特集2017.04

「働き方改革」の隠れた争点を考えるパワハラ防止措置を法制化する動き
民進党内で石橋みちひろ議員らが推進

2017/04/18
パワハラ防止に関する法規制がない中で、防止措置を法制化する動きが民進党内でスタートしている。情報労連の組織内議員である「石橋みちひろ」参議院議員が主担当となって議論を進めており、今回、防止措置の内容などについて話を聞いた。
石橋 みちひろ 参議院議員
情報労連組織内議員

─パワハラ防止の法的措置が求められる背景をどうお考えですか。

パワハラは以前から存在した問題ですが、昨今、いわゆる「ブラック企業」問題の顕在化などを背景に、より深刻化してきています。

昨年、大きな社会問題となった大手広告代理店・電通の事件でも、パワハラと認められる出来事が背景にありました。あのような不幸な出来事をなぜ防げなかったのかと残念でなりません。セクハラやマタハラは法律による規制ができたのですが、パワハラを規制する法律はまだありません。悲劇を繰り返してはいけないし、今もパワハラに苦しんでいる労働者がいることを考えれば、一刻も早く法的な対応をしなければなりません。そういう危機意識の下で、民進党の厚生労働部門でパワハラを規制する議員立法を策定する議論をスタートさせました。

─議論の内容を教えてください。

現在、事務局で法案骨子を検討している段階ですが、大きな方向性としては、労働安全衛生法(安衛法)を改正して、パワハラを定義し、その防止措置や対策に関して雇用管理上の責務を事業者に課すことを想定しています。

現行の安衛法でも、事業者に対して労働者の心身の健康を守る責務のあることが規定されています。パワハラというのは、まさに心の健康や職業生活上の安心・安全を奪う恐れのある行為であって、結果、働く人を死に追い込んだり、働けない状態に追いやったりする可能性がある深刻なものです。このような観点に立てば、事業者には従業員の健康や安心を守るために、パワハラを防止して、適切な対応を取る責務があると位置付けられます。

─具体的には?

最大のポイントは、パワハラをどう定義して、どこまでの範囲で規制をかけるかです。まず、パワハラの類型をあらためて検討してみました。

第一に、同一企業、または事業所内でのパワハラがあります。これは、最低限、対象範囲に含めなければなりません。

しかし、パワハラが発生するのは同一事業所内の人間関係だけではありません。違う企業間でも、例えば親会社の社員から子会社の社員や、発注元から下請けの社員に対するパワハラもあるわけです。実は、民主党政権時代の2012年に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が取りまとめた「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」(図表1)というのがあって、私たちも参考にしているのですが、その中で定義したパワハラには、この企業横断的なものは対象としていません。私たちはこれを第二類型として、検討課題としています。

【図表1】

パワハラの定義

(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告書、2012年4月)

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

※上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間などのさまざまな優位性を背景に行われるものも含まれる。

職場のパワーハラスメントの行為類型

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個の侵害

そしてもう一つは、昨今、問題が大きくなっていますが、消費者や公共サービス等の利用者などから労働者や公務員に対して起きるパワハラです。例えば、モンスターペアレントやモンスターペイシェントなど、教育機関や医療の現場などで度を超した悪質なクレームによる被害が拡大しています。いわゆる「感情労働」問題ですが、これを第三類型として議論の俎上に載せました(図表2)。

【図表2】パワハラの類型イメージ

議論を深めてみると、第二類型や第三類型は、定義の問題など、法的規制をつくることは第一類型に比べて難しいことを実感しています。しかし現段階では、労働者保護を最大のテーマに据えて、パワハラの対象範囲をできるだけ広げて、より広範にパワハラを防止する方向で検討したいと考えています。

─どういう方法で防止措置を課すのでしょうか。

まず、国に対して、パワハラ対策として事業主が講ずべき措置に関する指針を策定させます。その上で、事業者に対し、国の指針に基づいた行動計画の策定と、対策を実行するための部署の設置または担当者の任命を求めます。こうしたスキームを通じて、(1)予防的措置(2)問題の早期発見(3)問題発生後の迅速かつ適切な対応策─を講じることを求めます。

適切な措置を取らない事業者に対しては、セクハラやマタハラと同じように、指導・勧告、そして企業名公表などの措置を想定しています。また、紛争解決処理に関しては、個別労働紛争解決促進法に基づくあっせん、その他中立的な第三者機関による紛争処理を想定しています。その他の中立的な第三者機関としたのは、前述した第二類型、第三類型に対応させる必要があるためで、これは今後の議論でさらに検討を深めていきます。

─何が課題になりそうですか。

事業者の雇用管理上の責務という切り口で考えた場合、当たり前ですが、その責務が生じるのは自らと雇用関係にある者だけです。第一類型は、同一事業所内が対象範囲で、被害者も加害者も自社の人間なので、当てはめは難しくありません。しかし、第二類型の場合、被害者と加害者が別々の企業に属しているので、話がもう少しややこしくなります。例えば、事業者が親会社や取引先企業に属する加害者に対して、雇用管理上の責務を果たすことはできないからです。

今、考えているのは、加害者が誰であっても、被害者側の事業者には自社の社員をパワハラから守るという雇用管理上の責務があると位置付けることです。そうすれば、第二類型も第三類型もカバーできます。

ただ問題はその先で、加害側への対処をどのようにしたらいいかということです。先ほど述べたように、第一類型では加害者側も自社の人間なので、直接、事業主に必要な対策を行うことを義務付けることができます。

第二類型の場合は、被害者側の事業者にそれを求められませんので、加害者側の事業者に対してパワハラ被害を通知するところまで義務付けて、その上で、加害者側の事業者に雇用管理上の責務としての対応を求めるとしてはどうかと考えています。

第三類型はもっと難しいです。というのも、例えば消費者保護法など現行の法体系では、「消費者は弱い立場」なので保護が必要だという前提で作られています。条件付きとはいえ、消費者を加害者と位置付けること自体にハードルが非常に高いのです。ただ、さまざまな産業分野で悪質クレイマーへの対策について要請があるのも事実ですので、何らかの対策を講じることができないか、引き続き慎重に検討していきたいと思います。

また、加害者に対して損害賠償請求をして、仮に勝ったとしても賠償金額が低いという問題も指摘されています。今回、パワハラ防止措置を事業主に課すことで、その損害賠償の金額にも影響が及ぶ可能性があることを付記しておきます。

─パワハラ行為の線引きの問題は?

現段階では、前述した円卓会議におけるパワハラの定義をベースにしつつ、先ほど説明した第二類型と第三類型も含めてできるだけ広範な定義ができるようにしたいと考えています。

ただ、どういった行為がパワハラに当てはまるかについての線引きは、個別の行為をすべて法律に書き込むことは困難ですので、具体的な要件などは別途政令で定める立て付けになると思います。

─今後のスケジュールは?

今、民進党の厚生労働部門の中にパワハラ法案検討チームが立ち上がっていて、私がその主担当になっています。今後は、法案の骨子案づくりを党内でのオープンな議論を通じて進めていって、しかるべき段階で法案登録し、法文化に進みたいと考えています。

─包括的な人権侵害防止法を求める声もあります。

日本はそもそも、人権侵害に対する法規制や救済制度がぜい弱だという現状があります。そうした中で、職場における問題に対しては、これまでセクハラやマタハラなど、個別の問題に対する対応を既存の法律の枠内でパッチワーク的に行ってきた側面も否定できません。私たちパワハラ防止法案の検討チームも、例えばすべてのハラスメントを人権侵害という観点で包含するような、より包括的な防止法を検討すべきではないかという問題意識を持っています。今後議論を深めていきますので、ぜひ皆さんからも現場の課題やご意見をお寄せください。

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