特集2016.03

労働時間に上限規制を"過労死ゼロ"の社会に向け、労働時間の規制強化へ

2016/03/17
長時間労働の是正は、国の将来を左右する重要な問題なのにもかかわらず、安倍政権は「過労死促進法」の導入をねらうなど、正反対の動きばかりをしている。長時間労働の是正には労働時間の上限規制や休息規制の導入が不可欠だ。過労死ゼロと長時間労働の脱却に向けて活動を続ける2人が語り合った。
石橋 みちひろ 参議院議員
2016年参議院議員選挙・情報労連組織内候補
寺西 笑子 全国過労死を考える家族の会 代表世話人

若年層の過労死が増加

寺西

過労死が社会問題化して四半世紀以上が経過しても、「働く環境は変わっていない」というのが実感です。

2014年6月に「過労死等防止対策推進法」(以下、過労死防止法)が成立したことで、過労死問題の啓発活動や周知運動などは一定の成果が得られました。ですが、実際の職場で目に見えたかたちで働き方が改善されたのかというと、そこまでには至っていないというのが実感です。特に10年前ほどから、若い人たちの過労死の増加が顕著になっています。

若年層の過労死に対しては、「我慢が足りない」「精神的に弱い」などのように、個人の資質の問題として扱われがちです。精神論で問題を片づけるのではなく、職場の構造的な問題として捉えなければ、過労死はなくならないと思います。例えば、十分な人員が与えられないで、長期間にわたって長時間労働を強いられるケースがあります。また、新人教育を受けないまま即戦力として重いノルマを課され、成果の出ないことに責任を問われるケースもありました。長時間労働やハラスメントを生み出す構造を職場に内包していることが、若年層の過労死が増加した原因ではないでしょうか。

石橋

ご指摘のように、日本の働き方には構造的な問題があると思います。私が日本の働き方に疑問を感じ、考え方を根本的に改めたのは、ヨーロッパで暮らした5年間の経験が影響しています。

ヨーロッパでは、基本的に定時に帰るのが当たり前。残業の方が例外的で、休日出勤などもっての外です。自分の生活を第一に考えた上で働き方を決め、家族と過ごす時間や自分のための時間を大切にします。しかし、そのような労働環境は一日にして築き上げられたわけではありません。産業革命以降、欧州でも長時間労働が蔓延し、その撲滅に向けて労働法の規制強化など一つひとつ積み上げてきた結果、今に至っているわけです。

一方、日本ではなぜ、長時間労働が常態化し、過重労働やハラスメントで命を落とす人がなくならないのでしょうか。それは“現場の努力が足りない”という働く側の問題ではなく、法制度上の問題があるからです。寺西さんたちのご尽力で成立した過労死防止法は、労働環境を改善するための大きなステップでした。過労死防止を国の責務として法律に明記したことは、大きな前進だったのです。しかし、それを実効性あるものにするためには、やはり法制度上の規制を強化して、現場レベルにまで過労死防止の取り組みを浸透させることが必要です。にもかかわらず、安倍政権は、その流れに逆行する政策を推進しようとしています。私たちは、そのような改悪に断固反対し、労働基準法上の労働時間規制の強化など抜本的な改革を行い、日本の働き方自体を変えることで、“過労死ゼロ”の社会をめざしたいと考えています。

安倍政権の手法は欺瞞

寺西

家族の会では、安倍政権が前国会で打ち出した「企画業務型裁量労働制の拡大」と「高度プロフェッショナル制度」に、明確に反対の声を上げてきました。働く側からすれば仕事量は自分自身でコントロールできない場合が多いので、この制度で時間外労働の規制が取り払われれば、労働時間がさらに延びていくことは明らかです。周りに迷惑をかけずに働こうとする日本人のまじめで責任感が強いところを悪用した法案に思えてなりません。今でさえ長時間労働が常態化しているのに、過労死の促進を合法化するような法案は絶対に認められません。改正とうたっていますが、まさに改悪です。

石橋

ご指摘の法案は、まさに大改悪法案です。政府は、営業職にまで裁量労働制の適用対象を広げようとしていますが、営業職は顧客の要望に応える仕事なので、要求があれば、時間外でも休日でも駆けつけなければならないこともあります。そうした働き方に、裁量労働制を適用していいわけないのです。

しかも、裁量労働制には、年収要件や経験要件、年齢要件もないため、業務自体が適用になれば新入社員でも若手でも対象者になってしまいます。合法的な不払い残業がまかり通る状況が生み出されてしまう懸念が強いのです。

また、「高度プロフェッショナル制度」は、まさに「残業代ゼロ法案」「定額働かせ放題法案」という悪名にふさわしい制度です。残業代を払わずに時間の縛りを設けることなく働かせ続けたい、という財界側の意向が色濃く反映されているのではないでしょうか。この制度は、2007年、第1次安倍内閣が導入しようとして失敗した「ホワイトカラー・エクゼンプション」に手を加えたもの。意図をごまかすために名称を変えて、労働者のごく一部のみが対象だと思わせるために、職種を専門職に絞り、かつ1075万円以上程度の年収要件を設けて対象を絞っています。まず何が何でも導入にこぎ着けたいという意図がアリアリです。

政府は、これらの制度改革の理由として、柔軟な働き方やワーク・ライフ・バランスの実現、成果で評価される制度や女性の活躍の推進など、聞き心地のよい言葉を並べています。しかし考えてみてください。これらの働き方改革は、労働基準法を改めなくても、現行法の範囲内で対応できるのです。むしろ、長時間労働の抑制を含め、労使でしっかり協議を重ね、労使で納得できる制度を確立して実現していけばいいのです。本音は、残業代を払わずに柔軟に働かせることのできる環境をつくりたいだけなのです。聞こえのよい言葉を前面に押し出す安倍政権の常套手段にだまされてはなりません。

労働時間の管理を厳格化

石橋

民主党では、労働基準法の労働時間などの規制強化に向けて、四つの柱を掲げました。1.残業時間を含む年間総実労働時間の上限規制の導入、2.勤務間インターバル(休息)規制の導入、3.絶対週休制(7日に1日)を含む休日・休暇制度の強化、4.適用除外職種と対象者の縮小、残業代割増率強化─の4点です。この4点に関しては、今後、議員立法として具体的な提案を行い、実現に向けて努力していきたいと思っています。

また、労働時間の管理を徹底させることも重要な課題です。特に、裁量労働制を採用している企業では、みなし労働時間を超えて勤務したとしても、残業代や深夜・休日割増賃金が支払われないケースが多く、不払い残業の温床になっています。過労死に至るような過重労働を強いられた場合でも、勤務時間の記録が残されておらず、労災申請すらできないケースも見受けられます。裁量労働制はできる限り抑制し、かつ労働時間管理が徹底される方向で改革を進めていきたいと考えています。

寺西

家族の会では、過労死防止の大綱を作成する協議会の中で、1.週60時間以上の勤務をゼロにするための数値目標を設けること、2.36協定の特別延長時間外労働を月80時間以下にすること、3.インターバル休息制度の導入、4.労働時間の把握の厳格化─の4点を強く主張しました。

ですが、協議会では、「大綱は現行法を前提としているため、法改正を行わなければ実現できない」という理由で受け入れられませんでした。この四つは、“過労死ゼロ”を実現するためには、どうしても必要な項目だと考えているので、今後も訴え続けたいと思っています。

ワークルール教育の場を

石橋

私たちが力を入れているもう一つの取り組みが、「ワークルール教育推進法(仮称)」の策定に向けた取り組みです。私が事務局長を務める超党派の「非正規雇用議員連盟」が、今国会の法案提出をめざして動いています。

「ブラック企業」や「ブラックバイト」などが社会問題となる中、若い世代が安心して働ける社会にするためには、若者が社会に出る前にワークルールの基本を習得できる環境が必要です。労働者が、労働基準法などの基本的知識がないままに仕事を始めることがないよう、就労前から就労後まで、継続的に知識が身につけられる制度を検討したいと思います。

また、経営者にもワークルールを身に付けた上で事業を開始する義務・責任を負わせてはどうかと考えています。労働者を雇用する以上、使用者側もワークルールを理解した上でそれを順守しなければなりません。労働者側と雇用者側の双方が基本的なワークルールを身に付けることで、労働環境の改善につなげたいと思っています。

寺西

家族の会でも、社会に出る前の教育課程で、労働者の権利やワークルールを学べる機会をつくってほしいと主張してきました。そうした基本的な知識を身に付けてから働き始めれば、“この働き方はおかしい”と気づくことができます。その気づきがあれば、労働組合や労働基準監督署に相談するなどの次のステップに進めるようになります。自分を守るための知識をもって社会に出てほしい、というのが私たちの願いです。

今回、話をさせていただき、めざすべき方向性が石橋さんの考え方と重なり合う部分が多いことがわかりました。石橋さんの力もお借りしながら着実に改善の方向へと前進させたいと思っています。

石橋

私も寺西さんたちのご示唆をいただきながら、現場に即した実効性のある内容で改善を重ねたいと思っています。私たちには若い世代や子どもたちが、希望をもって安心して暮らせる社会をつくる責任があります。その社会の実現に向け、ご支援をいただければ幸いです。

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