「2020」その先を考える高齢者雇用で大事なこととは?
60歳前から心掛けたいこと
高齢者もチームの一員
高齢者雇用は、労働力不足を補う要素として語られがちですが、期待される役割はそれだけではありません。高齢者が持つスキルや技能、ノウハウなどを次世代につなげる役割も期待されています。日本の少子高齢化は、世界に類を見ないスピードで進んでいますが、その試練をチャンスにできるかが問われています。
現在、高年齢者雇用安定法は、60歳以降の雇用について三つの選択肢を企業に課しています。(1)定年制の廃止(2)定年の引き上げ(3)継続雇用制度の導入──の三つです。実際、多くの企業は(3)の継続雇用制度を導入。定年後再雇用という形で65歳まで有期契約を締結しています。
課題は、定年再雇用後の労働条件・労働環境です。働く側は、定年再雇用後に給与が半減する場合もあり、意欲が落ちる人が少なくありません。一方、会社としても、65歳までの5年間を何とか取り繕えばいいという姿勢で処遇する場合も少なくありません。
しかし、こうした処遇の影響は、職場全体に及びます。意欲の低い高齢者が増えれば、チーム全体の士気にも影響します。若手・中堅世代も「明日はわが身」という目で、会社が定年後も社員をきちんと処遇するかを見ています。会社が高齢者をきちんと処遇すれば、若手・中堅世代からの信頼も高まります。会社はそうした視点を忘れずにアプローチすることが大切です。そのためにも会社は、高齢者をチームの貴重な一員として捉え、モチベーションを高める施策を講じる必要があります。例えば、定年再雇用後にもがんばりに報いるような処遇制度を導入するなどして、企業の成長につなげていくべきでしょう。
60代後半の多様性
政府は70歳まで働く機会の確保に向けて、企業が用意する七つの選択肢を成長戦略に盛り込みました。60代前半と同じ(1)定年の引き上げ(2)継続雇用制度の導入(3)定年制の廃止──に加えて、(4)他企業への再就職実現(5)フリーランスで働くための資金提供(6)起業支援(7)NPOなどの社会貢献活動参加への資金提供──を盛り込みました。
60代前半と60代後半とで、働く人を取り巻く環境は大きく変わります。60代前半は基本的にフルタイム勤務ですが、60代後半になるとフルタイム志向が減少します。体力の低下や家族の病気、孫の世話、自治会活動など、さまざまな理由が背景にあります。このように多様化する60代後半以降の環境に対して、国や企業や労働組合は、それに対応できる多様なメニューの用意が求められます。その中では、十分な年金や収入を得られない人たちに対する手当も考えなければいけないでしょう。
働く人たちの心掛け
働く側が考えなければいけないのは健康寿命です。男性の健康寿命は72歳、女性は74歳といわれています。自分の人生の中で本当にやりたいことをするためには、健康寿命から逆算する意識も必要です。健康寿命までの間、会社で何をして、どう貢献するか、自分のやりたいことをどう実現するかを考えなければいけません。
私は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構で、60歳以降に職場で活き活きと働くために必要だと思われる心掛けなどをまとめた50代向けのテキストをつくりました。
そこでは年齢ごとに三つのステップを提示しました。
〈ステップ1〉60歳を迎える前に心掛けてほしいこと
〈ステップ2〉60歳になって職場で働くときに心掛けてほしいこと
〈ステップ3〉活躍を終えて職場から去る時に心掛けてほしいこと
その上で、各ステップに当てはまる漢字を四つずつ用意しました。
ステップ1は「変・容・転・躍」です。
「変」は自分を取り巻く環境の変化を認識すること。変化とは、会社の中での役割や処遇ではなく、体調の変化なども含みます。「容」は、その変化を受け入れること。「転」は発想を転換し、新しい環境に臨むこと。「躍」はそれらを踏まえて、新たなステージで活躍することです。これらのことを60歳を迎える前に準備してほしいと訴えました。
ステップ2は、「識・感・結・導」です。実際に60代になって働く際に心掛けてほしいことです。
「識」は、自分がどのような立場にあるか認識すること。「感」は自分のすべきことを感じ取ること。「結」は、自分の強みを周りと結び付けること。「導」は、自分の強みで導くことです。
ステップ3は、「築・授・謝・翔」。職場を去る際に心掛けることです。
「築」は、築いてきたものを集大成すること。「授」は、その財産を周りに授けること。「謝」は周囲に感謝すること。「翔」は新たな世界に向かって飛翔することです。
職場の結束力を高めるために
このテキストで提唱したのは、高齢者が変わらないといけないということです。高齢者が自分の立場や役割の変化を認識し、自分の強みを次世代に継承していく。そのためには、高齢者が若手への教え方を学ぶことが必要です。強みを体系化して伝えるためにも効果的な方法を身に付ける必要があります。
高齢者が変わるのと同時に若手も、高齢者の行動や思考パターンを理解する必要があります。若手と高齢者が、教え、教えられる関係になることで職場の結束力が高まります。
今後65歳以降の人たちが職場で一緒に働くことになれば、多様性はさらに高まります。そこで得た職場のノウハウが蓄積すれば、それが強みになり、グローバル社会の中での日本の存在価値を高めることにもつながるはずです。国、企業、労働組合、労働者それぞれが認識を変える必要があります。