特集2020.01-02

「2020」その先を考える持続可能な社会のためにSDGsで何をすべきなのか

2020/01/17
2030年までの国連の開発目標である「SDGs」。 持続可能な社会に向けて、私たちは何をすべきなのか。 SDGsの使い方を知る。
田中 信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

SDGsとは何か

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年の国連サミットで採択された国際目標です。2001年に採択されたMDGs(ミレニアム開発目標)の後継です。

SDGsはMDGsの反省を踏まえ策定されました。MDGsは発展途上国を対象に策定されたのに対し、SDGsは先進国も含めたあらゆる国や組織、個人を対象にしたユニバーサルな目標です。

MDGsは発展途上国を対象にしていましたが、発展途上国の課題は、発展途上国だけで解決できません。それらの国の課題は、先進国との関係からもたらされるからです。そのため、SDGsは、先進国も発展途上国も、都市も地方も、経営者も労働者も、あらゆる人と組織を対象として策定されました。SDGsに取り組むことは、発展途上国だけではなく、先進国を含め、すべての人のプラスになります。

17のゴールすべてに照らして

SDGsは、持続可能な世界を実現するために17のゴール・169のターゲットを掲げています。「地球上の誰一人として取り残さない」がスローガンです。

では、私たちは何をすべきなのでしょうか。SDGsという言葉は社会に徐々に浸透しつつあり、企業や自治体も取り組みをアピールするようになりました。ただ、SDGsを道具として活用できているかというとまだまだです。

重要なのは、SDGsを現場にどう落とし込むかです。例えば、自治体なら総合計画を策定するときにSDGsに照らして施策をレビューする。企業なら経営計画を、労働組合なら運動方針を策定する際にSDGsに照らしてレビューする。こうしたプロセスを設けることが必要です。

レビューする時は、SDGsが掲げる17のゴールすべてに、自分たちの施策を照らします。テーマによっては自分たちの組織に関係ないと思う項目もあるかもしれませんが、すべてのゴールに照らして自分たちの活動をレビューすることが不可欠です。

では、どのような視点でレビューすればよいでしょうか。17あるすべてのゴールに照らして、一つずつ見ていきましょう。

SDGsによる活動レビュー

〈目標1〉貧困をなくそう

例えば、自治体であれば、子どもの貧困問題に対して、総合計画の中で有効な対策を打てているのかを検証します。労働組合としては、自分たちの組織が貧困問題の解消に有効な対策を打てているのかを検証してみてください。

〈目標2〉飢餓をゼロに

一見、日本社会とは無縁の課題に見えますが、食料の安定確保や持続可能な農業の推進という点では日本にもかかわる問題です。日本は、ドイツやイタリア、スペインなどに比べ、有機農業の作付面積がとても小さく、付加価値の高い農産物分野で立ち遅れています。これは環境という観点だけではなく、先進国の農業政策としても問題があります。自治体の視点では農業振興をどうするのか、労働組合の視点では、オーガニックな生産物を消費しているか──などの観点でレビューすることができます。

〈目標3〉すべての人に健康と福祉を

日本は、人口1000人当たりの臨床医の数が、OECD加盟国平均より低いです。医師が多ければよいという単純な問題ではありませんが、地域や診療科の偏りなどを是正していく必要があります。労働組合としては、病院で働く組合員の声を反映するといった観点が求められます。

〈目標4〉質の高い教育をみんなに

日本は、教育に対する公的支出の割合が先進国で最低レベルです。子どもに対してだけではなく、働く人たちが新たな技能を身に付けるための教育を、低負担で提供していく必要があります。

〈目標5〉ジェンダー平等を実現しよう

労働組合の皆さんもすでに一生懸命取り組んでいる、いわずもがなの課題です。これをさらに促進していく必要があります。自分たちの組織がどれだけ取り組めているのかをレビューしてください。

〈目標6〉安全な水とトイレを世界中に

人口減少の中で公営の水道事業をどう維持していくか。雇用にも影響するテーマです。

〈目標7〉エネルギーをみんなに そしてクリーンに

例えば、会社や労働組合の事務所で、環境に配慮した電気料金プランを比較検討することからでも構いません。持続可能なエネルギーを使用しているかをレビューしてみてください。

〈目標8〉働きがいも 経済成長も

まさしく、労働組合の本丸の活動と言えます。労働組合の組織率を上げることはこの目標に沿った活動だと言えます。

〈目標9〉産業と技術革新の基盤をつくろう

日本は近年、研究環境が悪化しています。研究者が働きやすく、風通しの良い職場をつくることはイノベーションの創出にもつながります。研究職の組合員の働き方をレビューすることも一つの方法です。

〈目標10〉人や国の不平等をなくそう

国内および国家間の不平等を是正することです。発展途上国の劣悪な労働条件は、国際競争を通じて、先進国の労働者にも影響します。発展途上国の労働条件の底上げが先進国の労働者の労働条件の改善にもつながるため、労働組合のグローバルな活動が非常に重要になります。

〈目標11〉住み続けられるまちづくりを

交通や情報インフラの地域間格差の是正が課題です。通信インフラを担う立場から、持続可能な地域社会のあり方を提案することが求められています。

〈目標12〉つくる責任 つかう責任

持続可能な消費と生産のパターンを確保することです。消費者としてエシカル(倫理的)な商品を購入するとともに、労働組合として生産現場がエシカルであるかどうかをチェックすることが重要です。

〈目標13〉気候変動に具体的な対策を

気候変動問題に立ち向かうためには、情報通信技術の活用が鍵です。気候変動問題に情報通信技術をどう活用できているかをチェックしてみてください。

〈目標14〉海の豊かさを守ろう

実はこの問題にも情報通信技術がかかわっています。ITの活用が海洋資源のロス削減につながるからです。この視点からレビューしてみてください。

〈目標15〉陸の豊かさも守ろう

この課題も、目標14と同じで情報通信技術の活用が鍵となります。

〈目標16〉平和と公正をすべての人に

公正とは、司法のことです。ここでは、すべての人々が司法にアクセスするための公正なプロセスの確保が問われています。例えば、労働組合の法律相談の取り組みもその一つとして挙げられます。

〈目標17〉パートナーシップで目標を達成しよう

労働組合は社会対話における重要なアクターの一つです。さまざまな場面で労働組合がパートナーシップを結ぶ主体となっているかどうかをレビューします。

SDGsはチェックリスト

このようにSDGsのゴール一つひとつについて、自分たちの活動をレビューすることが必要です。SDGsはあくまで「道具」です。チェックリストと言ってもいいかもしれません。自分たちの計画や運動が、SDGsに照らして、どこまでできているのか。そういう使い方をしてください。

SDGsをチェックリストとして活用できている企業や組織はまだ少ないと感じています。企業や労働組合だけではなく、個人としてもSDGsは活用することができます。気付いた人から働き掛けを強めてほしいと思います。

合意形成はできている

SDGsは、国連憲章を具体化したとも言える、総合的なパッケージです。それは、気候変動の問題であると同時に、地域経済や雇用改善の政策でもあります。環境問題に取り組むことで、雇用を増やし、所得を高め、イノベーションを生み出し、貧困や飢餓を解消していく。このように先進国にも、発展途上国にも共通する問題を互いが協力して解決していくことができる、「Win-Win」の考え方に立っています。

また、SDGsは、急激な人口減少に直面する日本社会の処方箋でもあります。SDGsに取り組むことは、人口減少に対応する地域計画をつくることにほかならないからです。

大切なことは、SDGsには、各国政府も、企業も、労働組合も総論で賛成しているということです。これは合意形成の第一歩であり、対話の土俵がすでにつくられていることを意味しています。この土俵に立って、さまざまな場所で議論をしてください。それが運動の前進につながります。

みんなでハッピーになるために

最後にSDGsを考えるための映画を一つお薦めしたいと思います。『ザ・トゥルー・コスト〜ファストファッション 真の代償〜』(2015年・アメリカ)という映画です。ファストファッションに関する映画ですが、私たちが普段身に着けている洋服が、発展途上国でどのように生産され、そこで働く人たちがどのような境遇にあるのかがわかります。つらい現実を突き付けられる一方、働き手も買い手も幸せになる好事例も紹介されています。その好事例からわかるように、働き手が幸せになると、それを購入する私たちも幸せになります。自分が誰かの幸せに貢献していることがわかると、自分もハッピーになれる。そのことがとてもよくわかる映画です。

SDGsは、問題を抱えている人だけを対象にするだけでは、問題の根本的な解消につながらないという反省の上にできました。問題を抱えていない人も一緒にその解消に取り組んでいくことで、問題を抱えていない人たちも含めて、すべての人たちの暮らしを良くしていく。だから、SDGsはすべての人にとって大切な目標となるのです。皆さん、ぜひ明日からでも、できることから始めていきましょう。

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