最低賃金を考える特定最低賃金の本来の役割を取り戻し労働市場に適正な賃金相場の形成を
凍結状態に陥った東京都の特定最賃
2011年に東京都の最低賃金審議会で、特定最低賃金の必要性審議が使用者側委員の反対により否決されるという異例の事態が起きた。地域別最低賃金の金額が、一部の特定最低賃金の金額を上回ったことがきっかけだ。その後、多少の経緯があるが、2013年以降、東京都のすべての特定最低賃金は審議凍結状態に陥った。また神奈川県でも、同様の事態が2014年以降続いている。
経団連は、地域別最低賃金に追い抜かれた特定最低賃金は早急に廃止すべきという立場だ。特定最低賃金の不要論は以前からあった。特に経済団体は、特定最低賃金は地域別最低賃金の上にある「屋上屋」であり、最低賃金は地域別最低賃金だけでいいと言ってきた。確かに、地域別最低賃金の水準が上がり続ければ、現状の特定最低賃金は存続が難しくなる。労働組合としては、特定最低賃金の本来の役割を見つめ直す必要がある。
「屋上屋」批判への回答
経団連の主張には、特定最低賃金と地域別最低賃金の役割は同じだという意味が込められている。役割が同じだから「屋上屋」になる。こうした主張が妥当だった時期は確かにあった。1970年代以前、地域別最低賃金がなかった頃は、大くくりの産業別最低賃金が地域別最低賃金に準じる役割を担っていた。産業別最低賃金の適用労働者を増やすことで最低賃金制度の対象者を拡大することが当時の目標だった。その後、70年代に全国で地域別最低賃金ができあがると、それまでの産業別最低賃金の役割は、地域別最低賃金の役割と重複するようになった。この事態への対処として、古い産業別最低賃金は廃止されると同時に、そのうちのいくつかは新しい産業別最低賃金に転換するという大改革が1989年前後に行われた。それが新・産業別最低賃金、すなわち現在の特定最低賃金である。
労働省には昔から、地域別最低賃金とは機能を異にする最低賃金制度、すなわち、年齢や勤続、職種などに工夫を凝らしながら、基幹労働者や一人前労働者を対象とする最低賃金という考え方が温められてきた。1989年の転換によって発足した新・産業別最低賃金は、そのような制度として発展していくことが期待された。
こうした考え方は、2005年に厚生労働省がまとめた「最低賃金制度のあり方に関する研究報告書」にも見られる。この報告書は特定最低賃金が本来の役割を果たしておらず、地域別最低賃金と役割が重複していると指摘している。
つまりは、特定最低賃金には、地域別最低賃金と異なる役割があり、特定最低賃金が本来の役割を果たすのであれば、経団連が言うような「屋上屋」という批判は当たらない。地域別最低賃金とは役割が違うからだ。特定最低賃金が本来の役割を果たすことには大きな展望がある。
本来の役割
特定最低賃金には、関係労使のイニシアティブで産業の適正な賃金相場をつくるという役割がある。それは最低賃金法が規定する公正な競争の確保に資するものだ。
労使交渉により適正な賃金相場が形成されれば、労働組合のない企業であっても、その賃金水準を参考にするようになる。特に人手不足の下であれば、人を集めたい企業はその相場を参考にして従業員の募集賃金を決めるようになる。それが賃金の底上げにつながっていく。また、適正な相場観が形成されれば、それに満たない企業は、その水準を参考にするようになるので格差是正にもつながる。
格差是正と賃金の社会的水準
JAMでは、加盟組合の賃金データの全数調査を行い「JAM一人前ミニマム基準」を設定している。所定内賃金第1四分位を参考に算出したもので、18~50歳まで八つのポイントごとに水準を設定。18歳15万9000円、30歳24万円、35歳27万円などとなっている。これらのポイントを結べば、昇給額が引ける。これが格差是正のベンチマークだと訴えている。
日本の企業別交渉の問題点は、初任給を除いて労働市場が可視化されていないことだ。JAMは、そこを補うために賃金賃金の社会的水準に近いものとして、賃金実態調査に基づく金額を格差是正のための基準として掲げている。
特定最賃から同一労働同一賃金へ
地域別最低賃金は、それが非正規労働者募集賃金の最低額となる特殊な市場賃金だ。その政府目標額は加重平均で1000円とされているが、そこから1200円や1500円という「目標」が取り上げられることがある。しかしそれは月例賃金では19万~23万円にもなる。そういう最低賃金は地域別最低賃金では不可能であり、公正労働基準としての最低規制に委ねられるべき課題である。特定最低賃金が関係労使のイニシアティブに委ねられているのは、関係労使だけが適正な賃金水準、社会的な賃金水準を決定できるという考え方に基づく。企業横断的な同一労働同一賃金の可能性もそこにあるだろう。実現まで難しい問題はいくつもあるが、基本的な考え方はそういうことであると思う。
18歳 | 159,000円 |
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20歳 | 172,500円 |
25歳 | 206,250円 |
30歳 | 240,000円 |
35歳 | 270,000円 |
40歳 | 295,000円 |
45歳 | 315,000円 |
50歳 | 335,000円 |