特集2020.01-02

「2020」その先を考える急増する外国人労働者
短期間受け入れが失敗する理由とは

2020/01/17
外国人労働者が急増する一方、その受け入れ策は建前と実態が乖離し、対応が後手に回っている。実態を直視した対策が不可欠だ。
上林 千恵子 法政大学教授

急増する外国人労働者

2018年末における在留外国人数は約273万人(法務省「在留外国人統計」)。総人口に占める割合は2.16%です。人口が減少し、在留外国人が増加しているので、在留外国人の占める割合も上昇しています。

一方、外国人労働者の総計は2018年10月時点で約146万人。過去最高を更新しました(厚生労働省「外国人雇用状況報告」)。外国人労働者の数は2008年には48万人。この10年間で一気に100万人近くも増加しました(グラフ(1))。

外国人労働者の在留資格の内訳を見てみましょう(2018年10月時点)。「専門的・技術的分野」が19%、「技能実習」が21%、「資格外活動」(主に留学生)が24%、「身分に基づく在留資格」が34%となっています(グラフ(2))。

特に増加が著しいのは「資格外活動」と「技能実習」です。短期的には、景気の拡大で人手不足が生じていること、長期的には、労働力人口の減少と若年層不足が生じていることが背景にあります。短期的に景気が悪くなることがあっても、長期的な人手不足は今後も続きます。そのことから、外国人労働者の増加は今後も続くと考えられます。

グラフ(1) 在留資格別外国人労働者の推移
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」
グラフ(2) 外国人労働者の在留資格(2018年10月)
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」

建前と実態の乖離

日本はこれまで、外国人労働者の受け入れについて「移民政策ではない」ということを繰り返し訴えてきました。技能実習は技術移転を目的とした国際貢献であり、労働力の受け入れではない。労働力の受け入れではないから、移民政策ではないと説明してきました。

移民政策とは、どのくらいの規模の外国人労働者を、どのような条件で受け入れれば、国内雇用に影響が及ばないかなどを検討するためのものです。労働力の受け入れではないという前提では、合理的な設計ができません。その点、2018年に創設された「特定技能」では、労働力の受け入れを前提にした議論が行われました。政府は特定技能についても「移民政策ではない」と繰り返しましたが、技能実習生制度の建前と実態の乖離が大きくなる中で、労働力をどう受け入れるべきかという議論をようやく始めたと言えます。

不十分なままの移民の権利

ただ、外国人労働者の受け入れを議論するようになったとはいえ、定住化の議論は低調なままです。労働力の受け入れと定住化はセットで議論されなければいけませんが、政府はその議論を避けています。

すでに移民を受け入れている国では、移民の人権保護が大きな課題になっています。移民受け入れ国における国連や国際労働機関(ILO)の移民に関する条約の批准国数を確認すると、移民の人権に関する条約の批准国数は、国内の人権保護の条約の批准国数に比べ少なくなっています。移民受け入れ国の有権者が移民の権利に関心を持ちづらいこと、移民が国内でマイノリティー集団にとどまってしまうことなどが背景にあります。

こうした構造的な問題のもとで各国では、移民の権利(例えば職業選択の自由や移動の自由、家族帯同、子どもの教育を受ける権利)が課題となっています。特に移民二世・三世世代の階層・地位の問題は大きな社会問題になっています。

日本でもそうした問題はすでに生じています。例えば、定住可能な日系人の場合、高校中退率が高く、不安定な仕事にしか就けないなどの問題が現実的に起きています。また、両親が外国籍の子どもの場合、20歳まで家族ビザで滞在可能ですが、それ以降は基本的に就労ビザや留学ビザに切り換えなければ、滞在が認められません。日本で生まれ育った外国にルーツを持つ子どもが日本で生活するのは多くの困難が伴います。このように、移民の子どもたちをどの社会で育てるのかは、移民受け入れ国にとって重要な課題の一つです。

短期受け入れの幻想

日本は、技能実習生の期間を永住申請の要件期間に含まないようにするなど、定住化をできるだけ避けるような政策措置を取っています。しかし、こうした短期受け入れを前提とした政策は想定通り進むとは思えません。

実際、短期の受け入れ政策を取ってきた国は、たいていの場合失敗しています。それは不法就労者の増大という形で現れます。不法就労者が増え、実態と建前がそぐわなくなると、国は不法就労者の一部を正規化する措置を取ります。すると、正規化を期待して不法就労者がさらに増えるという事態が起こります。フランス、イタリア、スペインなどが当てはまります。

ドイツは2000年に国籍法を改正しました。トルコからの移民で、無国籍の子どもたちが増えたからです。無国籍の子どもたちが増えれば社会秩序を維持できません。そのためドイツは両親がドイツ国籍を持たずとも、申請すればドイツ国籍を取得できるように国籍法を改正しました。

このように、建前上では短期の受け入れを前提としても、実態として増え続ける定住者を無視することはできません。無視すれば社会秩序はむしろ失われてしまうからです。日本においても、実態として増え続ける定住者への支援にしっかり向き合う必要があります。最も悪い対応は、まともな支援もしないまま、なし崩し的に定住者が増えていくことです。建前上は定住化する人はいなくても、実態では増え続けています。問題が深刻化する前に、先手を打たなければなりません。

労働組合と外国人労働者

労働組合が移民問題にどう取り組むかは難しい問題です。労働組合は、国内の雇用維持のために移民受け入れに基本的に賛成してきませんでした。そのため、ヨーロッパの労働組合では、移民を支援するために、新しい行動原理を取り入れ始めました。労働者の権利保護に加えて、エスニシティの問題や社会的な権利(医療・教育・住宅)などにも取り組むようになったのです。

日本でも労働組合がこうした課題に取り組む必要がありますが、外国語に精通したスタッフの確保や、短期で帰国する労働者への対応、不法就労者への対応など、課題は幅広くあります。

とはいえ、外国人労働者は今後も増え続けます。労働組合も早めに対策を打つ必要があります。外国人労働者は、就学支援や保育所への申請など、暮らしの上での困りごとを抱えています。まずはニーズの大きいところから対応するのも一つの手です。

外国人労働者は一定期間で入れ替わってしまうかもしれませんが、一定数の人たちは職場に存在し続けます。労働組合がそうした人々を組織化し、ニーズをくみ取る。それがグローバリゼーションという世界的な潮流に対して、日本の労働組合の立場を示すことになります。

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