特集2016.10

産業別労組の次なる可能性韓国「産別転換運動」から学ぶ
非正規処遇改善に大きな効果

2016/10/21
お隣の国・韓国では企業別から産業別に転換する運動が展開されてきた。労働者はなぜ産業別労組の運動をめざしたのか。そこで得られた成果は何か。専門家に聞いた。
呉 学殊(おう はくすう) 独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員
著書に『労使関係のフロンティア 労働組合の羅針盤』など

産別転換運動の前史

1980年、韓国ではクーデターで全斗煥・軍事政権が誕生します。権力を握った全斗煥大統領は同年、労組法を改正します。法律に「第三者介入禁止」と「複数労組禁止」の規定を導入し、労組に企業別の形態を強制しました。その少し前、70年代後半の韓国では繊維産業の劣悪な労働環境を改善するため、社会運動家や弁護士らが外部から労働者を支援していました。政権は法改正により第三者介入禁止規定を導入し、外部との接触を禁止することで労組の弱体化を図ったのです。産別労組やナショナルセンターも介入すると違法になります。

これによって韓国では企業別中心の活動が固定化しました。しかし、実際は企業内での不当労働行為が横行し、労組活動が難しい状況が続きました。

86年頃から民主化闘争が始まると、労働者は、自由に労働組合を結成できる権利などを求めて、87年に「労働者大闘争」を展開しました。この際、労組は会社と対等な主体となるために産業別労組への転換を訴えました。産別転換運動はこのときから始まっていました。

「労働者大闘争」から「民主労総」の結成

「労働者大闘争」で多くの労組が民主的労組の連合体をめざし、90年に「全労協」を結成しました。しかし、不法組織であるとみなされ、弾圧され、力を発揮できませんでした。

95年になると、金泳三政権下で「民主労総」が結成されます。97年には労組法が改正され、ナショナルセンターと産別レベルでの複数組合が認められるようになりました。

97年に経済危機が起きると産別転換運動が本格化しました。大量失業や非正規雇用の急増に、企業別労組では対応できなかったからです。労働者は企業の論理を乗り越え、社会的な存在として労組が役割を発揮するためには、産業別労組が望ましいと考えたのです。そのため韓国の労組は、社会の二極化や非正規雇用問題の解消、組織率の拡大、福祉国家の実現などに向けて、産業別労組をめざす取り組みを具体化しました。

産別転換の進展

2014年時点の韓国の組合員数は約190万人です(組織率10.3%)。このうちナショナルセンターの組合員数は、■「韓国労総」が約84万人■「民主労総」が約63万人■ナショナルセンター未加盟が43万人─です。

産別転換率は「韓国労総」で29%、「民主労総」で80%となっています(ともに11年)。

産別転換が急速に進んだのは06年です。労組は企業内での複数組合の解禁を以前から求めてきました。一方で使用者側は労組専従者に対する賃金支払いの禁止を求めていました。どちらの課題も90年代後半から先延ばしされてきました。

06年に、二つの法律を翌年改正するという機運が高まります。これで産別転換が一気に進みます。企業が労組専従者の賃金を負担しないと、労組は中小企業に専従者を置けません。産別労組がその役割を補うことが求められたのです。

産別交渉の実態

産業別労組は、組織によって体制が異なります。代表的な産別の「金属労組」(約15万人)の体制は、本部─地域支部─企業別支会となっています。

組合費は賃金の1%、チェックオフされた金額が産別本部に直接納入されます。そのお金は、本部に約18%、地域支部約18%、支会約48%、基金(闘争基金)約16%─という割合で配分されます。

金属労組は03年から産別中央交渉をスタートしました。金属労組はこの年の交渉で労働時間の短縮(週労働時間48時間もしくは44時間を40時間へ)を勝ち取りました。翌年には法定より10万ウォン高い最低賃金(月給基準)に合意しました。この産別最賃は組合員以外の未組織労働者にも適用されます。また、05年には海外工場を新設する際には組合員の雇用・労働条件に関して協約を締結するという合意を得ました。協約は労組のある企業に適用されます。

このように産別中央交渉では、本部が交渉権限をもっています。産別中央交渉の対象は、産別最賃や労働時間規制などです。

その他の賃金交渉は、大手企業の場合、例外的に企業別支会で交渉することが認められています。それ以外の中小企業では、慶州支部(組合員数約3100人)の場合、地域支部が地域の経営者と集団交渉しています。この際、交渉権限は地域支部に移譲されています。

勤務体制や福利厚生などの項目は、企業別支会で交渉されます。これは「支会補充交渉」と呼ばれます。

各支部には専従者がいます。金属労組の慶州支部には13人の専従者がいます。

非正規の処遇改善に効果

産別転換のもっとも大きな成果は、非正規労働者の組織化と処遇改善にあります。民主労総の保健医療労組が07年に締結した協約は特に影響がありました。保健医療労組は、直接雇用の非正規労働者の正社員化(67病院2384人)■直接雇用の非正規労働者の差別是正(同一労働同一賃金、42病院1541人)─などを勝ち取りました。産業別レベルで賃金と労働条件の統一基準を確立したことは、産別転換の大きな意義だと言えるでしょう。

このように、このほかの産別労組も集団交渉をつうじて、法定最低賃金より高い産別最賃や賃上げを獲得するなどしています。集団交渉では、例えば地域で横並びの条件を設定されると経営者は1社だけ拒否するのは難しくなります。労組は、掲げる要求が社会的課題の解決につながることを訴えやすくなります。

また、産別転換は、人と財政と組織力を産別労組が握ることで、組織化にも寄与しています。全国学校非正規労働組合と公共労組は、学校で約7万人、また公共労組は大学の清掃労働者約1700人を組織化するなどしています。

試行錯誤は続く

課題は、企業が産別交渉に応じたがらないことです。産別交渉に応じる企業数は減少しています。労働組合は産別交渉に応じるメリットを示さなければなりません。

例えば、賃金水準を中央産別交渉で決めれば、使用者団体に加盟する各企業はそれに従うと、賃金交渉に関する手間を省けます。しかし、韓国の賃金は企業規模間格差が大きく、中央交渉で決定することが困難です。産別交渉に応じないと不当労働行為に認定するなどの法改正も視野に入れなければ、本来の産別交渉は難しいかもしれません。韓国の産別転換はいまも試行錯誤を繰り返しています。

日本への示唆

韓国の労組組織率は10.3%で日本より低いです。ですが、労組の力で社会を変えていくという志の強さはぜひ学んでほしいと思います。

日本には「合成の誤謬」が生じていないでしょうか。個別企業にとってはいいことでも、それが積み重なると社会全体には悪影響が生じる。その問題を解決するために産別労組が社会的なテーマを設定して、問題解消へ向けて運動する。産別が社会を変えていくという強い志を持ってほしいと思います。

韓国のメーデー(UNIのWebサイトから)
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