特集2017.04

「働き方改革」の隠れた争点を考える「マタハラ」は異なる働き方を排除する働き方へのハラスメント

2017/04/18
マタハラは、セクハラ、パワハラとともに三大ハラスメントの一つに数えられている。マタハラ防止対策のポイントを株式会社natural rightsの代表取締役である小酒部さやか氏が講演した。
小酒部 さやか (おさかべ さやか) 株式会社natural rights代表
2014年7月、マタハラ被害者支援団体「マタハラNet」を設立。2015年、アメリカ国務省が主催する「世界の勇気ある女性賞」を受賞。2016年12月、株式会社natural rights代表取締役社長に就任。著書に『マタハラ問題』(ちくま新書)など。

マタハラは働き方へのハラスメント

「マタハラ」とは、マタニティ・ハラスメントの略で、働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに、(1)職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、(2)解雇や雇い止め、自主退職の強要などで不利益を被ったりする─などの不当な扱いを受けることを意味する言葉です。私は、(1)の嫌がらせ行為を「グレーマタハラ」と呼び、(2)の不法行為を「ブラックマタハラ」と呼んでいます。

マタハラは、セクハラ、パワハラと合わせて「三大ハラスメント」の一つとされています。マタハラは、流産、早産、死産の危険性もあり、「命へのハラスメント」にもなりかねない重大な問題です。

私は、マタハラを四つの類型に分類しています。まずは大きく、「個人型」「組織型」に分け、その中で「個人型」を(1)「昭和の価値観押しつけ型」と(2)「いじめ型」に分類し、後者の「組織型」を(3)「パワハラ型」(4)「追い出し型」に分類しています。

(1)の「昭和の価値観押しつけ型」は、加害者が性別役割分業意識を強く持っていて、世代による考えの違いを理解できないタイプです。(2)の「いじめ型」は、育児休業などで休職中の社員の負担を同僚などが背負い、その不満が当事者に向いてしまうパターンです。

(3)の「パワハラ型」は、妊娠や育児を理由に休むことなどを許さない職場。(4)の「追い出し型」は、一番わかりやすいマタハラで、「残業できないと辞めてもらう」などと、職場から排除するパターンのマタハラです。

マタハラは、直属の男性上司だけではなく、人事部や男性経営者層、女性同僚まで、職場のあらゆる方向から起こります。なぜなら、マタハラは働き方へのハラスメントだからです。産休や育休、時短勤務など、働き方の異なる人を排除するのがマタハラなのです。

長時間労働とマタハラ

マタハラ問題をマクロな視点で考えてみましょう。

マタハラは、日本の少子化、労働力不足に直結する経済問題です。マタハラは日本経済の成長を阻害しています。マタハラはなぜ日本でまん延しているのでしょうか。その根っこには二つの問題があります。性別役割分業意識と長時間労働です。2015年発表のマタハラNetの調査結果では、マタハラが起きる職場の44%は、残業が当たり前の働き方をしていました。

日本は欧州に比べて、すべての労働者を対象とした労働時間規制(勤務間インターバル規制など)が空洞化しています(図表1)。このように、すべての労働者を対象とした労働時間規制を第一次ワーク・ライフ・バランスと呼びます。これに対して、育児や介護などを行うための休業制度などのことを第二次ワーク・ライフ・バランスと呼びます。日本は第一次ワーク・ライフ・バランスが空洞化したまま、第二次ワーク・ライフ・バランスの施策が充実してきました。このため、前者が空洞化した状態で、後者の施策を利用すると、第一次ワーク・ライフ・バランスの状態に戻ることができなくなってしまうのです。こうした状況を解消するためには、第一次ワーク・ライフ・バランスの施策を充実させること、すべての労働者の長時間労働を是正することが必要になります。

【図表1】ヨーロッパと日本の規制の違い
参考文献:濱口桂一郎『働く女子の運命』文春新書

「逆マタハラ」への配慮を

マタハラを生まないための正しい対応のポイントは、まず法律と制度の正しい知識を社内で徹底することです。そのほかにも、例えば、社員が育児休業に入る際には求職者の業務を洗い出し、業務の引き継ぎを行うこと。産休、育休中も月に一度はコミュニケーションを取ること。原職復帰が原則であること。業務は、多すぎず、少なすぎず、ジャストフィットの質と量を配分すること。育休復帰者の評価は、同期と比べて評価するのではなく、本人の休職前、休職後で比較することなどを心掛けてください。

マタハラを解消するためには、妊娠や出産で休んだ分の業務をカバーしている上司や同僚に対するフォローが大切です。育休などの制度利用によって周囲にしわ寄せがいく状態を私は「逆マタハラ」と呼んでいますが、この状態を解消するには、フォローする上司・同僚の評価の見直し、フォロー分の対価の見直し、育休などの制度を利用しない社員も長期の休暇が取得できる制度の導入が必須です。このように、育休などの制度利用者の増加をきっかけに、制度を利用しない社員の働き方にも好影響がある改革を行ってほしいと思います。

男女雇用機会均等法と育児・介護休業法が改正され、2017年1月1日から、事業主にマタハラ防止義務が課せられるようになりました。制度の周知・徹底はもちろんのこと、これからは、ダイバーシティが企業の経営戦略になり、人事が経営戦略を担う時代になります。ダイバーシティおよびインクルージョンのメッセージを発信することで、企業のイメージアップにつなげ、労働力が減少する時代を勝ち抜いていってほしいと思います。

(本稿は、2017年1月31日、情報労連・春闘セミナーでの講演内容を編集部が再構成したものです)

小酒部さんが代表取締役を務める株式会社natural rightsでは、eラーニングやDVD、パンフレットなどのマタハラ防止教材を展開している。

特集 2017.04「働き方改革」の隠れた争点を考える
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