「第四次産業革命」と労働運動技術革新で働く場所と時間はより自由に
変化への対応力・交渉力が問われる
2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。14年、育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』(光文社新書)として出版。15年4月より企業変革パートナーの株式会社ChangeWAVEに参画。2児の母。
WLBとリモートワーク
─技術革新はワーク・ライフ・バランスにどう影響してくるでしょうか。
私も参加した厚生労働省の懇談会「働き方の未来2035」では、技術革新に伴って、働く場所や時間がより自由になっていくだろうと提言しました。
ワーク・ライフ・バランスの観点で言うと、ITを活用した「リモートワーク」で、いま起きている問題を緩和できる余地はあると思います。例えば、待機児童問題が起きているのは都市部です。リモートワークを活用し地方で働くことができれば、子どもを豊かな環境の中で育てながら、働く人自身の通勤時間を短くすることもできるでしょう。地方創生がうまくいかないのは、地方が子育て支援策を充実させても、保護者の就く仕事がそこにないからです。ITの活用で働く場所を分散させることはとても大事だと思います。
私もリモートワークを活用しながら働いています。毎日、同じ場所で同じメンバーが顔を突き合わせて仕事をする必要性は以前に比べると少なくなっていると思います。すべての業務をリモートワークに移行しないでも、そういう流れは徐々に広がっていくのではないでしょうか。
その流れの中では、仕事に対する評価も変わってくると思います。これまでのように、ただ単に会社にいさえすれば評価されることは少なくなります。いつ、どこで仕事をしていてもいい代わりに、仕事の質が問われるようになるということです。
交渉力が求められる時代に
─働く場所・時間の制約がなくなるとしても、過重な業務を任せられて長時間労働に陥る懸念もあります。
働く人にとってどれくらいの業務量が適切なのかは、使用者との交渉が求められるようになると思います。労働組合として交渉する場合と、個人として交渉する場合とが考えられます。納期や賃金・報酬の設定に関して、働く側が交渉力を高めないといけませんが、交渉が苦手な人も多く、難しい面もあります。労働組合がかかわっていく場合もあるでしょうし、労働組合に限らないシステムの構築も考えなければいけないでしょう。
「働き方の未来2035」報告書では、プロジェクト型の事業運営が増えて、企業が人を抱え込まなくなると、企業別組合だけでなく、職種別や地域別の労働組合が求められるようになると提言しています。
例えば、クラウドソーシングで働く人の最低報酬をどのように決めるのか。シェアリングエコノミーを含めて働き方が複合的になっていくことを想定すれば、個人事業主の労働者性をどう認めていくかなどの課題も出てくると思います。
─「働き方の未来2035」報告書では、家事のロボット化やアウトソーシング化なども想定されていますね。
これに関しては、利用する側の経済力によって格差が生じるのではないかと心配しています。介護や介助に補助ロボットなどが利用されるようになってくると思いますが、利用できる人とできない人に分かれるかもしれません。
子育てに関しては、人が手をかけなければいけない部分がかなり残るはずです。技術革新やロボット化が進展しても育児や介護のケアワークは残るので、もっと評価されるべきだと思います。同時に、働き方を技術革新によって変えて、家庭や地域での時間を確保できるといいと思います。
誰もが質の高い教育を
─報告書では質の高い保育・教育を受けられる環境の確保も提言されていますね。次世代に向けてどのような社会をつくっていきたいですか。
技術革新は、避けられない大きな流れだと思います。その中で、自分の子どもだけがその流れに乗り遅れなければいいと考える人もいるかもしれません。けれども、私はどんな家庭に育っても同じように教育を受けられて、失敗しても再チャレンジできるようなセーフティーネットを構築しなければいけないと考えています。そうしなければ個人間の闘いしか残らなくなってしまう。
将来的には、長寿化の影響で70代、80代まで働く社会になっているかもしれません。その中で一つの会社で働き続ける社会モデルがどこまで通用するか。一つの企業がその人の雇用や教育訓練、福利厚生をすべて提供するモデルの継続は難しいでしょう。長い就業人生の中で求められるスキルも変化します。そのような環境で求められるのは、変化への対応力だったり、交渉力だったりします。だからこそ誰もが質の高い教育を受けられる環境が重要になってくると思います。
─労働組合のあり方にも変化が求められます。
やはり、一つの企業が定年後再雇用や教育訓練、福利厚生まですべて面倒を見るのは難しいと思います。もちろん企業別組合がそれらの維持や充実を要求することは大切です。ただし、一つの企業の範囲内では、それらの恩恵を享受できる人の数は少なくなるでしょう。産業別やナショナルセンターのような組織がセーフティーネットをつくる役割を担うようになるかもしれません。
いまの大人たちを前提に、対応力や交渉力を飛躍的に高めるのは難しいかもしれません。しかし、次世代を担う子どもたちはこれからです。いまの子どもたちが大人になるまで、教育や再チャレンジのセーフティーネットの環境を整えておく必要があると思います。