組織としての労働安全
事故を防ぐICTやAI、最新知見を駆使して安全対策
NTT東日本「安全センタ」を取材
ネットワークカメラの活用
NTT東日本は2022年7月、社員一人ひとりが自ら考え行動する安全風土の形成・安全レベルの底上げを目的に「安全センタ」を創設した。安全に関する最新理論やICTを駆使し、現場のあらゆる行動データを活用した対策を講じることで、人身事故や交通事故の撲滅をめざしている。
ICTを活用した具体例の一つが、ネットワークカメラを使用した危険作業検知システムだ。通信設備の工事や保守は、複数の地点に分散して行われており、各現場では高所からの転落や車両との接触リスクなどが存在する。そのためNTT東日本では、AIを使用した危険作業検知システムを開発し、事故防止に役立てている。具体的には、各現場にネットワークカメラを設置してその映像をリアルタイムで分析。AIは高所作業車やバケット部、カラーコーンの位置などを検知し、危険な状態を察知し、事務所に通知する。「安全センタ」では、NTT東日本直営工事の状況をリアルタイムで現場の状況を把握。東日本エリア全体では約5000台のネットワークカメラが稼働し、人手では対応が困難だった数千カ所の工事の見守りが実現している。
KY活動のDX
もう一つの例は、「KY活動(危険予知活動)」による作業者の危険感受性向上の取り組みだ。この取り組みでは、開発した「ボイスKY」というアプリを使い、管理者からのフィードバックを簡素化することで、KY活動の形骸化を防いでいる。具体的には、スマートフォンにアプリをインストールして、作業前にKY活動を行う。危険箇所を発見したら、アプリで写真を撮影し、音声で記録する。音声は自動的にテキスト変換され、管理者にメールで通知される。管理者は現場の状況を確認し、フィードバックのコメントを投入する。AIが過去の事例をもとに注意すべきポイントを喚起する仕組みも搭載している。
「大切なのは管理者が作業者にきちんとフィードバックすること。それによってKY活動の形骸化が防止できる」と「安全センタ」の東城邦雄担当課長は話す。「ボイスKY」で集めたデータをデータベース化し、作業者の安全レベルを判定する「安全カルテ」への活用なども検討している。
さらにNTT東日本では、NTT西日本、ダイヤ工業と共同し、電柱建設工事等でのスコップを使った掘削作業の負担低減を図るためのアシストスーツを開発するなど、けがの防止に努めている(QRコード参照)。
危険感受性の向上へ
安全対策の課題の一つは、危険感受性の醸成だ。特に若年作業者の安全教育が課題になっている。背景には、現場第一線の作業者の若返りが進んでいることがある。
「安全センタ」の飯村浩二担当課長は、「現場は、装備の充実などによって以前より安全になっている。その半面、危険を感じづらくなっているという課題もあり、安全対策やルールの必要性をどう納得してもらうかということが重要になっている。現場でコミュニケーションをいかに取るかが本質的な課題」と話す。そのため、体感型研修を含めた安全教育にも力を入れている。
ICTの活用とともに、作業者の安全意識の啓発も重要な課題になっていることから、「安全センタ」では、大学と連携し、アンケート調査などを通じて組織の「安全文化」の診断をする活動を行っているほか、行動経済学の「ナッジ」理論を踏まえた対策の展開も検討している。
「安全センタ」では、開発したシステムや研究者と連携して得た最新の知見を生かすことで、協力会社を含め社会全体の安全対策の向上に貢献したいと考えている。飯村課長は、「『安全センタ』のメンバーは、安全に対して強い思いを持って取り組んでいる。現場の声を聞き、周りを巻き込みながら、事故防止に取り組んでいきたい」と話す。