特集2016.03

労働時間に上限規制を裁量のない「裁量労働」過大な業務量が背景に

2016/03/17

きつい裁量労働制

中堅IT企業のシステムエンジニアであるAさんは、「自社の人間が裁量労働制のもとで果てしなく働いているのを見ると、(自分への制度の適用は)どうかなと思う」と打ち明ける。裁量労働が適用されていないAさんでも、納期前1カ月の残業時間が月100時間を超えることがある。そんなAさんから見ても制度適用者の働き方はきつい。裁量労働制を適用されても、効率よく働けるわけではない。現実はむしろその逆のようだ。

Aさんの会社で裁量労働の適用対象となっているのは、管理者や現場のリーダー層だ。その層は、もともと業務量や責任が重く、裁量労働が適用されていなくても長時間労働になりがちだ。

だからといって、裁量労働制の適用が長時間労働の要因ではないといえるだろうか。というよりも、制度適用は長時間労働を是正しておらず、労働者の時間管理を緩やかにしている。むしろ「残業代削減」や「労働時間管理の放棄」を招いていると見た方がよいだろう。Aさんは「裁量労働制の適用で年収ががくんと減った人もいます」と明かす。これでは長時間労働のまま、残業代が減っただけのようにしか見えない。労働時間管理の責任放棄による過重労働は人命にかかわる重大な問題であることを忘れてはいけない。

Aさんは、「本来ならプロジェクトを管理するリーダーと、作業を専門にする人が分けられればいいのですが、一人でも無理をすればできてしまうから、任せてしまう。任された側も期待に応えようと頑張ってしまう」と話す。Aさんの職場で裁量労働制は過重労働の歯止めになっていない。

長時間労働解消が大前提

『労働法(第10版)』(菅野和夫著)は、裁量労働制のような「所定労働時間みなし制」が妥当するためには、「当該業務が高度に専門的ないし企画的なものであって労働時間を拘束することが労働者の能力発揮の妨げとなること、したがって当該業務遂行については高度の自律性が保障されること、それから労働者グループが割増賃金不払を補ってあまりある経済的待遇を与えられること、当該職場で年次休暇がほぼ完全に消化されることなどが必要となる」と解説している。Aさんの職場のように制度適用者の年収が減少したり、過大な業務量を任されたりしていては、「自律性」を発揮できるはずがない。

一方、別のIT企業で働くBさんは裁量労働制の適用を受けているものの、働き方に不満はないという。裁量労働制の適用があっても「定時」並みに帰宅しているからだ。Bさんは「業務量が適切に配分されている」と話す。労働者が裁量性を持って働くためには少なくとも適切な業務量が前提となるはずだ。

とはいえ、裁量労働制は、「当該労働者が個席にいなくても上司は文句を言えない、という制度」(前出『労働法』)。チームで仕事をこなしている実態を考えると、適用労働者を増やして業務を効率的にまわせるのかという疑問も湧いてくる。裁量労働制を用いずとも、「フレックスタイム制」で対応できる例も少なくない。裁量労働制は、「残業代削減」や「労働時間管理の放棄」に悪用される危険性がある。仮に制度を導入するにしても労働組合の強い関与による、「みなし労働時間」の設定や、適用者の労働時間・健康管理が欠かせない。その大前提として、長時間労働の蔓延の解消なしには、「自律的な働き方」の実現も、裁量労働制の拡大も図れないはずだ。

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