特集2020.01-02

「2020」その先を考える「5G」の本格運用がスタート
ICT業界に何が求められている?

2020/01/17
次世代移動通信システム「5G」の本格運用が2020年からスタートする。これによって何が変わるのか。業界やICT人材に求められることなどを聞いた。
北 俊一 野村総合研究所
パートナー(テレコム・メディア担当)

5Gの位置付け

5Gが2020年という、このタイミングで始まることには大きな意味があります。社会・産業・生活のあらゆる側面でデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せています。そのタイミングで5Gがスタートする意味を捉え直す必要があります。

現在、AIやIoT、4Kや8K、ARやVRなどのデジタル技術が同時進行で急速に進化しています。そのような中で5Gをそれ単体で語っても、それほど大きな意味はありません。5Gは、デジタル技術のパズルを埋める最後のピースです。5Gというピースがそろうことで、「5G時代」が始まり、5Gを含むあらゆるデジタル技術を駆使して、社会をDX化する環境が整うとイメージしてください。

戦いの主戦場はどこか

日本は、「ICT敗戦国になった」と指摘されています。確かに、サイバー空間での戦いという第一幕の勝者は「GAFA」でした。「GAFA」は主に消費者の持つスマートフォンなどから情報を吸い上げ、それを解析することで、勢力を拡大しました。

しかし、これで戦いが終わったわけではありません。戦いの第二幕はすでに始まっています。その主戦場は、サイバー空間と実世界であるフィジカル空間の融合領域、いわゆるサイバー・フィジカル・システム(CPS)です。

CPSとは、これまでネットワークにつながっていなかった、センサーやカメラ、車、ドローンなどの実世界のあらゆるデバイスをインターネットに接続し、そこから吸い上げた情報をAIで解析し、その結果をフィジカル空間にフィードバックするシステムのことです。5Gは、このフィジカル空間とサイバー空間をつなぐスマートパイプなのです。

CPSで最大の主戦場となるのは、ものづくりの現場でしょう。工場などの閉空間の中で動いている人や機械や車などをセンサー・ネットワークでつなぎ、これまで見えなかったものを「見える化」します。

5G導入ならではの変化は、高解像度の映像をより活用しやすくなることです。4K/8Kのカメラを工場内に多数配置し、5Gを介してサーバーへ送り、AIで解析することによって、これまで見えなかった価値を発見していく、という使い方ができます。例えば、熟練工の動きを4K映像で記録・解析し、教育訓練に生かすという活用法も始まっています。このようにCPSでは、これまで不可視的だったものを可視化し、価値に変える競争が行われることになります。

戦いの第二幕でも「GAFA」は黙っていません。例えば、Amazonは無人のコンビニエンスストア「Amazon Go」で人の動きを多数のカメラで解析しており、このプロセスをプラットフォームサービスとして提供しようとしています。

特にものづくりの現場における情報は、日本企業の大切な経営資源です。その情報まで「GAFA」に吸い上げられてしまえば、日本企業は戦いの第二幕でも負けてしまいます。奮起しなければならない勝負どころです。

2019年12月24日から「ローカル5G」の免許申請受け付けが始まりました。企業の工場や倉庫、プラント、大型商業施設、スタジアムなどの特定エリアでの5Gの活用が進んでいきます。すでに多くの事業者が「ローカル5G」への参入を発表しています。ここでの競争によって、サービス品質の向上やデバイス価格の低廉化などが起こり、5Gの導入障壁が下がることが期待されます。

DX2.0時代へ

日本のICT人材のおよそ7割は、ベンダー企業に所属しています(アメリカは約6割がユーザー企業に所属)。そのため、日本企業の多くは自社のデジタル化を進める際は、ベンダー企業の助けを借りてきました。

ただ、DX2.0の時代になると事情は変わります。DX1.0とは、企業の業務プロセスをデジタル化すること。事務作業や顧客接点など、業務プロセスごとにデジタル化する作業でした。

一方、DX2.0は「全社デジタル変革」です。業務プロセスをパーツごとにデジタル化するだけではなく、企業全体をデジタル化することにより、新たな事業やビジネスを創出するものです。

DX1.0時代は、社外のベンダーの力を借りればよかったのですが、企業全体をデジタル化するDX2.0時代には、自社内にデジタル人材を確保することが欠かせません。しかも、DX2.0のためには、AIやデータ分析、セキュリティー、関連法令など幅広い知識とスキルを持った人材の育成と確保が求められます。

経営ビジョンの明確化が不可欠

とはいえ、DXはあくまでも手段であり、目的ではありません。全社的なDXを実行した結果、自社が社会に対してどのような価値を提供する会社になるのかを明らかにしておく必要があります。そのようなビジョンがなければ、優秀な人材を採用したり、引き留めたりすることはできません。

しかも5G時代は、パートナー企業との協業によるエコシステムの構築が不可欠です。協業する上では、重要なデータの共有も必要になります。そのためには相互信頼が欠かせません。同じ志を持つ、信頼できるパートナーを引き付けるためには、経営者が魅力あるビジョンを熱く語れないといけません。

これからの時代には、経営者が優秀な人材やパートナー企業を引き付けるビジョンを語れるかが重要になる、ということです。

ICT人材に期待されること

5G時代に向けた最大の課題は人材面にあります。デジタル人材をどう採用し、育成するかが最大の課題です。

とはいえ、そうした人材がすぐに確保・育成できるかといえば、困難を伴います。そこで情報労連に加盟する企業の従業員の皆さんにぜひとも期待したいのは、高い意欲を持って新しい技術を習得していただきたいということです。

今ほどICT人材の社会への貢献が期待される時代はありません。何歳になっても新しい技術を習得し、顧客と一緒に現場に入り、業界や社会の課題を解決することが期待されています。一方で、勉強をし続けなければ、AIに代替されてしまうという厳しい現実もあるでしょう。

ICT人材が自分のスキルや市場価値を高めるためには、人材の流動化を進めることも重要です。自分の専門領域を持ちながら、事業の立ち上げや異業種の人たちとの交流など、さまざまな経験をしないと、新しい価値を生み出す人材になることはできません。転職や副業も一つの選択肢です。

経営者は従業員をどう育成するかを考え、従業員自身も自分たちがどう成長したいかを経営者にぶつけていく必要があると思います。ICT人材に対する社会からの期待はますます高まっていきます。このチャンスを逃してはいけません。

ICT人材に対する社会からの期待は大きいです。ぜひチャンスを生かしてください。

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