特集2017.06

最低賃金を考えるフリーランスと最低賃金
業務の「見える化」がカギ

2017/06/14
今年3月に経済産業省が「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書をまとめた。研究会の委員を務めた中野円佳氏にフリーランスの働き方の課題を聞いた。
中野 円佳(なかの まどか) 2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。14年、『「育休世代」のジレンマ』(光文社新書)を出版。15年4月より株式会社ChangeWAVE、東京大学大学院教育学研究科博士課程。経済産業省「雇用関係によらない働き方」に関する研究会委員を務めた。

報酬と社会保障に課題

フリーランスは、働く時間を自由に選べるなどのメリットがある一方、報酬や社会保障などの面では課題があります。

報酬に関しては、発注企業側がフリーランスの扱いに慣れておらずフリーランスが言い値で取り引きされてしまうという問題があります。こうしたことは、企業間取り引きでも生じますが、フリーランスのような個人である場合、受注側の立場はさらに弱くなってしまいます。

社会保障の面では、雇用保険に加入できないので、失業保険がなかったり、育児休業給付金を受けられなかったり、会社員より不利な立場になっています。保育園に入りにくいという問題や、年金や税制に関しても、会社員より不利になる問題も残っています。

業務の切り分け

日本企業は、業務を外部に切り出すこと自体にあまり慣れておらず、自社の社員に何でもやらせてしまう傾向があります。総合職の職務が限定されずに、業務の「見える化」ができていない企業が多いのではないでしょうか。そのため、現状ではフリーランスの活用に踏み込めていないという感じを受けています。

発注の仕方も、業務の切り分けがうまくできずに、後からあれこれ追加で発注してしまう傾向があります。受け手側として困るのは、発注側のアウトプットのイメージがしっかりしていないこと。そこがなっていないと、せっかく納品しても手直しが生まれて工数が増えたり、フリーランス側に交渉力がないと追加費用を回収できない問題も生じます。

低価格競争の現状

フリーランスの働き方はおそらく二極化していて、プロフェッショナルで報酬がしっかりもらえる層と、ライターやデータ入力のように低額の報酬しか受け取れない層に分かれています。本来であれば、その中間の仕事があるはずなのですが、そのような仕事は、前述したような理由から、発注されづらいというのが現状です。フリーランスが、一定以上の報酬を確保しようとすれば、プラットフォーマー(仲介事業者)に登録するのが現実的です。

プラットフォーマーに登録すると、結果的に二次下請けのような形で働くことになります。いまでも、スキルのあるフリーランスをプラットフォーマーが認定し、福利厚生のようなものを提供する場合もあります。このような形でプラットフォーマーの影響力が高まれば、個人で働くフリーランスというより、プラットフォーマーありきのフリーランス市場になり、それ以外の個人は守られにくくなってしまうのでは、と懸念します。

業務ごとに最低価格を設定するプラットフォーマーもいます。ですが、それがプラットフォーマー間で統一されているわけではないので、同じ仕事でも安いところに発注することは可能です。また、受け手側が、最初は安く受注して仕事を増やそうとする場合もあります。このため、フリーランス業界では、請負価格が安い方に引っ張られる構造があります。

最低工賃の課題

請負価格の最低金額の設定について、研究会の中で発言もしてきましたが、課題は多いと感じました。参考になるのは、家内労働法です。この法律は、いわゆる内職を対象にした法律で、業種別・県別に最低工賃などを定めています。ただし、この法律は物品の納入が必要になるため、クラウドソーシングのようにモノのない取引は対象にならないということです。この法律の考え方を援用することは考えられますが、なにぶん古い法律であることや、製品の価値を計るなどの難しさがあります。

請負価格のダンピング競争が続けば弊害も大きいため、フリーランスが連携して交渉力を高めていくことが理想です。研究会では、フリーランス同士の横のつながりや交渉力の向上についても議論が交わされました。しかし、安い金額を設定して、仕事を受注しようとする人は必ず出てくるので、最低請負金額を設定するのも簡単ではありません。独占禁止法にかかわる問題も出てくるとの指摘もありました。

産業別労組の役割

日本では、この仕事に対してこのくらいの報酬というモノサシがとても曖昧です。こうした問題は、教育システムや職業訓練の仕組みとも連動する大きな課題だと考えています。企業が業務の切り出しに慣れておらず、発注できる仕事が限定されている限り、フリーランスの働き方が急速に広がっていくことはないように感じています。

長期的に見れば、企業内の仕事も、市場価格で評価される傾向は強まると思います。現状のままでは、仕事の価値は引き下げられていく懸念があるため、大企業正社員の労働組合員の皆さんにとっても、仕事の価値の底支えをしておくことにメリットがあると思います。産業別の労働組合が、個別企業の賃金交渉と並行して業界全体の最低工賃のようなものを交渉する役割を担えたらよいのではないでしょうか。企業で働く人たちもフリーランスと連携して、底上げに取り組んでもらえたらと思います。

フリーランスの四つのタイプ
出所:ランサーズ「フリーランス実態調査2017」
クラウド・ワーキングで得られる月収(税込)の平均
出所:連合「クラウド・ワーカー意識調査」(2016年)
特集 2017.06最低賃金を考える
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