を嫌います。学生たちは会社の告知文を読むだけでなく、労働組合の動きも気にしていました。
今後も、仕事をして、子どもを生んで、子育てをする女性は、増えていきます。男女が同じように子育ても仕事もしなければ、家庭だけではなく、日本社会そのものも回りません。私は、労働組合がそのサポートを本気でできる組織なのか、疑問を感じています。
大企業から見える社会は社会の一部でしかありません。皆さんが会社の外のありのままの社会を見て、なすべきことを考えてくださることを期待しています。