「2020」その先を考えるICTの発展で広がる「労働プラットフォーム」
労働法はどう対応できるのか
プラットフォームの位置付け
ICTの発達で新しい働き方が次々と生まれています。ウーバーイーツのようなオンラインプラットフォームを活用した働き方はその典型です。
オンラインプラットフォームを使った働き方と従来の委託・請負の働き方との最大の違いは、プラットフォームを使った働き方は、ユーザーと就労者との間にプラットフォームが介在していることです。プラットフォーム上で労働力を取引することから「労働プラットフォーム」と呼んでいます。
労働プラットフォームの第一の機能は、仕事の発注者であるプラットフォームユーザー(以下、ユーザー)と受注者であるプラットフォームワーカー(以下、ワーカー)とが出会う「場」を提供することです。プラットフォーム事業者(以下、事業者)は、自分たちの役割を、労働力取引のマーケットプレイス(市場)だと位置付けています。
事業者は、ユーザーとワーカーに「場」を提供するだけで、ワーカーと委託・請負契約を締結しているわけではありません。契約上は、ワーカーとユーザーが業務委託契約を締結。ワーカーとユーザーは、労働プラットフォームを「利用」しているという建前になっています。その上で、事業者は「場」の利用料を徴収し、ワーカーとユーザーの報酬を決済する役割を担っています。このように、労働プラットフォームの第一の機能は、「場」の提供と、報酬決済機能にあります。
労働プラットフォームの第二の機能は、労働力評価機能です。ユーザーがワーカーを評価するシステムを組み込むことで、顔の見えない者同士でもサービスを利用しやすい環境を提供しています。
対面型と非対面型
労働プラットフォームを活用した働き方をプラットフォームワークと呼びますが、大きく二つの形態があります。
一つ目は、対面型のプラットフォームワークです。現実の非バーチャルな世界で、ワーカーがユーザーと対面して労務を提供する働き方です。ウーバーのタクシーやウーバーイーツがその典型です。
対面型の場合、ワーカーは従来の雇用労働者が提供していたのと変わらない労務を提供します。例えば、ユーザーを目的地に運ぶのは、従来のタクシー運転手が客をそこまで運ぶのと同じです。こうした点で、対面型のプラットフォームワークは、時間的・場所的拘束を伴う伝統的な雇用労働と同質性を持ちます。
また、タクシー運転手が会社の事業活動のために労務に提供するのと、ワーカーが事業者の事業活動のために労務を提供している点も、従来の雇用労働と同じ性質を持っています。こうした点から、対面型の働き方は、伝統的な雇用労働とさしたる違いはないと言えます。
二つ目は、非対面型のプラットフォームワークです。ワーカーはユーザーと対面することなく、インターネット上のバーチャルな空間を介して労務を提供します。クラウドソーシングがその典型です。顔の見えない相手とやり取りをする点で、労働プラットフォームの持つ報酬決済機能と労働力評価機能が役割を発揮します。
ワーカーの就労特性
では、ワーカーはどのように働いているのでしょうか。ワーカーは、副業的な就労が支配的と見られています。副業には、(1)本業を持つ人による副業(2)ワーカーが複数の仕事を掛け持つ複業(3)主婦や学生、年金的生活者の生計補助的就労──の三つがあります。
これらの働き方に共通するのは、収入が低く、仕事が不安定で、仕事がない時の保険やけがをした際の労災保険がないということです。また、ワーカーの交渉力や組織力が弱い点も挙げられます。
こうした現状に対して労働法はどう対応できるのでしょうか。ワーカーは通常、どの国でも独立自営業者かフリーランスとみなされ、労働法規の適用を否定されています。そのため世界各国でどのように保護を与えるべきか議論が進んでいます。
労働法のアプローチ
現在、世界的には三つのアプローチがあります。
一つ目は、労働法の適用対象である労働者概念を拡大・柔軟化して、ワーカーに労働法を適用していくアプローチ。二つ目は、労働者と独立自営業者の間に「労働者類似の者」という第三のカテゴリーを導入し、保護を与えるアプローチ。三つ目は、ワーカーを対象に新たな立法措置を行い、特別の保護を創設するというアプローチです。
第一のアプローチは、労働者か独立自営業者かで労働法の適用がはっきり分かれる二分法を採用する国で採られています。具体的には日本とアメリカです。アメリカでは、州レベルで、ウーバードライバーのような対面型のワーカーは労働者であるという裁判所の判断が出ています。
では、日本ではどうでしょうか。日本では裁判例がまだありませんが、私は対面型のワーカーは労働組合法上の労働者性は比較的認められやすいのではないかと考えています。労働組合法上の労働者性の基準である「事業組織への組み入れ」論に当てはめられるからです。他方、労働基準法や労働契約法の労働者性に関してですが、使用従属関係を認めてもいいようなケースも存在すると考えています。
一方、非対面型のワーカーはどうでしょうか。非対面型には、再委託型と仲介型があります。再委託型は、事業者がユーザーから受注した仕事をワーカーに再委託する類型です。この場合、事業者とワーカーの間に直接の契約関係が生じるので労働者性が認められる可能性があります。一方、クラウドソーシングにおけるマイクロタスク型のような、事業者がユーザーとワーカーを仲介しているに過ぎないような場合は、労働者性を認めるのは難しいと言えるでしょう。
プラットフォームワーカー保護の三つのアプローチ
(1)労働者保護の拡大・柔軟化
伝統的な労働者概念を拡大したり、柔軟化することでプラットフォームワーカーの労働者性を認めようとするアプローチ(日本やアメリカ)
(2)第三のカテゴリーの導入
労働者と独立自営業者との間に第三のカテゴリーを導入するアプローチ(イギリスやドイツ)
(3)立法措置による必要な保護
特別な立法措置を施して、プラットフォームワーカーに必要な保護を与えるアプローチ
第三のカテゴリーというアプローチ
第二のアプローチは、労働者、独立自営業者のほかに、第三のカテゴリーを設け、労働法の一部を適用するものです。イギリスやドイツが採用しています。ただ、このアプローチには国際的な批判もあります。線引きが難しかったり、労働者の権利が弱くなったりする可能性があるからです。私はこのアプローチには否定的です。
新たな立法措置というアプローチ
第三のアプローチは、特別な立法措置によりワーカーに必要な保護を与える方法です。フランスでは、事業者に労働保険料と職業訓練費用の負担を義務付ける一方、ワーカーに団結権、団体行動権、団体交渉権を保障しています。労働プラットフォームの実態に即して、必要な保護を図るアプローチは重要だと考えています。
これらの対策を講じたとしても、どのアプローチにも当てはまらない独立自営業者の保護をどうするのかという問題は残ります。そうしたワーカーの最大の問題は低収入と仕事の不安定性です。保護の手法として、家内労働法の適用拡大や、下請法および中小企業等組合法の活用などが考えられます。
労働組合にできること
労働組合は、ワーカーの保護にどう取り組めるでしょうか。
対面型の場合、労働者性が認められやすいので、組織化を含めたワーカーの支援を検討することができます。一方、非対面型の場合、労働者性の認定に課題があることに加え、労働者性が認められないまま労働協約を締結すると独占禁止法のカルテル規制に抵触する可能性があり、難しい問題をはらみます。
そうした中でドイツのIGメタルは2016年に組合規約を改正して、独立事業者にも組合員資格を認めました。とはいえ、独占禁止法との関係もあり、独立自営業者の支援は訴訟代理などのリーガルサービスの提供が主になっているようです。他方、労働プラットフォームの行動指針の策定にかかわるなど、仕組みづくりに積極的にかかわっています。
日本の労働組合も、労働プラットフォームの実態を踏まえ、ワーカーの社会的保護のために積極的な保護を検討してほしいと思います。