特集2018.04

家族の視点から働き方を見直す「仕事」と「家族」ポスト工業化で変わる家族のモデル
働き方改革と社会保障改革はセットで

2018/04/16
産業構造の移り変わりは家族の形成にどのような影響を及ぼしてきたのか。ポスト工業化時代における家族のあり方を考える。
筒井 淳也 立命館大学教授
専門は社会学(理論・計量分析)、経済社会学・家族社会学。著書に『仕事と家族』(中公新書)、『結婚と家族のこれから:共働き社会の限界』(光文社新書)など多数。

工業化からポスト工業化へ

工業化以前の経済構造は、農業や家業が中心で、自営的な働き方が主流でした。家族のあり方は、家族同士が仕事の仲間であり、年配の男性を長とする小さな会社のような存在でした。

工業化が進むと、会社に雇われる働き方が一般化し、それに伴い家族のあり方も変化しました。工業化の最初期は、子どもも含めて家族全員が雇われていましたが、それでは家庭生活を再生産できません。そのため、男性に家族賃金を与えて、女性と子どもを仕事場から撤退させる方法が取られるようになりました。その一つのきっかけが工場法です。工場法は性別や年齢の制限を設け、女性や子どもを工場から引き離しました。こうして工業社会において、男性は雇われて働き、女性は家にいるという性別役割分業が確立していきました。

ポスト工業化社会の現代は、そうした状態からも脱しつつあります。女性が雇われて働くようになり、共働き社会へと移行しています。

ポスト工業化社会の働き方

ポスト工業化社会で共働きが一般化する理由については、いくつかの説があります。

一つは、マニュアル労働からサービス労働へと産業構造が変わり、労働市場への女性の参入余地が大きくなったことです。ただ、この説明だけでは、工業化の初期には女性もマニュアル労働に参加していたことを踏まえると十分な説明になりません。

二つ目の理由は、ポスト工業化社会において男性の雇用や賃金が不安定化したことです。そのため家計を補うべく女性が働くようになりました。世界的にも1980年代くらいから、雇用の不安定化を「共働き体制」で乗り切ろうという戦略の変化が起こりました。

三つ目の理由は、社会の高齢化です。社会が高齢化すると福祉関係の仕事が増えます。福祉の仕事は女性が伝統的に担ってきたので、女性の雇用が増えます。

このように、仕事と家族のあり方は、家業の時代から、工業化に伴う性別役割分業の時代、そしてポスト工業化社会における共働き社会の時代というように変化しています。

各国が取った「三つのルート」

工業化からポスト工業化への各国の対応には、「三つのルート」があります。各国は、それぞれのルートで、安定した経済成長が見込めないポスト工業化の時代を乗り切ろうとしてきました。

一つ目のルートは、経済の不調を規制緩和で乗り切ろうとしたアメリカ型のルートです。二つ目は、公的支出により雇用を拡大した北欧型のルートです。三つ目は、早期退職などで労働力を縮小しようとしたドイツ型のルートです。

これらの国々の対応は、働き方にも影響を及ぼしました。アメリカは、規制緩和にプラスして、差別への強烈な対抗意識があったので、職場での男女差別が厳しく禁止されました。そのため、女性は男性と同じように働き、稼いだお金でケアワーカーを雇って代わりに家事などをやってもらうという戦略を立てました。北欧型のスウェーデンは、公的なケアワーカーとして女性を雇用し、共働き戦略で税収を支えました。一方、労働力を縮小したドイツは、働き手を減らすという戦略の中で、女性労働者を積極的に活用しようとしませんでした。その結果、アメリカとスウェーデンでは、女性の雇用が拡大しました。女性の雇用の拡大は、近年では出生率の向上につながっています。

日本がたどった別ルート

日本は、「三つのルート」とは根本的に異なるルートをたどってきました。1980年代の日本は、他国に比べて経済が好調で、大量失業に悩む他国のように国のあり方を変えようという雰囲気がありませんでした。むしろ当時は、男性が「24時間」働き続け、会社がそれに報いるようなあり方が一般化されており、そうした雇用のあり方が世界的に評価されたこともあって、働き方を変えようという議論につながりませんでした。日本の働き方は、労働時間と勤務地、職務内容が無限定で、会社の命令に従うことで安定した賃金を退職まで得るというものでした。

しかし、1990年代後半になると、こうした無限定な働き方に対する評価は一変しました。日本的な働き方は、出生率の低下という「国難」を生み出した最大の要因となってしまいました。

女性の立場になって考えてみてください。例えば、男女のカップルが大卒で働き始めるとします。高賃金の職は、大抵の場合、先ほどの無限定性を引き受けなければなりません。でも、カップルが二人とも無限定な職に就いてしまうと将来の結婚は考えづらくなります。近い将来どこに住むのかわからない、どれくらい労働時間があるかわからない。カップルが結婚して、両親ともがこのような働き方をすることは無理なのです。

私は、結婚や出産、育児などの人生上のイベントを「家族キャリア」と呼んでいますが、カップルがどちらも日本的な働き方をしている場合、「家族キャリア」を描くことができなくなってしまいます。

こうして女性は、日本的な働き方の中で仕事のキャリアを積み重ねるか、自分の仕事のキャリアを諦めて結婚するかを選択しなければなりません。さらに、後者の場合でも、自分の収入が減るとなれば、男性の安定した収入に頼らなければなりません。しかし、男性の雇用も不安定化しています。こうして結婚を選ぶ人が減り、それが出生率の低下に結びついています。

働き方の見直しが出発点

現状の問題は、さまざまな要因が絡み合って生じています。ただ、どこかを最初に変えるとすれば、働き方の見直しが出発点になってしかるべきです。

それには、無限定な働き方を見直し、共働き戦略を機能させることです。まずは、労働時間の規制をもっと厳しく大胆に行うことです。残業を原則なしとし、それでやりきれない仕事はやらない。そこをスタートラインにして、副作用が生じたら見直していけばいいと思います。

次は、転居を伴う異動を制限することです。もう一つは、無限定な配置転換を見直し、専門的な能力を高めることです。専門的な能力がないと離職後に再就職しにくいためです。

このように無限定な働き方を限定する話をすると、「限定社員は解雇されやすい」などの反論が出てきます。しかし、制度を変えれば何かしらの副作用が生じるのは仕方がありません。限定的な働き方を増やしながら副作用を抑えるための仕組みをつくる、ということが求められています。

そのためには、限定的な社員でも解雇や雇い止めの論理が乱用されないようチェックすることや、解雇された場合でも比較的安心なセーフティーネットをつくることが必要です。働き方改革は、働き方だけではなく、社会保障などの制度などとセットで実現していかなければなりません。現在は、後者の議論が不十分だと思います。

こうした改革を実現するために、皆さんには家族キャリアから「逆算」して働き方とは何かを考えてほしいと思います。人々がパートナーと出会い、結婚し、子どもを育てることができる働き方は何かを考えれば、今の働き方のどこを変えるべきかが自ずと見えてくるはずです。従来の男性的な働き方をひたすら守ることでは、これらの改革は実現できません。

専業主婦世帯と共働き世帯
労働政策研究・研修機構(JILPT)
資料出所 厚生労働省「厚生労働白書」、内閣府「男女共同参画白書」、総務省「労働力調査特別調査」、総務省「労働力調査(詳細集計)」
注1 「専業主婦世帯」は、夫が非農林業雇用者で妻が非就業者(非労働力人口及び完全失業者)の世帯
注2 「共働き世帯」は、夫婦ともに非農林業雇用者の世帯
注3 2011年は岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果
特集 2018.04家族の視点から働き方を見直す「仕事」と「家族」
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