特集2018.04

家族の視点から働き方を見直す「仕事」と「家族」「日本型近代家族」は限界
家族形成をサポートする仕組みの充実を

2018/04/16
家族のあり方は時代に合わせて変化している。私たちが当たり前のように感じている家族のあり方もかつては当たり前ではなかった。家族の変遷をたどりながら、今後の家族のあり方を考える。
千田 有紀 武蔵大学教授

「近代家族」とは何か

〈近代家族とは、政治的・経済的単位である私的領域であり、夫が稼ぎてであり妻が家事に責任をもつという性別役割分業が成立しており、ある種の規範のセット─一生に一度の運命の人と出会って、結婚し、子どもをつくり、添い遂げるというロマンティックラブ、子どもは天使のように愛らしく、母親は子どもを無条件に本能的に愛しているはずという母性、貧しくてもなんでも親密な自分の家族が一番であるという家庭などの神話に彩られた─を伴う家族の形態のことをさす〉 千田有紀『日本型近代家族』

冒頭の引用は、『日本型近代家族』の著者、千田有紀・武蔵大学教授が「近代家族」を定義したものだ。千田教授に、家族のあり方の変遷について聞いた。

戦後日本にとって、家族の民主化は大きな課題だったと千田教授は話す。

「戦後日本では、戦争の反省から前近代性の克服が課題になりました。そこでは家族の民主化が重視され、家族の民主化は社会の民主化につながると考えられていました。でも、そこで語られる民主化とは、妻と夫がお互いに尊重し合っていれば性別役割分業であってもいいという考え方。男女の本質的な平等をめざすものではありませんでした。また、権力が家族に介入しないことが民主的な家族だと考えられたため、家族の中の構造が見えにくくなり、家庭内の暴力が隠されるという副作用が生まれました」

さらに、民主的な家族とは、夫と妻が尊重し合うことはもちろん、子どもも一緒に仲むつまじく暮らすというモデルが理想化された。社会学者もそれを尺度に民主化の度合いを図ってきた。

「近代家族」がモデル化されるようになったのは、文字通り、近代になってからだ。

「近代国家は、子どもを富の源泉であると考え、出産や教育を管理の対象とし、国家に取り込んできました。国家は、家族を基礎的な概念として、人口を増やす政策を取りました」。冒頭に引用したような近代家族はこうした時代背景の中で一般化されてきた。

「家族」の歴史

しかし、1970年代からそうした家族のあり方の自明性が崩れてきたと千田教授は説明する。

「例えば、フランスの歴史学者アリエスは『〈子供〉の誕生』という本の中で、〈子供〉というカテゴリーが生まれる過程を明らかにしました。前近代社会において、子どもは特別な配慮がいる存在とは考えられておらず、働けない子どもは足手まといだと思われていました。社会が子どもに愛情を感じなくても不思議ではない時代があったということです」

「また、フランスの社会学者のバタンテールは『母性という神話』という本の中で、前近代社会においては、母親が子どもを里子に出すことを当たり前のことと考え、子どもに関心のない母親の姿を明らかにしました」

近代家族が当たり前としてきた家族のあり方は、このような歴史研究によって当たり前のことではないと認識されるようになった。「伝統的な家族」を強調する言説に対しては、こうした研究を踏まえる必要がある。

共働き革命の遅れ

アメリカでは、第二次世界大戦後に近代家族が大量に生まれた、と千田教授は説明する。

「退役軍人たちが工場や職場に戻ってくると、女性たちが専業主婦になり、近代家族がたくさん生まれました」

「でも、その破綻もものすごく早かった」と千田教授は指摘する。

「女性運動の指導者であるベティ・フリーダンは『女らしさの神話』(邦題『新しい女性の創造』)という本の中で、郊外に住む専業主婦にインタビューしています。すると、物質的には豊かなはずの彼女たちが、アルコールや睡眠薬に依存して、幸せを感じられない日常を過ごしていることがわかりました。当時、公民権運動が全米で盛り上がる中で、男女平等の運動も盛んになり、アメリカでは離婚率が上がっていました。近代家族はこの時点で崩壊していたわけです」

一方、日本で近代家族が一般化するのは、アメリカに比べて遅かった。

「当時の日本は戦後復興から高度経済成長期に入り、農業人口が減少し、雇用労働者が量的に増える時代でした。その中で近代家族が広がりました。アメリカなどに比べると約20年近いタイムラグがあります。フリーダンが指摘したような問題が日本で表面化するのは80年代に入ってからです」

このタイムラグが、日本が共働き社会への移行が遅れた一つの要因だと千田教授は指摘する。

「アメリカは1970年代から共働き社会に移行しはじめますが、日本はそれへの対応がかなり遅れました。自民党は1979年に『日本型福祉社会』を提唱し、1985年には第3号被保険者制度をつくるなど、男性正社員中心の近代家族モデルで乗り切ろうとしてきました。しかし、共働き革命をしてこなかったことがグローバル化の波を乗り越えようとする今になって大きなネックになっています」と千田教授は強調する。

家族を支えるための仕組みを

日本の家族が今抱えている課題とは何か。千田教授は、「日本型近代家族は、父親が終身雇用で年功序列、離婚しないことを前提に成り立っています。でも今は、不安定な雇用や低賃金の仕事も多い。離婚率も上がっています。今までのモデルではやっていけないことを肝に銘じないといけない」と強調する。

「男性稼ぎ主中心モデルが崩れて、共働き世帯が増加しています。けれど、日本型福祉社会では企業と家族に福祉を担わせてきたので、家族を支えるインフラがほとんど整っていません。女性の非正規雇用や保育園不足といった問題はその象徴です」

千田教授は共働き世帯へのサポートやケアワークへの公的支出の拡大などを訴える。

「例えば、男性が育児休業を取ろうとしても、実際に職場で言い出す難しさは、いまだにあります。だからスウェーデンのように男性にも育児休業を割りあてて必ず取らないといけないようにするとか、大胆な改革をしないと出生率は上がらないと思います」

機能不全に陥らせない

貧困や機能不全に陥った家族へのサポートも課題だ。児童虐待やネグレクト(育児放棄)といった問題に対応するためには、機能不全に陥らないための支援や、一定の場合には介入も求められる。

それに加えて今後、未婚化がさらに進むと見られている。

「非正規雇用のシングルの人たちが、今後親からの支援がなくなってシビアな状況になることも予想されます」

家族へのサポートがなければ、家族を形成できない人たちが増えている。千田教授は冒頭の書籍の中で、こう書いている。

〈全ての福祉や感情処理の機能を、「家庭」だけに任せるのではなく、問題が「家庭」の能力を超える場合には即座に他のシステムに依頼できる社会をつくり、「家庭」を社会に開いていくことよって、逆説的にだが家庭は、「親密性」の場としての地位を占めることができるようになるのではないか〉

時代とともに家族のあり方は変わる。今の時代に合わせた家族を支えるためにどのような仕組みを構築すべきか。喫緊の課題だ。

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