特集2018.04

家族の視点から働き方を見直す「仕事」と「家族」夫婦のすれ違いはなぜ起きるのか
「夫に死んでほしい妻たち」の気持ち

2018/04/16
家族のあり方が変化する中で、関係が冷え込む夫婦もいる。夫婦のすれ違いはなぜ起きるのか。『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新書)を書いたジャーナリストの小林美希さんに聞いた。
小林 美希 ジャーナリスト

─妻たちが夫に不満を抱く理由は?

子育て中の夫婦、特に共働き世帯だと妻の不満が大きくなります。夫婦で働いているのに家事や育児を担うのはすべて妻。さも当たり前のように妻側に負担がのしかかってくることに女性たちは不満を抱いています。

今の子育て世代は、男女平等の意識を持って成長してきました。なのに、子育て期に入ると妻だけに負担がのしかかる。女性たちは、「女だからって、なぜ自分ばかり大変な思いをするのか」と憤りを覚えます。片や男性はというと、男性というだけで相も変わらず、子どもが生まれる前と同じような生活をしている。こうしたアンバランスさが妻たちの不満の大きな要因になっています。

─共働きの場合、職場でも大変な思いをする女性が多いです。

女性の場合、職場でも妊娠・出産に関してさまざまな不利益を被っています。妊娠を理由に解雇や雇い止めをされたり、育児を理由に大事なプロジェクトを外されたり。違法行為はなくても、仕事を辞める女性はたくさんいます。

出産後、パートや時短勤務をすると夫よりもどうしても収入が低くなってしまいます。育児休業や時短勤務自体は悪いことではありません。でも、それを家庭内に落とし込むと、賃金の高い夫の仕事を優先する結果につながります。おのずと、子どもが熱を出したら妻が休むのが当然のようになり、夫に休んでほしいと伝えると「俺が左遷されてもいいのか」と脅しが始まる。妻にしても自分の仕事があって休めないのに、結局負担を全部抱えて、不満がさらに募っていきます。

─そうした不満が「死んでほしい」というところまで募っていく。

「死んでほしい」というのは、「プチンとキレる」感覚に似ています。本にも書きましたが、例えば子どもを保育園に送り出そうとしていたら子どもが言うことを聞いてくれない。妻は自分の仕事もあるので子どもを早く保育園に連れて行きたい。そうやって子どもと格闘しているのに、夫は隣でゆったりとコーヒーを飲んで、人ごとのように過ごしている。そうすると日頃の不満が瞬間的に湧き上がってきて、「あいつ死ね」「こんなやつ、いてもいなくても一緒だ」と思うようになる。「いても、いなくても一緒」というのは、「死ね」というのとほとんど同じ意味です。

「死んでほしい」と思うきっかけになるのは、家を買うときが多いです。夫が死ねばローンが全額弁済されることがわかるからです。それに気付くと、いてもいなくても一緒、むしろ邪魔なくらいな夫であれば、「いっそ死んでくれた方がいい」という風になります。そうすれば、住宅ローンを払わなくてもいいですし、生命保険もおります。

─離婚するより死んでもらった方がいい?

離婚をするケースは、DVだったり、夫の借金癖がひどかったり、離婚した方がその後の苦労も苦労と思えなくなるようなケースが多いように思います。シングルマザーは経済的に厳しいのが現実なので。でも、そうではなくて、家計を支えるとか、夫が何かしら役に立っている場合は離婚まではいきません。けれども、夫に対する愛情はありません。

─そういう状態になるまでにどのくらいの時間がかかりますか?

子育て中の夫婦に限っていえば、妻が妊娠してから子どもが1歳になるくらいまでの間が勝負です。

妻は、妊娠がわかってから職場で不利益を被ったり、将来に不安を感じたり、その時点で傷つくことが多いです。出産後は、夫が残業で家に帰ってこないと、子どもと二人だけの生活が始まります。右も左もわからない中で家事・育児の負担をすべて抱えて不満を募らせていく。そこで夫婦の関係は一気に冷え込んでしまいます。

─「死んでほしい」と思われないように夫は何をすべきですか。

できることはすべてやることです。母親にしかできないことは妊娠と出産と授乳だけです。だから、それ以外のことは全部やるべきです。産後の妻は身体が整っていないので、妻の休息も含めてフォローすべきです。

─当然、残業はできませんね。

残業はダメですね。育児休業を取ったり、それが無理でも夜中にご飯をつくっておくとか、お皿を洗っておくとか、それくらいはしないといけません。

かつては、家族や親せきが近くに住んでいたり、近所の付き合いで助け合ったりという環境がありました。今はそうしたサポートがまるっきりない中で、子育てをしている夫婦が増えています。四六時中、すべて自己責任で育児をしなければならない環境では、夫の担うところが大きくなるのは仕方ありません。

─子どもがもう少し成長した夫婦の場合は?

子どもが乳幼児期を過ぎてしまった夫でも、遅くはありません。記念日を忘れないとか、料理をするのでもいいです。やれることがあれば少しずつでも家事をしてほしいと思います。

子どもが成長しても、受験や思春期など、子どもに関する悩みは尽きません。そこで妻の相談にきちんと乗る。「あうんの呼吸」では通用しません。その意味では、妻も自分の思いを夫に伝える必要があります。

─「今さら遅い」とか「帰っても帰らなくても一緒」という男性の声も聞こえてきそうです。

そのように言う男性たちは、自分が介護状態になった時、妻が面倒を見てくれるとたぶん思っています。でも、妻は絶対に面倒を見ません。夫が弱ってくるのを見計らって三くだり半を突き付けてきます。妻は、その時に向けて着々と準備をしています。

─夫は早く帰ることが大切ですね。職場の改善をどう進めればいいでしょう。

なぜ長時間労働になるのか、事情は職場によって違います。実情に合わせて変えていくしかありません。労働組合の役割はそこにあると思います。労働組合には、職場の事情に合わせて解決方法を見いだす力があります。

─仕組みとして必要なサポートは?

社会環境が家族を壊しているという感じですよね。もっと職場の理解があれば夫も早く帰れるのに……。労働力人口の減少を踏まえると、今後も共働き世帯は増えていくはずです。共働きを前提とした働き方や社会保障のあり方を考えないといけません。

働き方で言えば、やはり女性の非正規雇用の問題を見直す必要があります。妊娠・出産期の女性のおよそ半分は非正規雇用です。異様な高さだと思います。働き方と社会保障の仕組みを大胆に見直す必要があります。

─労働組合に期待することは?

労働組合の集まりには必ず子どもを連れてきていいとか、楽しくて、参加しやすい活動をしてほしいです。日常の活動でも子どもを連れてきていいようにしないと、子育てをしている人たちの意見を活動に反映させることができません。

例えば、組合員の妻に集会に参加してもらって、夫の働き方について意見を述べてもらうのはどうですか。そういうふうに家族の意見を組合活動に取り込んでいくべきだと思います。

労働と社会のシステムを変えるのは時間が掛かります。その前に夫婦で話し合うことで、敵だと思っていたのは夫ではなくて、夫の上司だったと気付くかもしれません。夫婦でコミュニケーションを取ってください。

特集 2018.04家族の視点から働き方を見直す「仕事」と「家族」
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