特集2018.04

家族の視点から働き方を見直す「仕事」と「家族」「男性・世帯主」モデルの見直しへ
ジェンダーの視点で労働法を考える

2018/04/16
働き方のルールを定める労働法は、「男性・世帯主」モデルを中心に構築されてきた。ジェンダーの視点から労働法を見直すことで何が見えてくるのか。
黒岩 容子 日本女子大ほか
非常勤講師
弁護士

こぼれ落ちた視点

「労働法が戦後、整備された際、法がイメージした労働者像は男性労働者の働き方でした。そのため、女性や家族責任を持っている人などを含む、プライベートな領域は労働法の視点からこぼれ落ちてしまいました」

労働法とジェンダーの関係に詳しい黒岩容子さんはこう解説する。戦後直後の労働法がモデルとしてきた労働者は「男性・世帯主」モデルだった。そのため家族的責任やプライベートな生活の重要性に対する認識が欠けてしまったという指摘だ。

そうした労働法のあり方は判例にも影響を及ぼしてきた。例えば、裁判所は、配転命令や残業・休日出勤に関して、使用者の広範な指揮命令権を認めてきた(東亜ペイント事件や日立製作所武蔵工場事件など)。こうした時代背景の中で、「男性正社員には長時間労働と遠隔地への配転を含む柔軟性を持たせる一方、女性には家族的な責任を担ってもらう。さらに女性は、長時間労働などに応じられない〈二級〉の労働者として低賃金・不安定な労働力として位置付けられてきました」と黒岩さんは説明する。

こうした雇用構造は、男性正社員に過労死を含む過重労働を課すのみならず、男女の賃金格差や、家事・育児負担の女性への偏重といった問題の温床となってきた。ジェンダーの視点で労働法を分析することは、こうした雇用構造のあり方を見直すことにつながる。

黒岩さんは、「ジェンダーの視点からのアプローチは、従来の『男性・世帯主モデル』の労働者像や『私的生活を無視した』働き方から、『職業生活と私的生活の両面を持つ、トータルな人間』としての労働者像を土台とすることで、『ジェンダー平等な、職業生活と私生活を調和した働き方』への転換を訴えています」と強調する。

ジェンダー視点のアプローチ

ジェンダーの視点からのアプローチとして、黒岩さんは、(1)労働時間(長時間労働)(2)配転(3)非正規雇用─という三つの課題を挙げる。

(1)の労働時間について黒岩さんは、「残業・休日出勤を命じる要件や範囲に対する判例法理・法的規制は極めて緩いものしかありません。育児介護休業法などにおいて残業を拒否できる規定が一部にありますが、一般の労働者は就業規則に残業の規定があれば拒否することは難しいのが現状です。そのため、残業ができる人とできない人とで待遇や人事コースなどに格差が生じてしまう。すべての労働者がライフスタイルに合わせて残業を拒否できるような法制度を一般化しなければ、実効性は出てきません」と強調する。

具体的な方法として黒岩さんは、時間外労働・休日労働には、毎回本人の同意を要件とするとともに上限規制や勤務間インターバル制度を導入することが必要だと指摘する。また、このような「生活時間」や「労働者の時間主権」といった観点からのアプローチがジェンダー平等を実現するためにも重要だと訴える。「生活時間」からのアプローチは、これまで労働法の視点からこぼれ落ちてきたプライベートの領域から労働時間のあり方を見直す考え方で、労働法学者などが提起している。

配転の見直しと雇用形態間格差の是正

(2)の配転について黒岩さんは、「配転は、就業規則に包括的な配転命令の条項や事前の包括的な同意があれば、個別の具体的な同意がなくても配転命令権が認められる判例(権利濫用の場合は規制される)があるように、使用者に広範な配転命令権が認められています。育児介護休業法は、配転に関する配慮義務を定めていますが、配慮にとどまっています。一般の労働者を含めて、かつ家族的責任を負っている人にはより厚く規制をかけることが重要です」と指摘する。

また、妊娠・出産した女性の昇進・昇格などについて、「日本企業には配転をさせながら社員を育成するという考え方がありますが、それによって昇進・昇格などに格差を設ける現状の見直しも必要だと思います。育成手法の改善や、出産休暇はマイナス評価しないとか、復職後のサポート体制を強化するといった支援策が必要です」と訴える。

(3)の非正規雇用について黒岩さんは、「パートタイム労働法や労働契約法で、雇用形態間の不合理な労働条件が禁止されています。しかし、同一の職務内容や配置の変更の範囲などが前提となっているため、対象になる範囲が狭いという問題があります。労働契約法20条に関する裁判が複数起きていますが、まだ一部の事案が違法とされ始めたばかりです。コース別人事管理における賃金格差も見直す必要があります」と話す。

重要な間接差別禁止規定の強化

男女間格差の是正に向けて重要なのは、間接差別禁止規定の強化だ。

黒岩さんは、「現在の性差別禁止法制は、女性がパートで働かざるを得ず、低賃金・不安定雇用になっているという構造的差別に対して有効に機能していません」と強調する。

「間接差別禁止法理は、性中立的な制度から生じた性差別的な効果に着目して、その制度や取り扱いが正当化されない限り性差別として禁止する考え方です。例えば、EUではパート労働者に対する差別は、多くの女性にとって不利益になることから間接差別禁止の法理に基づいて違法とされています」

「日本も均等法の改正で間接差別の禁止が導入されましたが、その対象が省令で三つの場合に限定されてしまっています。少なくともパート労働を理由とする低処遇や世帯主条項は間接差別禁止の対象とすることが重要です」

プロセスに当事者の声の反映を

こうした既存の法律の見直しに加えて、女性活躍推進法のような新しい枠組みの法律も充実化が求められると黒岩さんは指摘する。

「女性活躍推進法の発想は評価しますが、内容は不十分だと思います。例えば、法は行動計画の策定に関して、四つの事項の分析・把握を義務化していますが、それだけでは項目が少なすぎます。また、実効性確保の仕組みが弱いことが最大の問題です。行動計画の策定からその実行、その後の見直しを含めて実施させるための措置を法律に盛り込まなくてはいけません」

黒岩さんは、こうした改善プロセスの実効性を高めるために労働組合の役割が重要だと指摘する。

「欧米では制度設計や運用への労働者や労働組合の参加が提起されています。行動計画に労働者や労働組合の意見を反映させ、実効性を確保するためにも、一連のプロセスを労使協議のもとに進めること、そのために労使委員会を設定することなどが非常に重要です」

「その際には、女性や非正規雇用労働者、介護を抱えている人などの声をどれだけ吸収できるかが大切です」と黒岩さんは訴える。「そうした意味では、男性正社員中心だった労働組合の活動のあり方もジェンダーの視点から見直す必要があるはずです」

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