特集2023.08-09

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安全保証環境の変化と平和運動
膨らみ続ける防衛費の背景に
アメリカ製兵器の爆買い
使い道のチェックを

2023/08/16
政府が打ち出した防衛費倍増の背景には、アメリカ製兵器の爆買いがある。実態はどうなのか。膨らみ続ける防衛費の使い道をしっかりチェックする必要がある。
半田 滋 ジャーナリスト

アメリカ兵器の爆買い

政府は昨年12月、敵基地攻撃能力の保有や、2023年度から5年間の防衛費を43兆円程度にすることを閣議決定しました。防衛費は、過去5年間に比べ17兆円増えることになります。

政府は、兵器調達や作戦能力の強化などを防衛費倍増の表向きの理由にしていますが、そこで語られていない事実に注目する必要があります。それは、アメリカ製兵器の爆買いです。

日本は、2012年12月の第2次安倍政権以降、アメリカ製兵器を爆買いしてきました。それまで年間500億円前後で推移してきたアメリカ製兵器の購入額は、2015年には4000億円を超え、2019年には7000億円を超えました。過去と比べ10倍以上に増えています。

一方、予算はそこまでの勢いで増えなかったため、防衛費はアメリカ製兵器の爆買いによって圧迫されてきました。その結果、国から国内の防衛産業企業に対する支払いが滞り、支払期間を5年間から10年間に延長するような措置も取られてきました。

防衛費倍増は、こうした課題を一気に解決するためのいわば「魔法の数字」だといえます。つまり、アメリカ製兵器の爆買いを続け、国内の防衛産業に義理を果たすための数字であって、精緻に積み立てられた予算ではないということです。先の通常国会で野党が43兆円の中身を示すよう求めましたが、根拠のあやふやな数字しか出てきませんでした。

無駄な買い物

防衛費増額の予算を詳しく見ると疑問がたくさん浮かんできます。

例えば、菅政権が導入を決定した「12式地対艦誘導弾能力向上型」と「島嶼防衛用高速滑空弾」というミサイルがあります。どちらも今年から量産が始まるのですが、ミサイルの能力はほとんど変わりません。

同じ能力のミサイルが二つ必要なのかという疑問がまず浮かびますが、それだけではありません。防衛省は、これらのミサイルの納入が遅れるかもしれないという理由でアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」を購入するとしています。同じ能力のミサイルを3種類も同時に購入することになるわけです。

この背景には、アメリカの圧力があったのではないかと考えています。アメリカはウクライナにすでに5兆円の軍事支援を行っています。その穴埋めをするために、日本に武器を買わせようとしているということです。

このような疑問が浮かぶ兵器の購入の仕方は、枚挙にいとまがありません。

そのうちの一つが、無人偵察機「グローバルホーク」です。この無人偵察機の購入は、安倍政権時に決まり、今年6月に3機目がようやく納入されました。自衛隊が兵器を購入する際、通常は陸海空のいずれかの自衛隊が購入を要望します。しかし、グローバルホークに関しては、いずれも要望を出さず、防衛官僚であるいわゆる「背広組」が手を上げました。政治案件で購入が決まったことは明らかです。グローバルホークをアメリカから購入したのは、世界でも日本だけです。

日本が購入したグローバルホークは、アメリカ空軍が2021年に中国の軍事力に対抗できないという理由で退役を決めた旧型で、アメリカ軍が使わないと決めたガラクタを日本が購入したことになります。

しかも、最初の契約額は3機で510億円だったのに、FMSという米国に一方的に有利な契約方式のせいで値上げされて619億円になってしまいました。119億円の値上げです。さらに、その整備費用には年間120億円かかるとされ、そのうちの30億円がアメリカから移住してくる技術者40人の生活費とされています。

グローバルホークは、地上を監視するための無人偵察機です。日本は海に囲まれており、他国の上空を飛ばしたら領空侵犯です。どうやって使うのでしょうか。

膨らむ予算

もう一つ現在進行中なのは、イージスシステム搭載艦です。

2020年、当時の河野防衛大臣は、迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の陸上への配備を断念しました。ミサイル発射後にミサイルから切り離されるブースターを周辺住宅に安全に落下させることができないというのが理由でした。

イージス・アショアの地上への配備を断念した後、菅政権は2020年12月、今度はイージス・アショアを護衛艦に搭載することを決めます。ところが、ここに大きな問題が生じました。

イージス・アショアはそもそも船に載せるためのものではありません。それを無理やり船に載せようとすると船があまりに巨大になってしまうため、システムの小型化を図ろうとします。その結果、膨大な予算がかかってしまうのです。

イージス・アショアは、もともと1200億円で購入予定でしたが、護衛艦に載せるための改造費用は1000億円に上ります。しかも、これを2隻つくるとしているので、2000億円以上予算が膨らむことになってしまいます。

このように防衛費の使い方には、かなりずさんな実態があります。自衛隊員の処遇が問題になっていますが、防衛費が足りないというよりも、兵器の爆買いのような防衛費の使い方に問題があります。

甘いチェック機能

防衛費は、国会のチェックの甘さもあり、無駄遣いが山のように増えてしまっているのが現状です。そこには防衛費は国家機密だから、世間に知らせなくてもいいというおごりもあります。

防衛費は本来、陸海空の自衛隊と防衛官僚が議論して、必要な予算を積み立てていく必要がありますが、現在そうした精緻な議論が行われていません。

背景の一つには、2014年に内閣人事局ができ、官僚が官邸の顔色ばかり見るようになったこともあります。政治家がアメリカ製の高額兵器の購入を「政治案件」で約束し、それが決定事項として降ってきても、官僚はそれに反論できなくなっています。

政府は、5年間で増やす防衛費約17兆円について、歳出改革や決算剰余金、「防衛力強化資金」、増税で賄うとしていますが、増税以外の手法は、いずれも単年度しか効果がなく、恒久的な財源にはなりません。最終的には増税で賄う必要がありますが、政府はその内容を先送りにしています。

使い道の議論をもっと

日本が防衛費をいくら増やしても、中国の軍事費には及びません。日本が増やせば、中国はもっと増やすことができます。こうした現状を踏まえれば、防衛費の大きさだけで安全保障を考えるべきではありません。外交を最優先して考える必要があります。

では、適切な防衛費の大きさはどのくらいでしょうか。そもそも、日本政府は11年連続して防衛費を増やしてきました。今年の防衛予算も前年比で1兆4000億円増えています。それでも足りないというのなら、なぜ足りないのかについてしっかり議論して無駄を減らすこともしなければいけません。しかし、そうした議論が行われず、防衛費倍増を前提にした財源の議論ばかりされています。

野党はもっと防衛費の使い道をチェックする必要があります。現状では、アメリカや日本の防衛産業に多額のお金がつぎ込まれています。私たち有権者としても、生活を豊かにするためのお金の使い方を訴える必要があります。

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