特集2020.05

気候変動問題に向き合う世界で進むESG投資とダイベストメント
お金の流れを変えて世界を変える

2020/05/15
世界では気候変動問題に対応するために、社会的責任投資(ESG投資)や投資撤退(ダイベストメント)が広がっている。世界の現状と日本の動きについて、元損保会社社長という経歴を持つ国際環境NGO「350.org Japan」代表の横山隆美さんに聞いた。
横山 隆美 国際環境NGO「350.org Japan」代表
(富士火災海上保険・元社長)

拡大するESG投資と投資撤退

私が所属する「350.org」は、ニューヨークに本拠地を置く国際環境団体です。地球温暖化対策に取り組む中でも、「グラスルーツ」の運動を重視し、特にお金の流れを変えることで脱炭素社会をめざす運動に力を入れています。

気候変動問題にかかわる、社会的責任投資(ESG投資)や投資撤退(ダイベストメント)は近年、世界的に大きく規模が広がっています。

まずESG投資ですが、その額は2016年の23兆ドルから2018年の31兆ドルへと大きく増加しています。

一方、ダイベストメントに関しては、現在約1200の企業や団体がダイベストメントを宣言しています。この中には、ハーバード大学のような大学のファンドや地方公共団体、宗教団体などが含まれるほか、近年では、ゴールドマンサックスやブラックロックといった大手投資機関もダイベストメントを宣言し、石炭関連投資からの撤退を始めています。その総運用資産額は14.4兆ドル(約1555兆円)にも上ります。

日本の現状はどうでしょうか。ESG投資、ダイベストメントともに、日本の動きは世界と比べると大きく遅れていると言わざるを得ません。

日本でも2016年から2018年にかけてESG投資の額は4700億ドルから2.2兆ドルへと増えました。しかし、このうち約1.4兆ドルは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資金とされ、全体の動きは鈍いです。

また、ダイベストメントに関する日本企業の動きも非常に鈍いです。石炭火力発電からの投資撤退は温暖化防止のための最優先課題ですが、日本企業はいまだ海外の石炭火力発電への融資を続けています。

個人的な意見では、日本企業は「持ちつ持たれつ」の関係が非常に強く、ダイベストメントに踏み切れない実態があるのではないかと感じています。一つの融資を断ると他の取引に影響してしまうので、それを恐れて投資撤退に踏み切れない。企業社会の特殊性が足を引っ張っているのではないでしょうか。

また、日本では資金運用を人任せにしてしまう傾向があると感じています。資産を運用委託する側は、資産をどう運用するかの哲学を持つべきだと思います。

歴史的な経緯の違いもあります。欧米ではダイベストメントの手法が、気候危機問題以前から活用されてきました。例えば、アパルトヘイトやタバコ、武器、ポルノ産業の規制などにおいてです。日本ではこうした運動が歴史的に弱かったことが、気候危機問題にも反映されていると思います。

経済合理性からの動きも

ESG投資やダイベストメントが欧米諸国で拡大した背景には、気候危機に対する問題意識の高まりがあります。世界各地で自然災害が増え、それを気候変動と関連付けたニュースが非常に多く報じられることで、多くの人が気候危機を肌感覚で認識するようになりました。

若者たちの抗議運動も大きく影響しています。グレタ・トゥーンベリさんから始まった国際規模のデモは社会を動かしました。

ブラックロックという世界最大の資産運用会社のCEOは、今年の年頭所感でダイベストメントを発表しました。同社はそれまで環境問題に一言も触れたことはなかったのに、突然ダイベストメントを宣言しました。なぜでしょうか。年頭所感は、若者らによる抗議運動に言及しています。ミレニアル世代の資産額がベビーブーマーのそれを上回り、この世代が今後、CEOになったり、会社の戦略を決めたりするようになる。そうなると企業のあり方は大きく変わる。その変化に追いつけない企業は生き残れない。そういう会社の株は買えないというのです。若者たちの動きは、確実に大きな影響力を発揮しています。

このようにESG投資やダイベストメントは、海外ではもはやブームではありません。企業は、グリーン投資や石炭火力に関する資産の保有などに関して情報開示するよう、投資家から強いプレッシャーを受けています。

実際、株価のインデックスを見ると石炭や石油の資源関係のインデックスは下がっています。それらに関連する株を持っていても運用成績が悪くなってしまうのです。一方、再生可能エネルギーのコストは年々安くなっています。割高になる石炭火力発電などからの投資撤退は、経済合理性からも進んでいます。

保険会社でも注目すべき動きが起きています。保険会社が石炭火力発電に関する保険の引き受けから撤退し始めています。2030年までというように猶予を設ける例が多いですが、それでもそれ以降は石炭火力発電の保険を引き受ける会社がなくなるということです。保険がなければ、石炭火力発電のような大きな施設はリスクが高すぎて動かせません。

つまり、このままでは石炭火力発電所は投資もされず、保険の引き受け手もない「座礁資産」になってしまいます。日本はいまだ石炭火力発電所を新設する計画を進めていますが、新設の石炭火力発電所は10年経たないうちに競争力を失い、不良債権化してしまうのです。座礁資産の額は710億ドルに上るとの予測もあります。それでもなお、石炭火力発電所を新設する理由があるでしょうか。

日本の動き

大手銀行の社員と意見交換をすると、彼らは政府の方針が変わらなければ、自分たちの方針を変えるのは難しいという話をします。石炭火力発電の輸出は政府の方針であり、それに反旗を翻すのは難しいというのです。政府の方針を変えることが、大きな影響力を持ちます。

日本企業も黙っているわけでは決してありません。企業の自然エネルギー100%を推進するイニシアチブ「RE100」には、日本企業も数多く参加しています。この「RE100」に参加する企業が、日本政府に対して自然エネルギーの比率を上げることなどを要請しました。特筆すべき点は、要請した企業が自らの企業名を公表して要請したこと。経団連とは異なる場所で、企業名を出して要求を掲げたことは注目に値します。

これらの企業の動きも経済合理性とは無縁ではありません。「RE100」に参加する米アップル社は、バリューチェーンの企業にも再生可能エネルギー100%を求めています。つまり部品を納める関連企業も再生可能エネルギー100%を達成しなければ、バリューチェーンから排除される可能性があるのです。

日本は炭素税が他国と比べてとても低く、温室効果ガスを出した分の対策費用を企業が適正に負担しているとは言えません。それは国が温室効果ガスの排出を補助しているのと同じです。炭素税を引き上げる一方で、再生可能エネルギーへの補助を拡大する必要があります。

労働組合への期待

イギリスでは、「ユニオゾン」や「TUC」といった労働組合が、年金基金の運用でダイベストメントを宣言しています。日本の労働組合も、こうした取り組みで発言力を持つようになれば、興味深い動きになると思います。

気候危機問題も、今回の新型コロナウイルス問題も、地球全体で解決する問題だと思っています。懸念される問題は、どちらにおいても自国主義がまん延すること。しかし、どちらの問題も各国が協調しなければいけないのは間違いありません。自国主義に陥らず、協調できるかが試されています。労働組合が市民運動の一環として気候危機問題に積極的に参加してくれることを期待しています。

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