特集2017.04

「働き方改革」の隠れた争点を考えるパワハラを発生させない労使コミュニケーションのあり方とは?

2017/04/18
パワハラの発生する職場では、健全な成長は望めない。パワハラを発生させない労使コミュニケーションのあり方について専門家に聞いた。
呉 学殊 独立行政法人労働政策研究・研修機構 主任研究員

問題を放置しない組織づくり

まず、大前提として、どのような組織や個人でも何かしらの問題が生じるという考え方を持つことが大切です。問題は放置され続ければ、それが蓄積されて取り返しのつかない事態に陥ります。仮にハラスメントによって優秀な人材が流失すれば、中小企業にとって大きなリスクになります。このことを踏まえれば、問題の小さいうちに対処することが重要です。

問題が生じた際、迅速に対応するためには、情報をキャッチできる体制を常に整えておくことが肝要です。このとき大切なのが、会社の中で自由にモノが言える環境です。ハラスメントなどを受けたときに、それをきちんと訴える場所があること。経営者が複数の情報チャネルを持っていること。こうした環境をつくっておけば、問題に早期に対応できます。

情報チャネルは、意見箱のようなものを置いておくとか、「職場改善委員会」のような場で議論するとか、さまざまな方法があります。労働組合も重要な情報チャネルの一つです。日頃からの「ホウレンソウ」がとても大切で、これがきちんと機能していればパワハラ問題を未然に防止できるケースは多いはずです。企業にとってマイナスと思えることほど、経営者に最初に伝わるような、自由にモノが言える環境が重要だと思います。

労務管理の転換を

労務管理には、一般的に二つの方法があります。一つは、部下に仕事を与えて、それができなければ罰を与える方法と、もう一つは、達成できれば褒めて「アメ」を与える方法です。パワハラは、前者の場合に起きる可能性が高まります。パワハラを防ぐためには、後者のように積極的に人材を伸ばす労務管理を行うべきでしょう。

前者の方法は、経営手法としても限界があります。これまでのように、目標未達成の場合に罰を与える手法では、創意工夫は生まれずに、むしろ過度な長時間労働やパワハラなどの弊害が現れます。決められた製品・サービスを販売するだけの定型的な仕事は、利益率がどんどん下がっている中で、新しい付加価値を生み出すためには、従業員が自ら考えて行動できるような環境をつくらなければなりません。そのためにも、罰を与えるような労務管理よりも、自由にモノが言えるような労務管理が大切になります。

どのような仕事でも、いい仕事をするためには、自分の限界を乗り越えなければいけない局面があると思います。上司が部下に対して高い目標を与える場合には、部下がその仕事に対して納得できるように丁寧に説明することが大切です。昔のように「何も言わなくてもわかる」時代ではありません。また、上司と部下だけの関係では、一方的な関係になりがちです。第三者の視点から点検できるように、チェックを複線化しておくことも重要でしょう。

良い経営者の経営手法

私は中小企業の労使コミュニケーションを調査するために、約30人の経営者にヒアリングしてきましたが、良い経営者ほど若者を評価するのだと感じました。良い経営者は、ありのままの従業員を理解しようとし、その良さを伸ばそうと考えます。世代間ギャップがあるのは確かですが、その若者たちの良さを認め、その能力をもっと発揮させようと考えるのが良い経営者です。そういう会社が売り上げも利益率も伸ばしていました。

そのような意味では、若手社員には、上司の命令を相対化できる思考力を身に付けてほしいと思います。私は大学での講義を受け持っていますが、過度に義務意識が強い学生が多いと感じています。上司の命令を絶対化し、何が何でもそれをこなさないといけないという意識が強いのです。しかし、それでは柔軟な思考力が身に付きません。その上司の命令が、会社全体の流れの中でどのように位置付けられるのか、それを自分で考えられる能力が必要だと思います。

人間だけに与えられた特権

中小企業の経営者で、ときに上から目線で、「社員は経営者の命令を聞いていればいい」というタイプの人がいます。しかし、実際にこうした経営手法で行き詰った、とある中小企業は、経営戦略を転換し、社員全員が参加できる「社員主体経営」をめざすようになり、すべての経営情報を社員に伝え、現場で起きたマイナスの情報も経営者に伝わるような環境をつくりました。この会社は、労使コミュニケーションを重視した結果、現在でも成長を続けています。自由にモノを言える環境が企業経営に好影響を与えているのです。

考えて表現することは、人間だけに与えられた特権です。その特権を職場で行使してはいけないというのは、権利の制限であり、本来あってはならないことです。社員が会社に対して思っていることを言える環境が大切です。それが企業の成長につながり、パワハラの未然防止にもつながっていきます。

職場における特権の基盤づくりへ

日本の労働組合組織率は、2016年現在、17.3%に過ぎません。労働組合のない職場では、基本的に労働者が自由にものを言う環境となっていません。職場に人間の特権である言論の自由を実現させることがパワハラの未然防止には不可欠だと思います。そのひとつとして、ヨーロッパ諸国や韓国に導入されている従業員代表制の法制化が日本でも1日も早く実現されることが必要だと思います。

パワハラなどの未然防止にも、付加価値をより多く生み出す創造性の高い職場づくりにも、労働者が職場で自由に発言しても不利益取り扱いを受けない労使コミュニケーションの基盤を法律によってつくることが先決課題だと思います。

特集 2017.04「働き方改革」の隠れた争点を考える
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